
第1回(全4回)気候変動 どう行動する?
改訂1 2025/1/27 2項 出典追記、出典先リンク追加
1.本論の目的
すでに気候変動問題はその現象が人間活動に起因することが明確になりました。そしてどのような行動が根本的な解決になるのかも、さまざまな研究によって見えてきています。
一方で気候変動問題の情報を集め続けて心配するだけにとどまっているのが大半だろうと思います。危機に対する心の準備をするという、偽りの安堵感を得ている状況と言えます。
ここでは、すでに提示されているさまざまな情報を踏まえ、実際に行動に移すための指針を整理します。
2.参照する資料
本論は以下の書籍を元に考えをまとめたものです。
「資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか」ナンシー・フレイザー(著)、江口泰子(訳)、ちくま新書
「資本主義の次に来る世界」ジェイソン・ヒッケル(著)、野中香方子(訳)、東洋経済
「現代気候変動入門」アンドリュー・E・デスラー(著)、神沢博(監訳)、石本美智(訳)、名古屋大学出版会
「世界一クールな気候変動入門 情報を正しく判断するために」ジョン・クック(著)、加納安彦(日本語版監訳)、縣秀彦、海部健三、鴈野重之、小西一也、小林玲子(訳)、河出書房新社
「エビデンスを嫌う人たち」リー・マッキンタイア(著)、西尾義人(訳)、国書刊行会
「独裁体制から民主主義へ 権力に対抗するための教科書」ジーン・シャープ(著)、瀧口範子(訳)、筑摩書房
「資本主義・デモクラシー・エコロジー ――危機の時代の「突破口」を求めて」千葉眞(著)、筑摩書房
3.前提条件
本論では次の理解を前提に進めます。なぜなら研究分野においてはすでに真実と見做されているからです。
反論する人々は懐疑論者とします。その名の通り、人々に気候変動の事実に対しての疑念を生み出すことが目的の人々です。彼らにはそうさせる根本的な課題があり、それは本論で述べる対象ではありません。
(1) 人為的な要因が現在の気候変動を引き起こしていることに疑いの余地はありません。
(2) 気候変動の要素は人口、豊かさ、技術の3つです。そのうちの豊かさは、人口に対しては倫理的に問題がなく、技術に対しては大きな効果が見込めます。
(3) 豊かさの変数を小さくするとはGDPを小さくすることです。そして削減量は、地球環境が自力で二酸化炭素を吸収できる程度にする必要があります。
(4) 以上より、気候変動問題の解決すべき道筋は非常にわかりやすいです。
これらの詳細を自分なりに書いたのは、「気候変動 科学的に検証された情報で話を整理する」 をご参照ください。
気候変動問題の根本的解決を実行に移そうとすると、大きな反発が生じることは明らかです。なぜなら私たち現代社会に生きる者のアイデンティティ2つを危機に陥れるからです。
ひとつ目は「資本主義経済社会システム」、ふたつ目は「民主主義を常識だと思っていること」です。
資本主義は際限なき資本蓄積が唯一の目的です。そのためGDPの削減は資本主義経済社会の否定を意味します。
日本において大多数は資本主義社会システムを肯定しており、否定した瞬間、議論に値しないと見做す人が大半でしょう。
ふたつ目の「民主主義を常識だと思っていること」は、人々に資本主義経済社会システムが自らのアイデンティティの一部だ、と認識させるための背景条件として存在しています。
過半数の総意で社会の動き方が決まる、というのが本当だとしても、その判断材料が誤っているとしたら、ある特定の情報だけが与えられている社会だったとしたら、それは過半数の総意と言えるのか、ということです。
誰かが言っているからそうなんだ、と思っているなら、総意を形成する意志とは言えないでしょう。
気候変動対策の根本的な解決方法が、資本主義の否定と、それを常識だと思っていることを否定しているのです。だからアイデンティティの危機を招き、根本的な解決を阻む社会の原動力になるのです。