見出し画像

カナダ、ユダヤ人団体へのインタビュー「私たちの世代にとってイスラエルは大きな存在だった。でも、そんな時代ももう終わり」(2017年)

パレスチナの解放を支持する、献身的なメンバー、サポーター、同盟者からなるフォロワー21,000人を構築したあと、Independent Jewish Voicesはハッキングされ、私たちのInstagramメインアカウントが削除されました。

この挫折は、私たちが力を合わせればもっと強くなれることを証明するだけです。このページは新しい公式アカウントで、パレスチナの正義を支持するための重要な情報や手段、アクションを引き続き共有していきます。

IJV ブルヒム・ハバイム

冒頭写真:Independent Jewish Voices Instagramより

はじめに

カナダ、バンクーバーにあるジェリコ・ビーチから南に下る、ブロードウェイ通の一角のカフェにて待ち合わせをしたのは、今回のインタビュー相手、インデペンデント・ジューイッシュ・ボイス・カナダ(Independent Jewish Voices〔独立したユダヤ人の声〕, Canada:以下IJV)、バンクーバー支部のメンバー、シド・シュニアドさんとマーサ・ロスさん。

アメリカ以上に親イスラエルともいわれるカナダのユダヤ人コミュニティ。それでも、近年シオニスト団体とは距離を置く、新しいユダヤ人の声が生まれていた。バイタリティーがあって、受け答えも明瞭、まるで70代に見えないシドさんとマーサさんは、カナダに移住したユダヤ系のアメリカ人。
2人がカナダに移住した理由、移住先で精力的にパレスチナ連帯を行うことになったきっかけや、IJVの取り組みについて伺いました。
(※記事の内容は、2017年インタビュー当時のものです。)

(左)マーサ、(右)シド

社会正義を求めるユダヤ人の声


ーーー最初に、IJVのことについて教えてくれますか?

マーサ:
IJVの創設には、オタワの心理学者でソーシャルワーカーのダイアナ・ラルフという人物が大きな役割を果たしました。2008年、トロントにてIJV創設の決起集会が開かれ、カナダのジャーナリスト、ナオミ・クラインも参加しました。

シド:
ちなみにダイアナはオタワに移住したアメリカ人。彼女のようにIJVのメンバーの多くがカナダへと移住したアメリカ人です。私はベトナム戦争後に、マーサは9.11後にカナダへ移住しました。一般的に米国にはより多くのユダヤ人の活動家がいます。

マーサ:
IJVの支部はカナダ全土にあり、緩やかなネットワークによって繋がれています。近年は支援者や連携団体の数が増えていて、数日前には、イギリスの歌手ロジャー・ウォーターズを招いたイベント※をバンクーバーで開催しました。

※2017年10月26日、ピンク・フロイドのメンバーで活動家のロジャー・ウォーターズによるフォーラムがIJVの主催で行われた。

月次ミーティングに加え、日常的な打ち合わせや、やり取りは全てメールです。この通りカナダは広大なので、国内全土で何か政治的なことを企画するのは至難の業です。メンバーは600名ほどとまだ小規模ですが、支援者はさまざまな場所から集まっています。カナダ合同教会[カナダ最大のプロテスタント教会]も支援者です。

シド:
マーサは先日、ロヒンギャ支援を行うムスリム団体の集会にも参加しました。ユダヤ人はいつもナショナリストで、保守的で、日常的にイスラエル支援をしていると思われがちです。私たちは自分たちがそうでないこと、そして「社会正義を求めるユダヤ人」(Social Justice Jews)であることを主張しようとしています。

イスラエルも、宗教も関係なく、ユダヤ人であること

ーーー「社会正義を求めるユダヤ人」・・初めて聞きました。IJV創設にはどんな背景があったんですか?

マーサ:
IJV創設の背景には、イスラエルを巡るユダヤ人コミュニティ内の長年の緊張がありました。私のように教会に属したことのない、プラウドジュー(誇り高きユダヤ人)にとって、イスラエルは全く中心的な存在ではありませんでしたし、ずっとこういった団体を探していました。

シド:
私もまた第二次大戦後、ロサンゼルスに生まれ、宗教的な暮らしや生活を知ることなく育ちました。祖父はラビでしたが、父も私もバル・ミツヴァ[13歳になったユダヤ教の男子が受ける成人儀式]ではありません。家族は共産主義でした。当時は、地代闘争や黒人の市民権獲得運動を背景に、多くのユダヤ人が、共産主義運動に傾倒した時代でした。

ちょうどオリンピックが開催された1984年のことです。父と母は、幼い私を連れてロサンゼルス・コロシアムで行われていた大規模な黒人市民権運動の集会に参加しました。コロシアムに到着すると、誰かが私の母の名前を叫びました。近寄ってきたのは、集会に参加していた黒人カップルでした。両親と挨拶のハグを交わし、彼らが去ったのを見た後、私は「あれは誰だったの?」と聞いたのです。

私は、そのときはじめて、あの黒人カップルが、米警察に不当に危害を加えられ逮捕された少年の両親だと知りました。カップルたちは私の両親の力を借りて、少年を収容している刑務所に少年の釈放を要求したのです。わたしはそのとき、これこそ「ユダヤ性」なのだと思いました。自分たちに向けられた偏見に立ち向かわなければならないと思ったのです。といっても、そこにユダヤ教の宗教的な動機付けはないのですが。

ところで、IJVのバンクーバー支部には一人のラビがいます。彼の名は、ラビ・デイビット・ミバセール(Rabbi David Mivasair)。正直、最初は彼に対して懐疑的でした。宗教っぽい人間は、いつも保守的で、型にはまった頭の固い存在と思っていたからです。

しかし、宗教的なインスピレーションに動機付けられ、活動に参加すればするほど、彼はより強く、より真っすぐになっていく。私は進歩的なユダヤ人の宗教家から距離をとらないようにと気持ちを改めることになったのです。

無宗教であろうが、敬虔な宗教家であろうが、宗教が違おうが、社会正義を求める目的においてはみな一緒だからです。

若者の関心はイスラエルにない

ーーー若者や学生たちも運動に参加していますか?

マーサ:
正直、学生たちの関心を惹きつけることには、とても苦労しています。トロント大学にはメンバーがいますが、限られた数です。理由の一つには、中心メンバーのほとんどが60代、70代のおじさん、おばさん。若者は空いた時間に私たちに会いたいとは思いません。彼らの関心はもっと違うところにあります。

シド:
それ以前に、若者たちはイスラエルに対して、肯定的でもなければ、否定的でもありません。彼らの生活にとって、イスラエルは重要な要素ではなく、彼らの存在を決定付けるものでもありません。親世代や、私たちの世代にとって、イスラエルは大きな存在でした。でも、そんな時代ももう終わり。シオニストやイスラエルは、これについて色々と議論しています。つまり、若い世代のユダヤ人たちがイスラエルを気にもかけなくなっていると。彼らにとっては、本当に困ったことです。運動に参加する若者たちが少ないことは悪い兆候ですが、ある意味では良い兆候ともいえます。そして言うまでもなく、シオニストにとっては悪い兆候です。

人は学べは学ぶほど、パレスチナに共感する


ーーー日本でイスラエル政策に反対するイスラエル人の歴史家に会う機会がありました。彼は20年ほど前にカナダで講演をしたとき、カナダのユダヤ人はアメリカ以上に親イスラエルだと感じた、と話していました。でも、今の若者の傾向を見ると、変わってきているのでしょうか?

シド:
あなたはブナイ・ブリスとCIJAを知っていますか。どちらもカナダのシオニスト機関です。C―I―J―A、イスラエルとユダヤ人に関する委員会(Committee for Israel and Jewish Affairs: CIJA)※の前身はカナダ・ユダヤ人議会です。

※ネタニヤフ率いるイスラエルの政党、リクード党を支持する右派団体カナダ・ブナイ・ブリス、それと対抗関係にある穏健派といわれるシオニスト団体CIJA。その前身はカナダ最古のユダヤ人団体カナダ・ユダヤ人議会で、カナダのユダヤ人コミュニティを代表する機関だった。現在は国内よりもイスラエルとのアドボカシーを中心に行っている。


以前、私はCIJAのウェブサイトで面白い投稿を見つけました。あれは、たしかCIJAの取締役の表明だったと思います。取締役はこう述べます。

「イスラエルとパレスチナについて学べば学ぶほど、悲しいことに多くの人はパレスチナにより共感を示すようになる」

まさにその通りです!彼らの任務は、人々をイスラエルとパレスチナについて必要以上に学ばせないこと、パレスチナに共感してほしくないですからね。では私たちの任務は?人々にイスラエルとパレスチナについてより多くのことを学んでもらうことです。

そうとは言っても、問題はカナダの政治家です。彼らは実際のところかなり多くのことを知っていますが、行動しようとはしません。政治やメディアは完全にイスラエル寄りです。そこから何か得えようとしてもほとんど不可能です。

しかし、ちょうど先週のこと、カナダ放送協会(CBC)の記者、ニール・マクドナルドは、「イスラエルはすでにアパルトヘイト国家だ」と語ったのです[2017年10月24日CBC記事]。CBCがそうした発言をするのは初めてのことです。これこそ、私たちが少しずつ、でも確実に構築しようとしている運動の本質だと思います。

世界的な運動構築の必要性

ーーー私たちはここからどこに向かっていくのでしょうか?

シド:
パレスチナ系アメリカ人で、ヨーク大学の教授ジョナサン・クッターブ(Jonathan Kuttab)という人物がいます。彼はある集会で、二国家案の破綻したパレスチナとイスラエルを取り巻く現在の状況についてこう述べています。

「ユダヤ人の中にある脅威[反ユダヤ主義]というものを見極めなければならない。なぜなら今私たちに足りていないものは、BDS運動だからです。そして真剣に取り組まなければならないのです。なぜならイスラエル政府はその脅威を利用して、また創造しようとしているからです。」と。
[イスラエルの政策批判のための不買運動が、イスラエル政府によって、新しい反ユダヤ主義として、ユダヤ人の脅威に作り変えられることについて]

ここから議論はどこに向かっていくのか。どうすればカナダ全土で、またカナダを越えて、こうした議論や運動を展開していくことができるのか。

そのためには、私たちはかつての南アフリカのように、アパルトヘイトに対する世界的な運動を構築していかなければなりません。そして、「非人種的な南アフリカ」という同様のイデオロギー的戦略のもと、「非人種的なパレスチナ/イスラエル」というスローガンを打ち立てていかなければならないのだと思います。

南アフリカのように、いつかパラダイムシフトが起こるかもしれない。その前兆は、もしかするとすでに始まっているのかもしれない。その日を信じて運動を続けていきます。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?