建設材料におけるGXとDX
石田哲也
論説委員
東京大学
地球上で水の次に使用量が多い資源はコンクリートと言われている。構成材料であるセメント、骨材、水は、地球上のどこでも入手が容易であることが理由の一つである。一方で、カーボンニュートラルに大きく舵を切った昨今の流れから、セメント製造由来のCO2排出量を減らすことが強く求められている。また、自然の浸食作用により生み出される砂の量よりも、都市やインフラ建設のための需要量が増大し、砂の枯渇が問題になっているという報道も耳にする。限りある資源を有効に使用し、カーボンニュートラル社会の実現に向けた変革(GX)を進めるためには、各々の地域で利用可能な素材をうまく使いこなして、品質の高い構造物を作っていく必要がある。
資源の有効利用を進めるうえで、日本発の台形CSGダムの技術は良いヒントとなる。
CSG(Cemented Sand and Gravel)とは、現地で発生する河床砂礫や段丘堆積物(CSG材)にセメントと水を添加し混合したものである。CSG材はコンクリートの骨材に相当するものだが、分級や洗浄することなく、コンクリート骨材としては不適なものまで台形CSGダムの本体に使われるため、現地の材料がそのまま地産地消される。ただし、コンクリートダムとは大きく異なり、CSGでは材料のバラつきを前提とした施工管理を行う。具体的には、CSG材の粒度分布について、現場での最粗粒度と最細粒度を想定し、施工可能な単位水量に幅を持たせて、ダム本体に必要な材料の強度を担保するというものである。
このような材料のバラつきを許容する際、品質管理には工夫がいる。例えば、鋼材などの場合には、品質の安定性について十分な実績があるため、材質を証明するミルシート等の確認で十分である。一方で、現地で発生する材料をそのまま使用し、施工の最中に粒度分布や単位水量が変動するCSG材のような場合には、強度や密度の管理をしっかりと行う必要がある。ただし、十分な品質確保は当然のこととはいえ、管理をむやみに厳しくすることは、建設にかかるコストダウンや生産性の向上につながらないばかりか、資源の有効活用を進めていく動きにブレーキをかけることになってしまう。
現在、建設が進められている台形CSGダムの現場では、最新のデジタル技術が積極的に導入されている。ベルトコンベア上を流れるCSG材の画像を全て取得し、その画像をAIがリアルタイムに分析することで、CSG材の粒度分布の全量管理を目指す試みがその一つである。また、重機の自律・自動運転によるダム本体の自動化施工も試みられている。今後、全量検査されたCSGの材料データとデジタル化された施工データをつなぐことが出来れば、どういったCSGがいつ、どこに、どのように打設されたか把握することが可能となる。さらに打設されたCSG密度を電磁波レーダー等の非破壊検査によって把握できるようになれば、逐一測定されるCSG密度のみを品質判定の指標として、これまで高頻度で実施している圧縮強度試験等を省略できるかもしれない。万が一、トラブルなどが発生した場合でも、材料の製造から構造物全体の品質がデータで紐づけられていれば、客観的な原因究明と解決策を速やかに行うことが可能となる。まさに、施工管理の姿を変えるDX(デジタルトランスフォーメーション)の実現である。このようなデータに裏打ちされた施工DXの運用を通じて、より簡便・安価で合理的な品質管理へのアップデートが期待される。
台形CSGダムをヒントにすれば、コンクリートの可能性も広がる。材料固有のバラつきや取り扱いにくさのために、標準化と普及が十分に進んでいない石炭灰、火山灰、焼成粘土などについても、デジタル技術によりコンクリートの品質や性能が保証されることを前提として、構造物の用途・要求性能に応じた利活用が進むと考えられる。石炭灰や火山灰は、品質のバラつきが大きく、硬化反応が緩やかで強度発現に時間がかかるものの、セメントの代替材料とすることでカーボンニュートラル社会の実現に資すると共に、長期耐久性にも優れる。材齢初期の圧縮強度を要しないもの、あるいは高い圧縮強度を要求しないものであれば、適材適所で積極的に使う価値が出てくる。材齢28日時点での圧縮強度で全て一律に縛るのではなく、コンクリート構造物に求められるそもそもの強度や耐久性を、センシング・モニタリング技術や数値解析等で保証し、これまで十分に使われてこなかった資源の有効活用が実現されれば、まさにGXとDXを両輪で推進することになるのではないだろうか。
土木学会 第188回論説・オピニオン(2023年1月)