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若者のすべて

真夏のピークが去った 天気予報士がテレビで言ってた
それでも未だに街は 落ち着かないような気がしている

8月の終わり。残暑は続くものの、夕方になると少し涼しい風が吹き始める、夕焼けが綺麗に見える季節。
そんな景色が浮かんでくる。
夏本番の煌びやかな空気は無くなったが、その余韻とともに、街はまだ少しそわそわしている

夕方5時のチャイムが 今日はなんだか胸に響いて
運命なんて便利なもので ぼんやりさせて

最後の花火に今年もなったな
何年経っても思い出してしまうな
ないかな ないよな きっとね いないよな
会ったら言えるかな まぶた閉じて浮かべているよ

主人公は、忘れられない記憶に思いを馳せている。
いつかの夏に恋した人のことが、忘れられないのだ。夏が来ると、花火を見ると、その人のことを思い出してしまう。
しかし、彼は大人になって、諦めがつくようになってしまった。運命を言い訳にすることによって。

世界の約束を知って それなりになって また戻って
街灯の明かりがまた 一つ点いて 帰りを急ぐよ
途切れた夢の続きを取り戻したくなって

世界の約束とは、運命と同じで、世の中どうにもならないこともあるということだろう。彼は分かっているので、それなりのところまで想いを抑えることはできる。
なのに、やはり夏という時間は、やるせない恋心を彼に思い出させてしまう。

すりむいたまま 僕はそっと歩き出して

そうしてどうしようもない焦燥に駆られた彼は、今年最後の花火大会へと足を運ぶ。
記憶の中のあの人に会えるという淡い期待と、会えないだろうという諦め、そして何より、会いたいという想いを胸に。

ないかな ないよな なんてね 思ってた
まいったな まいったな 話すことに迷うな

彼は何を感じた?驚き、喜び、感動、あるいは「運命」への感謝だろうか。あらゆる感情が一気に胸に流れ込んで、ハッと息を呑み、一瞬世界が止まるような感覚だろう。
まさか会えるとは思わなかった彼女が、そこに立っていたのだから。

最後の最後の花火が花火が終わったら
僕らは変わるかな 同じ空を見上げているよ

今までは「終わり」の象徴だった花火が、「始まり」の象徴へと変わる。
最後の花火が終わった瞬間、きっと彼らは今までと全く違うふたりになっているのだろう。


この曲が名曲と評される理由は、若者の心情と夏の切なさを繊細に描き出すからだろう。
だけど、それだけではない。
この曲が名曲と言われるのは、すべての人の記憶に寄り添ってくれる曲だからではないだろうか。

この曲の世界観というのは、いい意味でない。
聴いた人が思い浮かべた情景が、この曲の世界観になる。
映画で見た夏の一幕。ただ妄想しただけの夏の一幕。はたまた、脳裏に焼き付いて離れない夏の一幕。
ひとりひとりの「夏の一幕」へと連れて行き、ノスタルジックな時間を過ごさせてくれる。
この曲には、そんな魔力がある。

私が思い出すのは、高校のソフトテニス部の面々だ。
夕方学校のテニスコートで練習していたら、夕立が降り出して、急いでボールを拾って屋根の下に駆け込んだ。
ドロドロになった脚とボールを拭きながら、他愛もない話をする。内容なんて全く覚えていないけど、息が苦しくなるぐらい大笑いしたことと、同じように笑っていたみんなの顔は覚えている。
そして雨が止み、夕日に照らされながら、自転車を漕いで帰るのだ。

この曲のテーマとは全く関係ない。
それでもこの曲は、私が高校時代の風景を思い出すことを受け入れてくれる。
そして、穏やかな郷愁と心地よい切なさを、私に感じさせるのだ。

夕方降り出した雨を見てこの曲を思い出し、この曲について書かずにいられなくなった、平成最後の夏の一日だった。

若者のすべて / フジファブリック
作詞 志村正彦

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