③「自損型輸入」とは何か?
拙著『コスパ病』によって、初めて世に知られた「自損型輸入」という言葉は、私が作った言葉です。
なぜ言葉そのものを作ったかというと、この種の輸入の手法、構造、性質、影響を説明する用語そのものが日本には存在しなかったからです。
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一般的な輸入は、たとえば「フランスで食べたチーズが美味しかったから日本に輸入する」、「タイで見かけた民芸品がかわいかったから、日本に輸入する」というふうに、「輸出国で一般的に流通している商品を、国境を超えて日本に輸入する」という形で行われます。
そして、『コスパ病』でもご紹介した「開発輸入」は、例えば「日本では産出しない石油を、アラブ首長国連邦に技術・資金供与を行うことで開発、掘削、精製を支援し、完成品である石油を日本に輸入する」、「日本では生産しないココナッツオイルを、スリランカに資金援助することで栽培、生産を支援し、輸入する」という形で行います。
つまり、「日本では生産、栽培、製造されていないが、日本のために必要な品目を、それを生産、製造する条件を持つ国を支援することで貿易可能な品目に育て上げ、両国経済のために貢献する取引にする」というのが、本来の開発輸入です。
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そして、上記の一般的な輸入、開発輸入とは異なり、「日本でも生産、製造できるし、そうしてきた品目を、日本国内での低価格販売を目的に、人件費と製造コストの低い国に技術、設備、資金を供与し、日本国内の日本人顧客だけを対象に企画、開発、製造、輸入し、それらの品目を製造、販売してきた日本国内の産地と業界に打撃を与える輸入手法」が、自損型輸入です。
これらの商品は、日本の最低賃金、労働基準法が適用されない国々で、日本人が教えた生産・製造方法、品質管理手法によって製造され、日本向けに輸入されるわけですから、それらは「安いけど、品質や機能は悪くない」という厄介な性質を備えています。
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国内の多くの国産企業は、漬物一袋、陶磁器一個でも、たとえ10%でも利益増加を目指して日夜奮闘している一方で、自損型輸入業者は人件費と製造コストの低い国に日本の貴重な技術やノウハウを提供することで、簡単に20%、30%、50%という高い利益を実現できます。
こうして、「引き算」によって実現された売価は、日本国内の法律や製造環境の中で経営活動を行ってきた企業には到底、太刀打ちできる価格ではなく、たった一社でも自損型輸入業者が産地、業界に出現すれば、その産地、業界はたちどころに被害を受け、自社も値下げ、コストダウンをしなければ存続できなくなってしまいます。
その証拠に、ユニクロ、ニトリ、ワークマン、ダイソー等の、『コスパ病』第6章で挙げた自損型輸入業者が君臨する業界は、全て「衰退産業」です。
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自損型輸入とは、業界と企業、すなわち「全体と部分」の成長が正比例しないという特徴を持っている業界だとも言えます。
自国に背を向け、産地と業界に損失を与えて肥え太る自損型輸入業者、恐ろしい存在です。
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