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*フィクション* だから、今夜もオレは飲まない。

「山田さん、今夜も山田さんの隣りに座ってもいいですか?まだ隣り、空いてますか?」

会社の飲み会で、オレはアルコールを飲まないと決めている。イヤ、飲めないと言った方が正解かもしれないが…

学生時代、初めて友達とビールを飲んで、救急車で運ばれた。オレはアルコールが分解できない、めっちゃ弱々な細胞の持ち主だと判明したのだから。
ウソだろ⁈と言う友達を連れて、ご丁寧に病院で検査まで受けたんだ。案の定、飲めませんの判定を食らい、診断書を貰ったのは懐かしい二十歳の思い出だ。

就職して飲みの席があっても、オレは診断書を見せて、『飲めません』を通してきた。
そのうち飲めるようになるだの、一杯くらいだの、数えきれない程の面倒にうんざりしてた。仕事の付き合い上、出席するのは仕方ないのだけれど、このやり取り、なんとかならないのかよ毎回毎回…


いい加減ウンザリしてた頃、アルハラ嫌いで、オレよりちょっとだけ酒に強い彼女が入社して来た。
好みかどうかはまだわからんが、悪くはない…かな。

前の会社の飲みの席で、相当イヤなことがあったらしいと、女の子達が騒いでいた。
『お金払って、そういうお店に行けばいいんですよね!』

 (ーー; 何やったんだよ、前の会社の奴ら。)

仮にも独身の女の子だぜ?イヤ、独身は関係ないか。グラスが空く前にお酌しろとかたまに言う上司いるけどさ、飲まない側からすると、迷惑なのかもなぁって思ってやらないんだってことが、なんでわかんないんだよ。だからさ、グイグイ飲ませたがるお店に行って、1cmでも減ったら注いでもらえばイイんだよ。
_______

今晩の飲み会は暑気払か…ま、仕方ない。
半期に一度の製造部全体の飲み会だからなぁ。
殆ど強制出席みたいなもんだし。今日の店は昼間もやってる所で、行ってみたいと思ってた所だし。
彼女の席の予約も入ったし。
(なんか喜んでるな オレ)

「助けて山田さん!」

店全体が喧騒の渦と化した頃、彼女がオレの肩に手をかけた。振り返ると完全に出来上がった上司が、
彼女に触手を伸ばそうとしていた。

オイオイ、辞めとけって。明日になったら後悔するぞ。同じグループ同士の上司と部下だろ?
お前が一瞬だけウキウキした気分になって、眠りについて忘れたとしても、彼女は毎日お前の顔を見るたびに今の狼藉を思い出しながら仕事して、お前を蔑むのが分からないのか?

 ……同じ男として情けない前に、腹立つな。

「課長、お相手はボクが務めますよ。さぁ!何をお飲みになるのです?おっ!さすが課長、冷酒にされたのですか、なるほどですねぇ〜。氷も要りますか?はいはい、お待ちくださいね、すみませぇ〜ん!」

(オレの右側に来なよ。壁との間にさ。大丈夫、隠してあげるから。オレ?大丈夫だよ。飲まないよ。
任せとけって。ちゃんとキミを守るから、さ。
最後までいるんだろ?
……そっか、うん、わかった。じゃ、適当なところで出ようよ。大丈夫、今日の幹事はオレの同期だから上手くやるさ。
オレ?飲んでないもん。シラフだよ。大丈夫。
……送っていくよ。)


——だから、今夜もオレは飲まない。