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氷上の夢を追う若きスプリンター。JTBアスリート社員・久保杏奈が語る競技生活と未来への挑戦

全国47都道府県、そして世界に拠点を持つJTBには、多様な職種や社員が在籍しています。そのなかで今回フォーカスを当てるのは「アスリート社員」です。

JTBではスポーツを通じた交流創造に取り組んでおり、その一環としてアスリート選手を社員として迎え入れ、育成を支援しています。北海道・帯広を拠点に活動する久保杏奈もその一人。JTBに所属しながらスピードスケート選手として日々氷上の頂点を目指しています。

本記事では、久保のスケート人生や日々の生活、そしてJTBの社員としての思いを語ってもらいました。 

運命に導かれ、始まったスケート人生。仲間との絆が支えた競技への情熱。

久保 杏奈(くぼ あんな)
北海道幕別町出身。白樺学園高校時代よりスプリンターとしての頭角を現し、2023-2024シーズンには全日本選手権で優勝。日本のトップスプリンターとして仲間入りを果たした。2023年より、アスリート社員としてJTBに所属。

―― どのようにしてスピードスケートを始められたのか、教えてください。

きっかけは、祖父がスピードスケートの指導者をしていたことです。2人いる兄が祖父のチームのもとで滑っていたのを、付き添いで小さい頃からついて行っていて。そのうち自然と滑らされるようになり、勝手に名簿に名前があって…(笑)。いつの間にか私も始めていたという感じです。

最初に氷の上に立ったのは幼稚園の頃、2歳か3歳だと思います。両親が言うには、小さいスケートリンクで兄たちが滑っていて、その隣にあったキッズスペースというところで、父と滑り始めたのが最初だそうです。いつの間にか同じチームでやるようになっていたと言っていました。

 ―― 家族や環境のおかげで自然とスピードスケートの道に進んだのですね。まさに運命のような印象を受けますが、一度も辞めたいと思ったことはないのでしょうか?

実は小学校の中学年あたりから、もう苦しくて苦しくて早く辞めたいと思っていました。練習がつらすぎて……。自分の意思で始めたものでもなかったので本当に大変でした。

当時は「6年間だけは頑張って、小学校卒業と同時に絶対やめよう」って思っていたんです。でも、小学校5年生あたりから状況が変わってきました。仲良い友達ができたり、他のチームとの交流も増えていったりして。「みんなと一緒に練習したい」と考えるようになって、友達との関係が続ける理由になりましたね。

中学生になってからは、トップスケーターが揃っている『クライマックス』というチームで練習させてもらえるようになって。そこでの経験や仲間との絆が、私をスピードスケートに引き留めてくれました。今思えば、辞めなくて本当に良かったと思います。

―― 辛い時期を乗り越えて、スピードスケートと共に歩み続けている久保さん。そんな久保さんにとって、スピードスケートの魅力や楽しさはどんなところにありますか?

やはり一番の魅力はスピード感だと思います。でも、それだけではありません。スピードスケートには正解がないんです。人それぞれに合った滑りがあって、去年良いと思った滑り方が今年は違うかもしれない。そういう日々の変化に気づいて、追いついていく必要があるところに面白さを感じています。

また、距離によってもスピードの出し方が違ってきます。長距離になれば一定のスピードをどれだけ保てるかが重要になってきますし、種目によって自分の出すスピードを制限しなければいけないこともあります。選手それぞれにフォームもレース展開も違いますし、憧れの選手の真似だけでは速くなれない。そこにスピードスケートの奥深さがあると思っています。

練習拠点「明治北海道十勝オーバル」にて。風を切り、迫力の滑りを見せる久保(集団の先頭)

―― これまでの競技人生で、特に楽しかったことや思い出深いエピソードはありますか?

中学や高校を卒業した次の1年は、環境が大きく変わるのですごくワクワクしますね。色々なことに挑戦できるので楽しいなって思います。

特に2023年は自分のなかで「転機」だったと感じています。高校を卒業して社会人になり、一気に自己ベストが伸びました。その理由としては、おそらく学生生活を終えたことで競技に専念できるようになり練習量が倍以上になったこと。加えて、高校時代にはあまり時間を取ることができなかったケアや、休養もしっかり取ることができるようになったのが大きかったと思います。

自己ベストが伸びたことで「わあ、やってきてよかったな」って思いましたし、モチベーションにもつながりました。

前から2人目が久保。

週6日の厳しい練習とオフの過ごし方。アスリート社員の日常と家族との時間。

―― 普段の練習スケジュールや休日の過ごし方を教えてください。

最近の練習スケジュールは、朝8時から10時ぐらいまで陸上トレーニングをして一度帰宅します。その後、12時半に再集合して氷上練習を行い、夕方に終わるという感じです。休みは週に1回程度で、夏場はさらに少なくなって2週間に1回くらいです。半日オフは週に2回ほど入れてもらっていますが、その時間は主にケアに充てていて、帯広のケア担当の方の元へ通ったりしています。

オフの日は、友人の3歳と2歳の子供たちと遊んで癒されています。子どもが大好きなので、とても楽しいんです。あとは、母の昔からの幼なじみの会に顔を出したり、映画やドラマを見たりして過ごしています。特にドラマは好きで、放送中の連続ドラマは可能な限りチェックしています。練習から帰宅してストレッチをしながらでも見ることができるので、リフレッシュにも最適なんです。

地道でハードな陸上トレーニング。
自身の強みについて「フィジカルの強さ」を挙げる久保にとって、スプリンターとしてのパワーをつけるためにも欠かせない時間となっている。

―― 練習後、帰宅してからの時間はどのように過ごされていますか?

帰ってお風呂に入ってご飯を食べて、ストレッチ、ケア、体幹トレーニングをしています。その後は、家族で「家事決めじゃんけん」の日課が待っています。家事ごとにじゃんけんをして、誰がどの家事をするかを決めるという我が家のルールです。

兄弟が4人いるので、全てに勝って家事をしないで済むことが一番嬉しいんですけど、逆に言えば1人で全部やらなきゃいけない日もあるんです。特に洗濯物をたたむのが苦手で、それに当たると最悪ですね(笑)。でも、家族みんなで毎日楽しんでいます。

―― 家事じゃんけん、面白いですね! 家族仲がよく、一緒の時間を大切にされているんだなと感じました。さて、スケートの話に戻りますが、選手にとって靴は命とも言えると思います。久保さんのスケート靴へのこだわりを教えていただけますか?

スケート靴は本当に大切ですね。私の靴は足型に合わせて作った特注品です。作るときは裸足で型を取るか、靴下を履いて型を取るか選べるんですけど、私は裸足派です。

高校時代は裸足で作って、シーズン後半は靴下を履くようにしていたんですが、靴下を履くと感覚が変わってしまって。足の裏で氷に力を伝えようとする際、靴下を履くと邪魔されているような気分になるので、今は裸足で履いています。

あと、靴の色にもこだわりがあって。カーボン(靴の入り口)の色を選べるのですが、私は金色にしています。金メダルを目指しているので、毎日の練習で靴を履くたびに目標を思い出せるように金色を選んでいます。

明るいカラーとデザインが元気をくれそうなシューズカバーは、仲良し3人組でお揃いだそう。「2023年のジュニアワールドカップ前半戦に行った友達が、イタリアで買ってきてくれました」(久保)

 ―― 試合に向けての特別な準備や、ルーティンのようなものはありますか?

いくつかあるのですが、まず、朝起きたらコーヒーを少し多めに飲みます。カフェインを摂ると体の動きが良くなると聞いてから、毎日飲むようにしています。あとは、レース前にバナナを食べるのも定番ですね。どちらも多くの選手がやっていると思います。

私独自のこだわりとしては、大事な大会の少し前から靴紐を新しくすることです。靴紐を変えるタイミングで気持ちも新たにするんです。靴紐は強く結ぶのですぐにボロボロになってしまうのですが、新しい紐に変えると気持ちもシャキッとして気合いが入ります。

JTBアスリート社員として氷上の頂点へ!北の大地から世界のリンクへ。

―― 2023年にアスリート社員としてJTBに入社されました。入社のきっかけを教えていただけますか?

高校卒業後にスケートを続けるか悩んでいた時に、北海道オール・オリンピアンズのGMであり、所属チームTEAM Scrumの監督の鈴木靖さんからJTBのお話をいただき、高校の監督と話しをしてお世話になる事に決めました。

JTBは全国中学の大会でツアーを組んでくれていた会社で、感謝と同時に良い印象があったこと、また、自分自身、旅行が好きで、旅行業というものに興味がありました。

同期と記念撮影。後列の右から2番目が久保

―― 所属する前と後で、JTBに対するイメージは変わりましたか?

正直な話をすると、大きな会社なので、お会いする前は緊張していたんです。でも、実際に所属してみると皆さんとても優しくて温かくて。すごく応援してくださる会社だと感じました。

特に北海道事業部長の阿部さんや同期を始め、多くの方が「頑張ってね」と声をかけてくださるのですが、そういった応援が本当に力になっています。同期は私を含めて8人いるんですが、昨年、ワールドカップ帯広戦が開催された際に連絡をくれました。自分が出場したわけではなかったのですが、「来てるから会おうよ」って言ってくれてすごく嬉しかったです。

弟の久保颯大選手と、美瑛の「四季彩の丘」にて。

―― 北海道・幕別町出身の久保さん。生まれ育った場所だからこそ感じる、北海道や帯広の魅力を教えてください。

自然の豊かさと、空気の美味しさは魅力だなって感じます。そして、やっぱり北海道は大きいので、道が広々としているのも良いところだと思います。広くて長い直線が多いので自転車で走るとすごく気持ちいいんです。

グルメで言えば、帯広と言えば豚丼が有名です。個人的には焼肉とお寿司が好きで、普段は食事制限をしているのですが、大会で勝った時のご褒美ごはんはそのどっちかに連れて行ってもらうことが多いです。北海道は海鮮類が美味しくて、回転寿司でも美味しいのが自慢です。それから、スケートをやる環境としてものすごくいいですね。日本に3つしかないスピードスケート専用室内リンクの1つがあるのでとても恵まれていると思います。

 ―― 最後に、スピードスケート選手としての夢や、今シーズンの目標を教えてください。

今シーズンの目標は、今年からシニアになったので、シニアの舞台でも世界で活躍することです。長期的な目標としては2030年に開催予定のフランス・アルプスオリンピックに向けて頑張っています。

 オリンピックは4年に一度しかない特別な大会です。前回のオリンピック選考会にも出場させていただいたのですが、その時は空気感に圧倒されてただ小さくなっているだけだったので、まずは来年、2026年に開催予定のミラノオリンピックの選考会で良いものを吸収したいなと思っています。

写真:  鍵岡龍門
文:   大西マリコ
編集:  花沢亜衣