実務従事の対象として、社会福祉法人制度について考えてみる

 皆さんこんにちは。中小企業診断士の荘子順です。

今回は、中小企業診断士の実務従事の対象が実は拡大されていたという件、およびその対象について、自分の本業から得た知識を踏まえて簡単にご紹介したいと思います。

 令和元年(2019)年7月31日付けの「中小企業診断士の新規及び更新登録となっている実務従事の対象拡大について」(中小企業庁経営支援課)では、継続的に収益事業を行う次の法人が新たに実務重視の対象として追加されています。

1 医業または歯科医業を主たる事業とする法人(医療法人等)
2 社会福祉法人
3 NPO法人

 ここでは、「社会福祉法人」の経営支援を実務従事する場合となった場合(そう多くはないと思いますが)のために、その制度の成り立ちについて簡単に解説してみたいと思います。

社会福祉法人とは

 社会福祉事業を行うために設立された法人で、その定めは社会福祉法第22条で定められています。社会福祉事業といっても幅広いですが、第1種社会福祉事業として定義されている事業を実施できるのは、地方公共団体と社会福祉法人に限定されていれています。

主な第1種社会福祉事業

・母子生活支援施設 

 DV被害者を匿うシェルター施設です。その性格から、場所や外観は秘匿扱いとされています。にもかかわらず、市の職員が夫に居場所を漏らしてしまったという事件がありました。

・児童養護施設 

 その施設の性格から、よく物語の舞台となりやすい施設だと思います。最近ではドラマ「絶対零度」で、あるキーパーソンが児童養護施設で育っていた過去があったとか、あるいは浅井リョウの小説「世界地図の下書き」、同じく高杉良の自伝的小説「めぐみ園の夏」の舞台にもなっています。

あとは、特別養護老人ホーム(特養)や障害者支援施設などを運営しています。

・そのほか 

 「崖の上のポニョ」では、主人公の通う保育園の隣が老人デイサービス(通所介護)施設という設定になっていますが、これらは第二種社会福祉事業に該当し、社会福祉法人以外の株式会社でも実施できる事業です。

 宇都宮市内の例で言うと、宇都宮済生会病院というのは、日本最大の社会福祉法人恩賜財団済生会(総裁:秋篠宮皇嗣殿下)の病院診療所の一つです。

社会福祉法人会計とは

 一般企業であれば、貸借対照表と損益計算書を作成するわけですが、社会福祉法人の場合、貸借対照表と事業活動計算書(損益計算書に相当)、さらには資金収支計算書(資金の範囲が広いキャッシュフロー計算書)を作成します。

 これらは法人全体だけではなく、先ほど説明した施設(母子生活支援施設、児童養護施設、特養、保育所等・・・)ごとに作成する必要があるので、決算は大変です。

 ちょっと話がそれますが、簿記というのは、大航海時代に、1つの航海(=プロジェクト)を計算するために生まれたと言われています。この場合、1つの航海に対する収入・支出を精算することが簿記の目的でした。

 その後、産業革命が始まり、多額な工場設備投資が一度に必要となった場合は、単純な収支計算ではなく、会計期間を区切って、費用と収益を対応させて計算させるべきとなり、損益計算が誕生しました。工場設備投資はその投資額全体が、減価償却計算を経て徐々に費用化されていくわけです。

 なんでこんな話をしたかというと、社会福祉法人は、第二次世界大戦後、戦災孤児問題、貧困問題といった社会の課題(=プロジェクト)を解決するために設立されてきました。ただ、一度組織が設立されると、それを存続するためには期間計算が必要となり、どれを捨てることもできなく、作らないければいけない書類が増えてきてしまったのではないかと考えています。

 私見ですが、社会福祉法人が決算時に作成しなければならない書類のうち、もはや作成すること自体が目的化しているものも多いと思います。

 あと、非営利組織の会計で勘違いされやすいところですが、「利益を出していけない」わけではありません。将来の設備更新に備え余剰利益を内部留保する必要は当然生じますが、この内部留保を外部に流出(=利益処分)することはできません。これが営利企業との決定的な違いです。ただこの内部留保が大きいと、注入した公的資金を溜め込んでいる、と批判されるわけです。

 この批判を解消するため、厚生労働省は「社会福祉充実残額」という計算制度を設けました。通常の決算とは別に、内部留保が適切なのかどうなのかを計算する必要が生じました。しかしながらこの計算も非常に面倒で、決算作業をまた面倒にしています。
 こんな計算しなくても、純資産回転率をみればいい気もしているのですが、そういった経営指標を表立って「制度として」導入することが体質に合わないようです。

 ということでちょっと長くなってしまいましたが、社会福祉法人制度に関する外形的なところを記してみました。何らかのご参考になれば幸いです。

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