第8回全国学生演劇祭 インタビューシリーズvol.5
昨年の第8回全国学生演劇祭を振り返るインタビューシリーズ。
今回は、劇団ちゃこーる 、ターリーズ、劇団ゲスワークへのインタビュー記事です。
名古屋:劇団ちゃこーる(太田)
東京:ターリーズ(山咲)
京都:劇団ゲスワーク(大田)
編集・インタビュー:渋革まろん
Q1.なぜ学生演劇祭に参加しようと思われたのでしょうか?
大田:劇団ゲスワーク主宰の大田と言います。ゲスワークも主宰しているんですが、京都大学の公認サークル・劇団ケッペキにも所属しています。学生演劇祭に参加した理由としては、今回の『革命前夜、その後』を書いた榮野川文樺さんが一個上の先輩で、「大田くん、演出をしてみないか」ということで誘われて参加することになりました。
──立ち上げてどれくらいになりますか?
大田:ゲスワークは2021年に設立して、2022年の2月に旗揚げ公演をしましたね。
※劇団ゲスワークは、2023年10月にGesu◎(ゲスワ)に改組
──コロナ禍に立ち上げた劇団なんですね。それでは次に太田さんお願いします。
太田:劇団ちゃこーるの太田です。劇団ちゃこーるは去年の名古屋学生演劇祭に出場するために、立ち上げました。私達のメンバーもみんな名古屋大学の公認サークル・劇団新生に所属している同期です。
──ちなみに、名古屋の学生劇団はどれくらいあるんでしょうか?
太田:私自身、大学の公認サークルをあまり認知し切れていないのですが、名前を上げると、名古屋大学の『劇団新生』、南山大学『HI-SECO』、愛知淑徳大学『月とカニ』、名城大学『獅子』あたりがよく公演を打っているイメージです。
──ありがとうございます。最後に山咲さん、お願いします。
山咲:ターリーズの山咲です。僕たちも去年の東京学生演劇祭で旗揚げをしました。ある日のことなんですが、作・演の峰岸航生、それから出演してくれた岡村香苗と偶然、一緒に昼食を取ることになったんです。二人は初対面だったんですけど、その流れでその日の深夜1時に参加申込をして生まれたのがターリーズです。
──初対面というのはすごいですね。
山咲:僕と岡村、僕と峰岸はそれぞれ一緒に演劇をしたことがあったんですけど、三人が顔を合わせたのは初めてでした。全員、早稲田大学の演劇サークルに所属しているんですけど。
──みなさん同じ劇団ですか?
山咲:いえ、早稲田は公認の演劇サークルが8つほどあって、ターリーズのメンバーはそのうちの4つの演劇サークルに所属していた人たちをかき集めて作った団体になります。
──学生演劇祭が旗揚げのきっかけになるケースが多いですね。
山咲:早稲田大学の場合は、演劇が盛んということもあって、大学内の小屋を押さえるのが難しいという事情があります。東京にはいくつか演劇祭があるから、そこで新しい作品を試していきたい人と、公認サークルの総会を通してやりたい人に分かれてる感じです。
Q2.卒業後は、演劇とどう関わっていこうとしていますか?
大田:僕はだいぶ演劇に熱中しちゃってて、続けられたらいいなと思ってるんですけど、あんまりタテのつながりを感じていなくて、もしくはコロナ禍を挟んだからなのか、演劇を続けるノウハウがおりてきていない印象があります。僕は来年、3回生になるんですけど、大学を卒業して最初に何をするのか、誰の手を借りるべきなのか、頑張りどころがわからないというか、ぼんやりと不安なままいるみたいな……。僕がまだ自分から動けていないだけかもっていう感じもあります。
──ゲスワークを続けていこうという流れはあったりするんでしょうか?
大田:ゲスワークの団員は僕だけで、毎回メンバーを集めるかたちをとっています。それでもわからないですね。今年、卒業する代のなかには東京に行って演劇を続ける人が2〜3人いるみたいですけど、ケッペキの同期で演劇を続ける人間はいないんじゃないかという感じもしています。
──ありがとうございます。太田さん、山咲さんはどうでしょうか?
山咲:私個人としては、演劇でご飯を食べていくという風には思っていないんです。でも、ターリーズの中には、演劇活動を通じてお金をもらって生きていこうという人も少なからずいます。早稲田内のサークルでは、縦のつながりが強くて、ノウハウが継承されている人もいるという印象がありますね。
──ターリーズは続けていく予定ですか?
山咲:ターリーズはそれこそ演劇祭のために組んで、『ファはファンシーのファ』が終わったら解散するものなのかなと思っていたんですけれど、ありがたいことに劇団のみんなから愛着を持っていただいているので、趣味程度になるのか、商業を目指すのかはまだわかりませんが、できるだけ長く楽しいことができたらいいなと考えています。
──太田さんはいかがですか?
太田:演劇はこれからも続けていきたいです。ただ、私も演劇で食べていくことは考えていなくて、どちらかというと趣味の方になるかもしれません。ちゃこーるのメンバーともたまにそういう話をするんですけど、演劇一本で食べていこうという人は、本当に1人、2人いるかいないかで。大学生だからこの生活ができているとは思っていて……どうなるかはわかりませんが、これからもみんなで集まってできたらいいなとは考えています。
──会社に就職する・しないは別にして、名古屋では演劇を続けていける環境は整っている感じですか?
太田:そうですね。お仕事をしながら、土日稽古して、公演を打つ団体が多いイメージがあります。
──七ツ寺共同スタジオやうりんこ劇場もありますしね。学生演劇祭に七ツ寺スタジオは関わっていないんですか?
太田:学生演劇祭は関わってないんですけど、私が所属している名大の劇団新生は、毎回、七ツ寺共同スタジオで公演を打っています。
Q3.演劇というメディアを通じて、やりたいことや実現したいことを教えてください。
大田:中学・高校時代は東京にいて、高校では演劇部に入っていました。それで、高校2年生のときにこまばアゴラ劇場で観たうさぎストライプの『空想科学Ⅱ』という作品にものすごい衝撃を受けました。ちょうど演劇を見始めた頃だったと思います。そのときの心のゾワゾワ感が忘れられなくて。僕には崇高な芸術理念とか演劇的な思想は全然ないんですけど、『空想科学2』で観たゾワゾワを自分の演出で作れたらいいなというのがすごいあります。
──ゾワゾワ感というのはどういったものなのでしょう?
大田:それが何だったのか、言語化するのは難しくて。それを映画やテレビドラマで感じたことはいまだになくて、演劇でしか……なんでしょうね。多分、生の要素もあると思いますし、それだけじゃなくてなにか複合的な要素が噛み合ってそれが生まれる。僕は脚本を書けないから、演出家としてその謎について考えたいし、それ自体を探しながら、ひとつひとつ因数分解して、その因数を見つけていく作業をしている気がします。
──それでは太田さん、お願いします。
太田:今回は人が少なかったため、脚本を書いたり、役者をやったりもしているんですけど、基本的には演出家として作品に関わっています。演出席でお客さんの反応を見るのが好きで、舞台と客席が一体化するあの感覚が忘れられません。なので、これからも、自分の演出でお客さんを驚かせていきたいです。
──お客さんを驚かせたいというのは演出の原点ですよね。
太田:稽古も忙しいし、学業とも両立しないといけないし、振り返ると辛いことのほうが多いなって思うんですけど、結局、小屋入りしてから本番を迎えてバラシをするまでが楽しすぎて。二度と演劇するかってずっと思っていても、本番が終わったらまた次の公演のことを考え出しちゃって。ずっと演劇の沼にはまり続けてます。
──沼ると抜けられなくなる。危険です(笑)。山咲さんはいかがでしょうか?
山咲:私と脚本の峰岸は別の人間ですし、思想的な違いは色々あると思うんですが、我々がなんとなく感じているのは、とにかく楽しいことがやりたいということですね。それは漫才やコントの笑いとも違って、経済的にも非効率で、お客さんにしてもお金を払ってまで客席に拘束されて自由を奪われた状態の中で、それでも生まれる楽しみを追い求めていきたいというのが、我々、特に私の考えですね。
──なにかしらライブから生まれるお客さんとの一体感、見えないやり取りが起こるのは面白いですよね。演劇の醍醐味だと思います。
Q4.注目している(影響を受けた)演劇団体や個人、アーティストがいれば教えて下さい。
大田:先ほど申し上げたように、僕はうさぎストライプの『空想科学2』が演劇の原体験になります。僕は中高一貫校だったんですけど、うさぎストライプに気づけたのは、中2、高2、高3の先生が演劇教育を学校現場に持ち込んだ人で、それこそ平田オリザさんとかに関わりがあって、ままごとの柴幸男さん、青組の吉田小夏さんとか、今聞くとビッグネームの方を呼んで演劇のワークショップを開いていたんです。僕は中2か中3のときに平田オリザさんのワークショップに参加したことがあって、それから青年団とか、青年団系列の作品をバーっと観るようになりました。だから影響を受けたということでは、青年団とその周辺の劇団がダントツという感じです。
──ある意味、その学校の演劇教育がものすごく実を結んでますね。
大田:それで京都に来てからは、地点をよく観るようになりました。やっぱり圧倒的だと思います。
──太田さん、いかがですか?
太田:私はアーティストの椎名林檎さんとか、東京事変が好きなんです。それと高校演劇の大会は、JASRACとかの権利関係の規定がなくて、どんな曲を使っても良かったから、どうしても東京事変を流したいというのがあって。東京事変のMVとか、ああいうかっこいい照明バチバチでやりたい、みたいな。そういう影響を受けて、脚本を書いたりはしていました。
──東京事変が演劇のはじまりを作り出しているのが面白いですね。
太田:あとはコロナ禍で、YouTubeにアップされている演劇をよく見るようになりました。それこそ柿喰う客さんだったり、名古屋はもちろんですけど、関東・関西、色んなところの劇に触れるようになりました。
──「ギムレットには早すぎる」の村岡さん、ダダの瀬川さんもYouTubeで柿喰う客を見るようになったと言ってましたね。それはおすすめに出てくるんですか?
太田:おすすめにいっぱい出てきます。私が好きなところだと、佐賀県の佐賀東高校演劇部だったり、高校演劇も探って見てましたね。
──ありがとうございます。最後に山咲さんはどうでしょうか。
山咲: ターリーズは尖った思想の変なやつが多いので、好きなものもバラバラです。柿喰う客さんが好きな人もいれば、「あんよはじょうず。」が好きな人もいるし、演劇に興味ないっていうやつもいます。個人としては、昔のトラウマから立ち直るきっかけを与えてくれた演劇部の顧問の先生と、お笑い芸人の東京03に影響を受けていますね。東京03のように人をちょっとだけ幸せにする作品を作りたいと思っています。
Q5.学生劇団の課題について思うことがあれば教えてください。
大田: 京都はアトリエ劇研、人間座のような小劇場が潰れてしまって、大学外で公演を打てる場所がほぼないんですよね。コロナ禍を通して西部講堂を含めた学内施設も使えなくなって、使える小屋がほぼひとつもないような状況になりました。それこそケッペキは今度、シアターE9で新歓公演を打つんですけど、それもめちゃくちゃ思い切った決断です。学内公演に比べたら、興行的にも本当に頑張らないといけない。他大学の事情はわからいんですけど、劇団ケッペキに関しては西部講堂という持ち場がないという本当に大きな問題を抱えています。
──シアターE9が立ち上がらなければ京都の小劇場の灯は完全に消えてましたから素晴らしい事業なんですが、貸し小屋主体ではなくて年間プログラム制度を取っていることもあって、アトリエ劇研や人間座とはまた使い勝手が違ってくるというのはありますね。
大田:それだから、上演に集中させてくれる学生演劇祭の出やすさが魅力的に見えるんだと思います。
──山咲さんはいかがですか?
山咲:僕が活動している早稲田の演劇サークルは人が少ないこともあって、やっぱりお金のことが問題になります。色々なサークルで話をしていて一番強烈だった言葉は、「演劇なんて金持ちの道楽じゃないか」というもの。大学の演劇サークルのシステムではチケットバックを取ることが難しいから、役者がお金を出してそのまま満足して終わることが少なくないんですよね。
──資金面が課題であると。
山咲:学生演劇祭はお金の目処がつきやすくて、色んな心配事を排除して演劇だけに集中できる環境を用意して頂けてるのが我々にとっては非常にありがたかったなと感じております。あともう一つは、学生劇団の中で問題が起こったときに頼れる人が少ないことも課題だと思っています。演劇は内面の精神的な部分をどんどんひけらかしてこそ価値があるとされがちだから、何かしらの問題が起きやすいんじゃないかと。
──具体的にどういった問題が起こるんでしょうか?
山咲:それこそ個人の小さないざこざから始まって、ハラスメントも起きないわけではありません。そこで我々が自分たちをどう律していけるか、どういう対処をしていけるのかに課題があると考えています。
──太田さんはいかがですか。
太田:私は今の学生演劇に、コロナ禍の問題が大きくあると思っています。二つ挙げると、まず一つ目に、技術の継承がうまくできてないと感じる部分があることです。ちゃこーるはできたてホヤホヤの劇団なので、継承とかはないんですけど、もう一つの団体では、コロナ禍で公演が打てなかった影響で、先輩方から発声方法や基礎練などを教わる機会が減ってしまいました。私達が今の後輩に引き継げないということもあります。
──コロナ禍で途絶えてしまうものがあるわけですね。
太田:もう一点は、他の団体と関わる場がなくなっていることです。先輩から聞いた話では、昔は他団体と公演日を合わせたり、一緒に公演をしたり、客演に出たり、色々な取り組みがあったそうです。でも今は、他の学生劇団との関わりが薄くなって、内々の公演になっている印象があります。これは名古屋だけかもしれないんですけど。
──名古屋では学生劇団同士の協力体制があったんですね。コロナ禍が学生劇団に与えた影響は深刻なものがありそうです。
Q6.学生劇団の可能性について思うことがあれば教えてください。
太田:今回、ちゃこーるを作って、名古屋学生演劇祭から全国に出場する過程を終えて思ったのは、応援してくれる人がいることのありがたさです。名古屋で大賞を取ったときに、名古屋学生演劇祭の運営側が壮行会を開いてくださったんですよ。そのときに初めてお客さんと触れ合う場を設けてもらって。こういうのは学生演劇ならではだなと思いました。
山咲:私は高校生の頃から演劇をやっていて、演劇をビジネスというより、教育に親和性の高いものとして理解しています。大学の演劇活動が教育に当たるのか悩ましいところですけど、少なくとも学生にとっては自分を育てる、成長する場につながっている。自分たちの感情や感性をフル動員して、公衆の面前にさらけ出す過程で、新たな面を発見していく。こうした演劇の教育的な側面は一つの魅力かなと感じております。
大田:学生演劇はプロではないので、クオリティは求められるけど求められていないというか。少なくとも失敗が許される環境だと思うんです。それはいい方向にも、悪い方向にもはたらくバイアスだと思うし、学生の若さというものに縛られている感覚もあるんですけど、それだから許されることは絶対に多々あります。そもそもこれだけ演劇に打ち込めているのは、多分、大学生だからだなと感じてます。
Q7.今後の学生演劇祭に期待することはありますか?
大田:僕はやっぱり、統括や舞監、審査員の方も含めてプロの方が関わられてると思うので、そういう大人の方々ともっと関わる機会が欲しいですね。みなさんお忙しいと思うんですけど、もっと自由に喋る機会があると嬉しいです。
山咲:私も大田さんと同じように、大人の方も含めて、大学の中では得られないようなつながりを持てたらいいなと感じています。講評が終わった後の交流会の時間などがもっと長く用意されているとありがたいです。
太田:私も同じように大人との関わりであったり、あとは学生のあいだの関わりも増やせると良かったなと思います。これは半分、私の反省なんですけど。交流会が1時間はすこし短く感じて。ワークショップに関しても、私達の団体は稽古の時間と被ってしまったので、そういう時間の調整ができるとよかったなと思いました。
──横のつながりということであれば、テーマを決めてシンポジウム……までいかなくても、学生ミーティングをZoomでするとかはいいかもしれないですね。沢さんからなにかありますか。
沢:色々なご意見ありがとうございました。学生演劇祭を今後も何とか続けていって、糧にしていきたいと思います。何卒今後ともよろしくお願いします。
──本日は長時間のインタビュー、ありがとうございました。
※2023年3月にインタビューを実施した記事です。
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