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Part7 建材に要求される耐風性能と水密性能 浸水防止性能を有する設備について
機関誌「建材試験情報」にて、2012年7月号~2016年4月まで連載していた基礎講座「雨/風と建築/建材」(全7回)をNOTEにてアーカイブしています。(一部修正)
最終回Part7は、機関誌2016年4月号からです。
1.はじめに
最近,「浸水防止性能」といわれる性能を持った扉,シャッターおよび止水板が開発され,さまざまな場所に設置され始めています。
この「浸水防止性能」とは近年都市部を中心に頻発している浸水災害において,建物内や地下空間への浸水を食い止め,被害の軽減を図る性能を指します。
そもそも,扉やシャッターには,JIS A 4702(ドアセット)やJIS A 4705(重量シャッター)などに規定される日常の使用において必要な性能(強度,安全,快適性能等)が要求されています。一方で、「浸水防止性能」は,JIS等に規定されていませんでしたが(2016年時点,※1),突発的に起こる災害に対し備えるべき性能であるため,注目されるようになりました。
(※1) 2019年に日本産業規格 JIS A 4716(浸水防止用設備建具型構成部材)として制定されています。
本稿「建材に要求される耐風圧性能と水密性能」では,この「浸水防止性能」を有する設備,それらが開発され始めた背景,また,「浸水防止性能」を評価するための試験方法の概要をご紹介します。
2.浸水災害の原因と対策
近年の都市部を中心に発生する浸水災害は,局地的大雨(ゲリラ豪雨)といわれる猛烈な雨が降ることにより発生しています。気象庁によると,1976年から2014年までのデータにおいて,1時間に80mm以上の雨が観測された回数は,年々増加傾向を示しています(図1)。最近では,1時間に100mmを超える雨量も観測されています。
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図1 1時間降水量80mm以上の年間発生回数
(気象庁:アメダスで見た短時間強雨発生回数の長期変化より)
この大雨によって発生した水がスムーズに排水されれば,浸水災害は発生しません。しかし,近年の都市部には,それを妨げる次の問題点が存在しています。
2.1 アスファルトなど人工的な地表面の増加
最近都市部では見られなくなった水田,畑,その他山地といった土が露出している場所では,雨水を吸水する割合は,総雨量に対し30~40%程度といわれています。
一方,アスファルトやコンクリートなどで覆われた現在の都市部では,その割合は5~10%程度に低下します。そのため,都市部では,地面自体の吸水を期待するのは難しい状況になっています。
2.2 下水道処理能力の限界
現在,都市部に設置されている下水道の雨水処理能力は, 最大で1時間に50~60mm程度と言われています。近年の80mmや100mmといった大雨に対応することは困難な状況です。
2.3 洪水氾濫危険区域への都市の形成
都市部は,河川流域に形成されていることが多く,その多くは洪水氾濫危険区域になっています。洪水氾濫危険区域とは,洪水時の河川水位よりも低い地盤区域を指します。
現在,この洪水氾濫危険区域には日本の人口の50%,総資産の75%が存在していると言われています。大雨により河川水位が上昇し,堤防を越える超水が起こった場合は,低い都市部へと流れこみ,多くの被害発生が予想されます。
以上の問題点に加え,都市部では地下鉄や地下街といった地下空間の利用も増えており,溢れだした水が地下空間へ浸水し被害をもたらすことも考えられ,実際に死亡事故が発生しています。
こうした中,行政では総合的な水害対策として,河川の整備をはじめ,調整池や浸透ますの設置,管きょや首都圏外郭放水路といった地下空間に雨水を貯留する施設などの建設を行っており,一定の効果が出ています。しかし,これらの対策を日本の全都市で行うことは現状では難しく,都市を形成する各戸,各施設などで浸水災害から守る術を持つことが求められ始めています。
そこで近年開発され始めたのが「浸水防止性能」を有する扉,シャッターおよび止水板となります。
3.浸水防止性能を有する設備
「浸水防止性能」を有する扉(写真1),シャッター(写真2)は,一般的に使用されているものと異なり,浸水時に受ける水圧にも耐え得る強度を持ち,かつ,建物内への浸水を遮る性能が要求されます。
そのため,扉自体の剛性を強くするとともに,四周枠と扉との密着性を図ることにより性能を確保しています。一方,鋼製シャッターは,スラット幅が長いため,中間に方立を設けることによって,強度の向上を図っているものもあります。
なお,これら扉,シャッターの中には,完全に水没するような高水位における浸水時において,十分な効果を発揮するものも存在しています。
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写真1 浸水防止性能を有する扉の一例
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写真2 浸水防止性能を有するシャッターの一例
これらに対し,止水板は建物開口部前に設置されるもので(写真3),収納や操作性に優れたものが多く,止水板を連結して幅・高さを変更するものや,浸水時の水圧を利用して自動的に起伏するものもあります。ただし,これら止水板は,扉やシャッターのように高水位の浸水を対象としてはおりません。
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写真3 浸水防止性能を有する止水板の一例
4.浸水防止性能試験
今まで紹介した「浸水防止性能」を有する設備は,実際に現場に取り付けられ,効果が認められています。しかし,このような実績がある一方,2015年時点では,JISなどの明確な試験方法は確立されておらず,性能基準も、旧郵政省が郵便局構内への浸水防止を目的とした止水板に対する浸水基準を掲げていただけでした。
そこで当センターでは,(一社)シャッター・ドア協会のご協力を得て,試験方法の作成を行い、建材試験センター規格 JSTM K 6401(浸水防止用設備の浸水防止性能試験方法)として2016年に制定しました(※2)。
この試験方法では,試験対象(扉,シャッター,止水板)を水槽に取り付け,この水槽に水を供給,溜めることにより実際の浸水被害と同じ状況を再現しています。その時,試験体から漏水した水の重量を1分間計測し,1時間あたりの体積流量(㎥/h)に換算します。加えて,水圧を受けた試験体面積で除することにより㎥/(h・㎡)の単位を用いた結果を算出します。そのほか,試験体の変位を測定することにより,試験体の強度も確認します。
なお,水位の設定は,最高設定水位またはそれまでにいくつかの水位を設けて段階的に行うこととしています。
(※2)本規格の内容については,機関誌2016年7月号で詳しく紹介しています。〈Noteの基礎講座補足としても紹介予定〉
5.まとめ
Part7を迎えた本講座は,今回で最終回となります。ご紹介したように,近年,風雨による災害が頻発しており,これらの対策の重要性が今後さらに増してくると思われます。
本講座を通して、建材に求められる耐風性能や水密性にご興味を持っていただけると幸いです。読んで頂いた方々に改めて御礼を申し上げます。
【引用文献/参考文献】
1)奥村組:“第27回技術セミナー 大規模災害への備えとは”,http://www.okumuragumi.co.jp/information/images/27th_seminar.pdf,(参照日:2016-03-25)
2)気象庁:“アメダスで見た短時間強雨発生回数の長期変化について”http://www.jma.go.jp/jma/kishou/info/heavyraintrend.html,(参照日:2016-03-25)
<執筆者>
中央試験所 環境グループ 松本 知大
<試験の問い合わせ先>
総合試験ユニット
中央試験所 環境グループ
TEL:048-935-1994
FAX:048-931-9137