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『国土をいかす知恵』-土木学会創立60周年記念映像作品デジタルリマスター

土木広報センターでは、土木学会創立60周年記念映像作品「国土をいかす知恵」をリマスターし、土木学会tvで公開しました。

令和の暮らしを支えるインフラが半世紀前に築かれている姿が鮮明な映像で蘇ります。

当時から見て未来にあたるいま、改めて約半世紀前の映像を振り返り、未来から見て過去にあたる現代において未来のためになにをすべきか、多くの方と考えていけたらと思います。

土木学会創立60周年記念「国土をいかす知恵」
企画:土木学会 製作:岩波映画製作所 カラー24分 1974年作品
制作:安達弘太郎 監督:吉原・堀越 脚本:堀越慧 撮影:浦島竜夫
2022年:16㎜ネガフィルムからデジタル復元、修復処理


ナレーション「国土をいかす知恵」

映像のナレーションの書きおこしを、関連する情報とあわせて掲載しました。今の情報とあわせてみることで、土木の築いた国土の歴史を実感していただけましたら。

佐久間ダム 00:08

これは戦後まもなく行われた佐久間ダムの建設風景である。佐久間ダムは日本の経済復興のきっかけとなった史上最大の建設と言われている。
大型の土木機械、大規模で組織的な施工。それはかつて10年以上かかると言われていた佐久間の開発をわずか4年で完成させてしまった。
佐久間ダムは 私たち土木技術者にとって忘れることのできない建設であり、ここから戦後の土木の歴史が始まったと言うことができるだろう。

1970年代の土木施設 01:37

佐久間から20年経った。
日本の土木はこの20年の間に飛躍的に拡大してきた。
日本のいたるところに工場地帯をつくった。佐久間を超える新しいダムをいくつも築いた。人工の海岸線をつくり、国土の姿を変えることも可能になっていた。
現代の土木は佐久間をはるかに超える大きな力とスケールを持っている。
しかし、機械の力とスケールの大きさだけが現代の土木のすべてだろうか。

日本の山河 02:36

私たちの仕事は国土と一体の関係にある。

幸か不幸か、私たちは日本という山が多く雨の多い土地に生きてきた。
川は豊かな恵みであるとともに、大変な災厄でもあった。
どうしたら水の脅威から生活を守ることができるか。そのための知恵と努力が土木の始まりであった

信玄堤 03:32

例えばこの御勅使みだい川。南アルプスの近くから甲府盆地に流れ下ってくるこの川は、決して長くはないが典型的な急流河川であり、大変危険な性格を持っていた。
それというのも、御勅使川はほとんど直線のまま流れてきて甲府の近くで本流である釜無川に直角に合流してしまう。釜無川は大きいが、その水圧にいつも耐えられるとは限らない。この川をうまく制御したのは、16世紀の武田信玄であった。

その工事は御勅使川を分流させることに始まった。分流させた流れを釜無川と直角にならないように上手の方に導く。合流点には高岩と呼ばれる大きな岩の台地があり、そこに水圧をぶつける。さらに乱流の影響を防ぐために下流に独特の堤防を築いた。

御勅使川は現在でも16世紀のアイディアのように高岩にぶつかり合流している。下流には信玄堤を基礎にした堤防が続いている。16世紀の知恵と努力は400年後の現在でも人々の生活を守って活きている。

塩澤堰 05:41

水を治めるとともに、水の利用も始まった。どうしたら水のないところで水を使うことができるか。

北佐久地方は千曲川という大きな川がありながら、大地をえぐって深いために人々は川の水を直接利用することができなかった。
遠く20キロ以上離れた蓼科山。この山麓に湧き水を発見したのは17世紀の人々であった。彼らは長い用水を引く工事を開始した。その時のリーダーは 初代六川長三郎と記録されている。のちに塩沢堰と呼ばれるようになったこの用水は総延長約50キロ、幹線だけで48の分水堰を持ち、2,000ヘクタールの田畑に水を送っている。

しかしいつの場合でもそうであるが、水を引くより水を公平に利用する方が難しい。塩沢堰には大将と呼ばれる配水担当者がいる。彼はこの用水をひいた17世紀のリーダーの子孫であり、彼の家系は300年にわたって配水の仕事を続けてきた。彼の判断に基づいて堰の開閉が行われる。塩沢堰はおそらく近代以前の知恵が生み出した最良の方法であったに違いない。

北上川総合開発 08:06

現代の私たちはもっと別な方法で水を管理し運用している。

北上川は東北きっての大河であるとともに有名な荒れ川であり、下流一帯は洪水の常襲地帯と言われていた。現代の技術がこの川を制御した。つまり、北上川に流れ込むたくさんの支流にいくつかの流量調節ダムを造ることによって本流全体の流量をコントロールする、いわゆる水系一貫管理が北上川総合開発の基本である。
大きな水系での一貫管理は長い間の理想であった。ダムを作る技術だけでなく、多くの分野での技術の進歩が必要だった。水理研究の発達もその一つである。こうした基礎分野での新しい発見と理論はコンピューターの技術とともに私たちの有力な武器となった。

今、北上川の支流には流量調節と発電を目的としたいくつかのダムが完成している。和賀川の湯田ダム、猿ヶ石川の田瀬ダム、四十四田ダム。そしてその管理運用には11の各地に設置されたロボット水位計や雨量計が正確なデータを送り出す。総合管理事務所のコンピューターがそのデータを処理する。
かつて長い間、塩沢堰の大将は自分だけの能力で用水を管理してきた。
しかし私たちはコンピュータをパートナーとすることによって水系全体を管理することができるようになった。
そして水系一貫管理はより多目的な水の利用を可能にした。今では数百キロにおよぶ用水が、日本の各地で農業用水だけでなく、都市の人々や工場地帯のため 大量の水を供給している。

自然を知ること、自然を利用することは土木の出発点であり、私たちはその上にさらに新しい知識と技術を積み上げていく。

青函トンネル海底地質調査 12:12

昭和30年代のことであった。津軽海峡で青函トンネルのための海底調査が繰り返し行われていた。私たちの仕事にはいつの場合でも未知の分野との出会いがある。

青函トンネルもそうであったが、現代の土木はそれがビッグプロジェクトであればあるほど綿密な調査とプランニングが必要である。そしてそのプランニングには、かつて土木と無関係と思われていた多くの分野からの知識が必要になってきた。

東名高速道路 13:10

東名高速道路のプランニングもその典型的な例であった。
東名高速は言うまでもなく名神と共に日本で初めて建設された本格的なハイウェイである。日本人の大部分が経験したことのない新しい道であり、外国での例や一般道路の技術だけでは解決できない多くの未知の分野があった。

例えば 100キロのスピードはドライバーにどのような影響を与えるか。生理学、心理学の分野からの研究、安全工学面での追及。情報を正確に伝えるためにはどのような方法が適切か、パターンと視覚の研究。
ドライバーの疲労を少なくするためにはどこにどのような施設が必要か、どうしたら自然環境とマッチするか、多くの分野からの知識と情報が提供された。そしてそれらを集約して一つのプランにまとめ上げるのは土木技術者の仕事であった。コンピューターを使って道路ができたときの新しい景観も予測した。昭和44年に完成した東名高速道路は道路と人間の関係を追求した新しい道であり、多くの分野からの知識の集約であったと私たちは考えている。

着工中のビックプロジェクト 15:29

今 日本の各地ではかつてない新しい試みが続けられている。

関門海峡では、地震や台風の影響を完全に克服してセンタースパン712mの長い吊り橋が海を越えた。

青函トンネルの現場では海面下240メートルで湧き水の危険と戦いながら掘削が続けられている。延長53.9キロ、世界最長の海底トンネルは昭和53年に完成の予定である。全国を新幹線で結ぼうとする大きなプランも実行に移されつつある。

私たちの仕事は年を追ってスケールの大きいものになっていく。そのための新しい技術はいつも追及されなければならない。

しかしそれと同時に、私たちの建設が人々や自然環境にどのような変化をもたらすか。その影響を前もって予測し新しい調和を見つけ出していくことも重要な仕事になっていくだろう。

本州四国連絡橋の着工も間近である。

生きている都市 17:24

都市。日本人の70%は都市に住んでいる。
自然をコントロールし、多くの分野の知識を吸収してきた土木は当然の結果として生活環境の改善に直面する。そこでの仕事は実に多い。都市のプランを作る仕事、都市を立体化する仕事、古い市街を再開発する仕事、交通網を整備する仕事。現代の都市はいつも工事中である。
そして最も重要な仕事の一つが地下で行われている。電気・ガス・水道・下水道。都会生活の神経と動脈がここにある。
都市での仕事は自然だけが相手ではない。人間生活そのものが私たちの前に立ちふさがる。交通対策、騒音の問題、住んでいる人々の利害関係。
多くの制約を背負って1本の下水道が掘られていく。汚水処理場も地下に建設されるようになった。
道路を掘り返したりしないでモグラのように地下を掘り進んでいく工法も開発された。シールド工法による地下鉄の建設。地上の人々が気づかないその下で地下鉄が完成していく。

都市は生きている。生きているためにいつも変化と改善を求め続けている。
それに応えて、私たちも自分たちの手で築いたものを自分たちの手で作り変えていかなければならないだろう。
しかし、もし土木がシビルエンジニアリング-市民生活を支える技術と呼ばれるならば、こうした仕事の中にも私たちの技術の本質があるのかもしれない。

雪崩の実験 21:06

土木技術者のグループが三国峠の近くで一つの実験を試みようとしている。
雪国の人々にとって恐ろしい災害である雪崩の現象を人工実験によって解明する。

自然との調和 22:55

日本の土木は 自然から人間生活を守ることに始まった。そして長い歴史の中で次第に大きな力を手にしてきた。しかし私たちは決して自然を征服できるとは思っていないし、現代の土木がそれを目指していると思わない。
現代の土木は調和を見つけ出す技術である。
自然と人間の間に、あるいは一つの人間生活と他の生活の間に調和と接点を作り出す技術であると私たちは考えている。

現代の土木は自分を主張しない。
しかしそうであるからこそ、土木という仕事は「シビルエンジニアリング」と呼ばれているのではないだろうか。


土木技術映像

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