アメリカの病院CHOC自閉症センターのファンドレイジングGALA
先日、カリフォルニアのオレンジカウンティーにある小児科専門病院CHOCの、自閉症センターのファンドレイジング・パーティーがありました。低所得家庭の自閉症児の医療支援をするための資金を集めるためです。
ASDについて大変勉強になる当事者・ドクターからのプレゼン盛りだくさんのパーティーで、さらに一晩で$800,000(約一億二千万円)もの寄付金集めに成功したこのパーティー。ご縁があって、そのパーティーに出席してきたので、報告をしたいと思います。(↓ニュースになっています)
私はアートが専門で、アメリカではニューロダイバージェントの生徒へ向けたアートの教師をしています。そのため、生徒の多くはASD(自閉スペクトラム症)、ADHD、学習障がい、ギフテッドなど、さまざまな特性があります。
私は2E(ギフテッドと発達障がいや学習障がいを併せ持つ人)専門の2E4MEという学校でもアートと日本語のクラスを持つ傍ら、ケイダッドという、発語がなく、重い知的障がい、身体障がい、そして重度のASDのある20歳の青年のアートインストラクターとしても、ほぼ毎日働いています。
ケイダッドの話をすると、日本の方からはヘラルボニーみたいだねと言われます。確かににているのですが、ケイダッドの障がいは重く、アート制作と言っても、鉛筆を持つこともできませんし、色を選ぶこともできません。私と行動療法士がチームとなって、彼のできる範囲で、どんなアートの制作が可能かを議論し、技法などに制限のある中でさまざまなアート制作に挑んでいます。私はアートの専門家として、画材や色選び、技法の提案などのサポートをします。
ボトルから絵の具を垂らすジャクソンポロックのような手法、大きな筆を左右に振ることで線のようなものを描く手法、スポンジで絵の具を広げる手法、素手で絵の具を伸ばす手法などを使い、これまでキャンバスから洋服まで、いろんなものにペイントしてきました。
この春は、その彼の作品が、5月中旬の病院のファンドレイジング・パーティーに出品され、オークションにかけられるということで、私たちはせっせと作品制作に励んでいました。
ドレスコードはタキシードとロングのイブニングドレス
5月になって、実は、ケイダッドのスタッフ(行動療法士や私、事務員など)がそのファンド・レイジングパーティーに招待されているということがわかりました。よくよく招待状を読んでみると、ドレスコードがあり、参加者はタキシードとロングのイブニングドレスで参加しなければならないと書いてあります。
スタッフがその招待状に気が付いたのが、パーティーの一週間前。まさか、招待されるとは誰も思っていなかったので、みんなメールをすっかり見過ごしていました。私たちの会社は、ASDの青年の日々のサポートをする会社なので、みんな、そんなタキシードやドレスとは無縁で、だれも持ち合わせていません。焦ってドレスとタキシードの調達が始まりました。
たまたま製作していたケイダッド制作の黒のドレス
実は、ケイダッドのお母さんはファッションデザイナー。お母さんの遊び心で、数ヶ月前に、黒いドレスに、ケイダッドが絵の具を垂らしてみるというのを試したことがありました。
私の着るドレスがなく困っていたところ、この試しに作ってみたドレスを着てみてはどうかということになり、試着したらぴったりだったので、大変光栄なことに私はケイダッドと一緒に製作したドレスを着ることになりました。
こちらがパーティーでのケイダッド・チームの写真です。ケイダッドは知らない人がたくさんいるパーティーは苦手なので、出席していません。
お医者さんのスピーチ
パーティー(GALA)は本当に美しい会場でした。
そこで、登壇者が次々にスピーチをして、自閉症のある子供たちの実態やニーズを伝えてくれました。
一番心に残ったのは、お医者さんのスピーチ。「私たちの病院では、患者がいろんな病院や専門家をたらい回しにされるのを避けるべく、一箇所にさまざまな専門家をそろえ、統合的に診断できる病院を目指して運営しています。多くの自閉症児が、同時に複数のいろいろな困難を抱えます。睡眠障がい、不安障がい、ADHDなどなど。この病院ができるまでは、保護者は、それぞれの症状のために、別の医者や専門家を訪ね歩かなければなりませんでした。さらに、その医者や専門家同士はコミュニケーションをとらないので、一貫した治療方針になりにくく、チグハグな方針の狭間で保護者が苦しんだりしなければなりませんでした。
一箇所で、ASDの相談はもちろん、睡眠の相談も、不安障がいの相談もできる。そんな私たちの病院を、低所得家庭の子供たちも気軽に使えるように、寄付が必要なのです。」
寄付を集めて、低所得家庭の自閉症児を支援をするためのオークション
この病院では、もともと寄付金集めにとても苦労していたのだそうです。
アメリカの高額な医療費。
悪名高い医療保険システム。
国からの支援は少ない。
格差社会。
このような社会状況の中から、医療関係者や当事者家族が立ち上がり、知恵を絞って作られた、この寄付金集めのファンドレイジングパーティー。
中心になっているのは女性たちのチームなのだそうです。
このセンターの理事長は、「資金集めチームを、女性たちに任せるようにしたら、たくさんのクリエイティブなアイデアが毎年出てきて、どんどん資金を集める凄腕チームができた。感謝してもしきれない。」とスピーチ。
いや、このパーティー、本当に細部まで丁寧に気遣いがあって、すごいなあと思っていたのですが、凄腕女性チームが背後にいたときいて妙に納得。
美しくセンスの良いパーティー会場、オークションにかけられるもののセンスも抜群。よくある豪華バケーションパッケージなどから、全米ケーキコンテストで優勝した地元の高校生パティシエのオリジナルケーキ、そして、ケイダッドのようなASD当事者のアート作品まで。
私も、お金があったらいくらでも寄付したい!という気持ちになるような仕掛けが山盛りのパーティーでした。
ケイダッドの作品とオークション
今回、出展したのは、アメリカの国旗をイメージしたケイダッドのキャンバス作品。なんと、オークションで$20,000(約300万円)で売却。
私とコツコツ作ってきた作品が、こんなに大きなお金になって、病院に寄付として貢献できるなんて、感無量でした。
IQに関わらず、障がいのあるなしに関わらず、みんながそれぞれの個性を伸ばしイキイキできる社会を
私は日米ギフテッド教育協会を立ち上げているので、私が高IQにしか興味がないように思っている方もいらっしゃるようです。
私は、子供たち一人一人に、必要な支援が届いて欲しいという思いの延長で日米ギフテッド教育協会を立ち上げているのであって、ギフテッド以外の子供に興味がないなんてことはまるでありません。
ケイダッドのセラピストの話では、彼はIQテストは試しても受けられなかったのだそうです。そもそも、問題を理解しているのかどうかも怪しく、テストにならなかったとのこと。
IQの数字が出なければ、そのことも考慮して、彼の日々の様子や、ご両親やお医者さんの意見などを参考に、支援計画を組み立てていきます。
IQは、支援をするための、たくさんある指標の中のたった一つにすぎないと思います。IQの数字によって(その数字が障がいなどに惑わされず正しく出ている場合は)、大体の特性が把握できるため、より良い支援につなげやすい。それだけのことです。
IQに関わらず、障がいのあるなしに関わらず、みんながそれぞれの個性を伸ばしイキイキできる社会になったらいいなと心から願っています。