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ふるさとの歴史 上越、糸魚川、妙高 3市の郷土史を歩く〈1〉後編 序論 各市町村史刊行に携わった郷土史家 植木宏さんに聞く
上越市史専門委員会中世史部会の副部会長を務めた郷土史家の植木宏さん(86)は上越市と合併した清里、三和、安塚、柿崎、牧、名立の旧町村や糸魚川市、妙高村、妙高高原町の市町村史編さんにも携わった。「地域には長い歴史の物語があり、その中にこれだけは残さなければならないというものがある。それを中心に全体を考えた」と編さん方法を解説する。
自治体史の編さん期間は通常、4~6年だが、上越地域の中心地とされ、歴史事象の豊富な上越市は10年計画で行った。編集委員長を務めた元上越教育大の加藤章さんとは、「全国から編集委員を集め、10年間かけて21巻を出す大掛かりな市史は全国的に珍しいと話していた」と振り返る。また、「これだけは残さなければならないというものが多かった」と、全21巻となった理由を話す。
市町村史の調査は多くの新しい発見をもたらした。植木さんの専門の中世では、上越地域の城跡約160カ所のうち、半分ほどは市町村史の調査で判明した。40~50年ほど前の調査では、参加した社会科クラブの高校生が力になったという。その中から卒業後、市役所や町村役場に入り、市町村史に関わった人も多い。
◇清里、板倉で集落誌も
旧清里村は昭和58年に村史を刊行したが、上越市との合併を前に『清里村五十周年記念誌・集落誌』を刊行し、植木さんが編集長を務めた。集落誌は村内の各集落の概要や歴史などを集落から選出された編集委員が執筆した。
『板倉町史』(平成15年刊)は別巻で集落誌を刊行し、『柿崎町史』(同16年刊)も別編で「近世の各集落の要覧と言うべき」村明細帳などをまとめているなど、近年の市町村史では集落を詳しく紹介する例が増えた。「集落が基本で、集まって村や町になった。総括的な歴史ではなく原点を見る手法もある」とする。
◇現存市町村史より活用を
今後の新たな市町村史について植木さんは、平成の合併前に出されていることと、地域史研究者の減少や教員の多忙化により執筆者がいなくなることから、「刊行は難しいだろう」と考えている。新しいものを作るよりも「現在ある市町村史の活用を」と訴えた。
「地域活性化には歴史をひもとくことが有効で、その歴史は各市町村史に載っている。時間と費用をかけて作ったものなので、講座を開くなど、あらためて活用して、住民が市町村史を読みたいと思うようにしてほしい」と願っていた。
※本投稿は2019.01.31付「上越タイムス」に掲載した記事を投稿しています。文中に出てくる日付等は掲載当時のままです。あらかじめお含みおきください。