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これがインハウス・クリエイターの生きる道 「やれるかではなく、やりたいか」

企業内(インハウス)でデザイナーやクリエイター、編集者を採用してチームをつくろうという動きが活発になっている昨今、各企業ではどのようなチームづくり、インハウスならではのアウトプットが行われているのでしょうか。

2018年8月30日(木)、渋谷のBOOK LAB TOKYOで『THINK PR3.0 企業内でブランディングを担うクリエイター・編集者の実態〜PR Table Community #9 』が行われ、櫻田さんが登壇されました。

NewsPicksでインフォグラフィック・エディターを務めながらサロン運営など外部での活動も積極的に行う櫻田さんと、株式会社スマイルズ取締役の野崎 亙(のざき・わたる)さんによる事例紹介を交えながらのトークが繰り広げられました。モデレーターを務めたのは株式会社インクワイア代表取締役・編集者のモリジュンヤさん。今回はこのイベントのレポートをお届けします。

・NewsPicks 櫻田さんのケース
・スマイルズ 野崎 亙(のざき・わたる)さんのケース
・2人の共通点「やりたいことをやる」
・インハウスで働くクリエイターがやるべきことは?


NewsPicks 櫻田さんのケース


まずは各社事例紹介としてNewsPicksについて櫻田さんがプレゼンテーション。櫻田さんは「道」というテーマでお話されました。


<⒈インハウスへの道>
櫻田さんはこれまでのキャリアのなかでプログラマー、SE、Webデザイナー、マーケティングなどを経験されています。そうした仕事をしながらも、図解などを公開していた趣味のサイト「VISUAL THINKING」を運営し、それがきっかけで本を出すことになりました。NewsPicksには佐々木紀彦さん(現・NewsPicks CCO)が編集長になるタイミングで入社し、インハウスクリエイターになりました。

NewsPicksには当時から「グラフィックデザイナー」はいましたが、櫻田さんはその肩書きを好まず、「インフォグラフィック・エディター」という職をつくってもらったそうです。

櫻田さんはご自分のインハウスクリエイターへの道を次のように整理しています。


こういった考え方は今でも常にアップデートを続けていて、会社で働きながら個人の活動をすることの大切さを強調されていました。



<⒉チーム化への道>
サービスが急拡大していくフェーズの中だと、既存の体制では対応できなくなっていきます。NewsPicksでもいくつかの体制を試した結果、櫻田さんはツリー型組織ではスピードが追いつかないという限界を実感したそうです。

そこで、小さくフラットな組織をいくつかつくり、それをゆるく重なり合わせる。ツリー図の長のような役割の人は全体を包み込むような運営をするイメージで、インクルーシブな集団へと導いたといいます。


<3.それで道は整ったのか?>
しかし、新たな組織で機能し始めると、また別の問題点に気づきます。少人数のときは尖ったことができていたが、人数が増えたことで同質化が進んでいるという危機感が生まれました。そういった実感があったからこそ、櫻田さんはインハウスの役割を「外から見てわからない、中から尖ったことをやること」だといいます。

そこでお手本にしたのがGoogle。創業者である元CEOのエリック・シュミットと共同創業者のラリー・ペイジ、セルゲイ・ブリンによる三頭体制だったことを参考に、NewsPicksのデザインチームもリーダーが2人の二頭体制にし、部分最適を担う特化型と全体最適を担う横断型とに役割を分けたそうです。サッカーでいえばフォワードとディフェンス。櫻田さんは“尖り”を失わないためのクリエイティブ特化型として活動されています。


<4.大切にしたい道>
櫻田さんが今後大切にしていきたいことは、チームミッション の「よりよくする」を実現するというもの。単に依頼されてつくるだけでも100点は取れる。しかし、予定調和ではなく、200点、300点狙えるチームになろうという目標を掲げています。

そのために必要なことは以下の3つです。

・やるか、やらないか・・・50%コミットでは50点しか取れないので、0か100に振り切り、気乗りしたものに100%コミットすること。

・うのみにしない
・・・目的をうのみにしてしまうと100点が限界になってしまうから、疑ってかかること。

・自分らしくやる
・・・個性を発揮する。成果物に対して求めることは、自分らしさが出ているか、だけ。

NewsPicksらしさとは先進性と信頼性。そこに自分らしさを発揮することで思いが届けられる。NewsPicksではこの3つのポイントで「よりよくする」を実現し、尖りを出すようなチーム体制にしてインハウスのクリエイターとして自立したチーム運営しているそうです。


スマイルズ 野崎 亙(のざき・わたる)さんのケース

◆野崎 亙(のざき・わたる)/株式会社スマイルズ取締役 クリエイティブ本部 本部長
1976年生まれ。京都大学工学部卒。東京大学大学院卒。2003年、株式会社イデーに入社し、新店舗の立ち上げや新規事業の企画を担当。2006年、株式会社アクシスに入社。大手メーカー企業などのデザインコンサルティングに取り組む。2011年、スマイルズに入社。giraffe事業部長、Soup Stock Tokyoサポート企画室室長を経て、現職。


続いて、スマイルズの野崎さんから事例紹介がされました。

スマイルズはツリー型組織の形をとっていますが、櫻田さんと考え方は似ているといいます。広報が企画したイベント、デザイナーが企画した販促・イベントなど、誰がプロジェクトを起こすかは関係なく、企画・実行は全員でやるのが大前提にあるそうです。

それぞれに得意分野はあれど、やることは全部やるというのが基本スタンス。価値になるものはなんでもやる“やりたがり集団”と評しています。WEB、ワークショップ、商品開発、立地開発に至るまで、楽しそうなことは全部やろう、というチームで最近は外部のクライアント業にも価値を提供しているそうです。

野崎さんは、外部の人間には今できることしか仕事を振らないが、中(インハウス)の人間には「可能性があるからちょっとやってみたら?」と仕事を任せることがあるという。外注する際にはスキルを見ている一方で、インハウスのクリエイティブではそのポテンシャルを見ているのだそうです。

野崎さんが上げたインハウスクリエイティブのポイントは3つです。

①コンセプトよりイメージ
大切なことは 「イメージできたものは具現化できる」という考え方。デザイナーのコアコンピテンスは「絵が描けること(=具現化できること)」。アイデアは誰でも出せるが、絵が描けるとは妄想を形にすることができる。つまり、他の人のイメージを増幅させることができるのです。インハウスではそれが繰り返しできることに意味がある。

②食べ放題が生み出す力

外部のクリエイターの依頼する場合はコストばかりが気になり、結局何もできなかったという事態も。“やりたがり集団”であるがゆえに、様々なことに挑戦できるのはインハウスの強み。

③ブランドの先行指標
時には頼まれていないけど勝手にやることも。ただやるのではなく、これが今後このブランドが進んで行く価値の切っ先なのではないか、ということを考えながらやっている。これはインハウスでなければ提案すらできないことで、中にいてコミットしているからこそ先行指標的な動きができる。


2人の共通点「やりたいことをやる」

イベントの後半はモデレーターとしてモリジュンヤさんも加わり、パネルディスカッションが行われました。

◆モリジュンヤ 株式会社インクワイア代表取締役 編集者
1987年生まれ、岐阜出身。『greenz.jp』副編集長、『THE BRIDGE』編集記者を経て、2015年に領域を横断して編集活動を行う「inquire」を創業。現在は、複数のメディアブランドのマネジメントを行いながら、組織や事業に編集のパートナーとして関わる。『UNLEASH』編集長、NPO法人soar副代表、IDENTITY共同創業者、FastGrow CCOなど。


モリさんは、櫻田さんと野崎さんの理想の組織論で一致した点から、フリーランスはできることに対して仕事がくるが、関心があったりやってみたいことにチャレンジできるのはインハウスならではだとし、話を深掘りしていきます。

櫻田さんは新しいことに挑戦するとき、やれるかではなく、やりたいかをベースに動いているといいます。野崎さんも、オーダーされたからではなく、どこかのタイミングで「やりたい」と思って自分ごと化することが大切だと話しました。

その一方で気をつけなければならないのは、モチベーションの上げ方や拠り所は人それぞれなので、制度で縛るのではなく、それぞれの拠り所を見極めること。櫻田さんもチームの人数が少ないときは、やりたいことが多い人が集まっていると思い込んでいたが、実際には誰かのために尽くすのが好きな人がいることに気づき、マネジメントを変えないといけないと気づいたとそうです。

話の中で櫻田さんは「聞いてみたかった」と前置きして、野崎さんに「0→1と1→10、どのフェーズが好きですか?」という質問をしました。

それに対し、野崎さんの答えは「0→1が好き」。みんなが普通に考えることはみんながするからご自身ではしないそうです。そうした一方、「1→10」の過程においても、1から前進して想定通りの2にならない場合もあるという部分に面白さも感じているそうです。どんなこともやってみなければ絶対にわからないという思いがあるとおっしゃっています。

櫻田さんも、初めてインフォグラフィックをつくったときには前提がなかったとし、「0→1」で自分がやるしかないという思いがあったと振り返っています。やはり、二人の考え方に共通している点が多いことが感じられます。

話はインハウスで働く際に求められる“企業らしさの表現”に移ります。その“らしさ”をどうやって掴み取っているかの問いに、櫻田さんはマインドセットや思想が近い人が採用されているから、自分らしさを発揮することが会社らしさや会社らしさを少し破ることになると信じていると語りました。会社らしさというより、自分らしさを追求するとベクトルが自然に合ってくるといいます。

野崎さんはというと、会社だけでなくブランドを例にとり、枠組をつくるのではなく、人格・性格を与えて、周辺領域にあるちょっとしたことを要素とし、意味・空間や余白は自由度を与えるようにしているといいます。結果的に、自分はルールが嫌いだからそういう方向にチームづくりをしていったということのようです。

また、野崎さんは、“らしさ”をどう出したのか、本当にやりたかったのかをクリエイターに徹底的に問うそうです。信念に基づいてやっているならば、それそのものを評価する。その人が本当にやりたいと思っていることが重要で、それがなければいいものをつくれない。やはり、この考え方に櫻田さんも共感されていました。



インハウスで働くクリエイターがやるべきことは?

野崎さんはクリエイターの熱量を重視していて、一番熱量を傾けられることが見つかってそれに向けて実行できていることが一番大切だと話しました。「やっているか・やっていないか」だけで評価し、やってる人は必ず結果が出るし、やっていない人には何も起きない、と断言されました。チャレンジしている人や意欲的にやっている人は最も信頼でき、その実行力にベットしたくなるとのことでした。

櫻田さんも「アクション起こしている人は勝手に認知されていくから困らない」と同意します。

では、これからインハウスでクリエイティブ・ブランディングに関わる仕事をしていきたい人へ働きやすい空気づくりや環境づくりをどうすればいいのか。

この質問に櫻田さんは「外の世界で認知されると社内でも評価されるようになる。外の世界を使うことが大切で、社内に留まっているとつくれない」と答えていました。外に向けて積極的に発信し、クリエイションすることで、おのずとインハウスでの影響力につながるということ。

また、野崎さんも考え方は同じで、自身が様々な業界のコンサルをしてきた経験からも、ポリバレント(多様)な経験は必ずインハウス生かせるし、プレゼンスを取りやすくなるので、外部の経験を会社の中に還流させることを考えているそうです。

そして、インハウスでブランディングしていきたい人たちがどんな経験を積んだらいいのか。

野崎さんの考えは、やれることは全部やり、“自分は何屋です”と決めないこと。いい意味で責任を取る気をなくし、全てに関わろうとする。そうするとあらゆることが可能性になるので、気になったものや興味の湧いたものをやるべきだということです。

櫻田さんは経験はあまり必要ではないと考えていて、素人の方が強いといいます。肌感や時代性を捉えていることが一番大切。インプットをたくさんするのはもちろんだが、インプットをアウトプットに昇華した経験があればあるほどいいとおっしゃっていました。

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この後、会場では質疑応答が行われ、終始和やかなムードのままイベントは終了。

イベント後の櫻田さんはこんな様子。


実はこのトークイベント以前にも櫻田さんは野崎さんと対談されているので、こちらも併せて読んでみてくださいね。



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テキスト:松澤優子
編集:石川遼
写真:池田実加

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