恨む相手
祖父はとてもやさしい人でした。
一度戦争について話してくれたことがあります。
死より嫌だったこと、それは人を憎むことだ、と。
祖父は、大学の途中に赤紙が来て、出兵しました。
毎日のように上官(歳が上)が部下を一列に並べといっては、
スリッパで(手は痛くなるから)殴られたらしいです。
自分は偉そうにして、笑っていた。
その時に、いつかあいつに復讐してやる、こいつの顔だけは忘れないと誓ったそうです。
いろんな部隊に移転し、前線に出ることもなく、無事に帰還しました。
戦後、祖父は大学に入り直して勉強し、会社経営者になりました。
20年ぐらい経ったある日、祖父が、どこかの駅で歩いていたら、ゴミを漁るホームレスを何気なく見たら、それがあの時殴った上官だったと。
忘れもしない、あの顔だ、と。
祖父はびっくりして、ショックで、その人の後を付けてみた、惨めな姿だったって。あんなのを恨んでいたのか、恨む価値もないって、
なんだったんだ?と思ったらしいです。
で、戦争は嫌だな、って言ってました。
そんな窮地に立ったことがない私は、祖父の心の広さは、
そんな経験をしたからだ、と改めて思った。
できるだけ、人の悪口を言わず、優しく生きていきたい、と思った。
いじわるだからな。あたしは。