バス停の惨事

いつも通りの帰り道、地下鉄からバスへの乗り換えのため、地上へと階段を上りきり、西日の眩しさを受け止めた瞬間だった。

ぐしゃっという大きな音をたて、私の目の前でワンボックスカーとバイクが衝突したのだ。バイクは見る影もない無残な姿。運転手の無事を案じた。が、そんな心配をよそに、男性は瞬時に立ち上がり現場から走り出した。見るからにあやしい出で立ちの男性はこちらに向かって走ってくる。現場に散乱するザックやスマホ、もちろんバイクも置き去りでこちらに向かって走ってくる。何が起こっているのかわからないまま私は恐怖で立ちすくみ、彼が直前で方向を変え歩道橋を駆け上ったことに安堵した。そのとき、けたたましい笛の音がした。今度は警官が何か叫びながらこちらに向かって走ってくるのだ。彼もまた私の寸前で歩道橋へと進路を変えた。

想像するに、こうだ。悪事を働きバイクで逃走をはかった犯人は、無茶な運転の末、ワンボックスカーに衝突。事故の衝撃もなんのその、お次は自らの足で逃走劇を繰り広げたというわけだ。

騒然とする現場。繁華街の歩道橋からは何が起こったのだと言わんばかりに人々が地上を見下ろしている。言うまでもなく視線は横たわるバイクに最も近い場所にいた生身の人間である無関係の私に集中していた。数秒のあいだ芸能人にでもなった気分に陥ったことはここだけの秘密にしておきたい。数分と経たないうちに御用となった男と警官が階段をゆっくりとおりてきた。男は身体検査を受けるあいだ、暴言を吐いたり、暴れたり、無駄な抵抗を続けている様子であった。

と、予定のバスが来た。この惨事を見物していた数人のバス待ち人たちは、何事もなかったかのようにバスに乗り込んでいった。もちろん私もだ。

ところでバイクにぶつかられた形となったワンボックスカーはどうなったのか。バスで通り過ぎるとき、警官に促され車の中から運転手がやっと出てきた。弱々しく出てきたのは若そうな細身の女性であった。一方的にぶつかられ、車体の前方と地面にバイクが挟まって身動きが取れなくなった状態で、数分間どのような気持ちであっただろうか。気の毒だ。言っては悪いが、補償能力もなさそうな男であった。この後彼女に待ち受けていることを考えると激しく同情する。と言いながらも今夜のニュースで事件の全貌が明かされるのかどうかわくわくしている私とは、なんと浅ましい人間なのだろうか。

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