ゆるふわますい

日本で麻酔科医として勤務後、米国でも麻酔科医として勤務しています。教科書の行間や日米間の情報の差を埋められるような記事を書いていきます。

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マガジン

  • 麻酔周辺の記事

    麻酔周辺のトピックを記事にしたものです。

  • その他の記事

    医療関係が主体です。それほど麻酔に関連しない記事、その他の記事を含みます。

  • 麻酔の基本

    麻酔についての基本について書かれた記事をまとめたものです。

最近の記事

術中の血圧維持 2024

なかなか術中の血圧維持の明確な目標値が示されてきませんでしたが、アメリカでは2024年にある程度の数値目標が定められたので簡単に書いていこうと思います。 代表値としての血圧、難しい目標設定血行動態の安定(hemodynamic stability)を維持するために、心拍出量だけでなく血圧もある程度保たなければいけません。 患者の血管腔の太さ・細さはまちまちで、心拍出量があっても血圧が低いと狭窄した抵抗の高い血管に行き渡りにくくなるからです。各臓器の隅々まで血流を行き渡らせる

    • セボフルラン使用における新鮮ガス流量

      アメリカでのセボフルラン使用における低流量麻酔事情で少し変化があったので備忘録として残しておきます。 低流量麻酔ちょくちょく話題に上がる低流量麻酔というのがあります。 低流量麻酔に正確な定義はなく、新鮮ガス流量(FGF: fresh gas flow)が分時換気量(MV: minute volume)を下回るのが基本で、実臨床では大概FGF 0.5〜1.5 L/minというように、<2 L/minとしていることが多いと思います。 新しく呼吸回路に入ってくる気体(=FGF

      • Tranqという違法薬物

        2018年あたりからTranqという違法薬物がアメリカで出回り始めました。 年々Tranqによる死亡が増え続け、2023年4月にはバイデン政権により新たな脅威(emerging threat)に指定されました。 Tranqは、キシラジンという鎮静薬とフェンタニルという鎮痛薬を主に含んだ違法薬物です。トランクと読みます。Tranq dope、Philly dope、Zombie drugと呼び名が複数あります。 オピオイド危機とフェンタニルアメリカ国内はオピオイド危機(o

        • Gastric POCUS

          POCUS(Point-of-care ultrasound、ポイントオブケア超音波)が浸透してきている中、今回扱うのはgastric POCUSの基本の紹介・導入です。 日本語だと「胃POCUS」となりますが、正式・公式な訳は特にまだ決まっていないように思われます。POGUSとか呼ばれていたりもしますが非公式です。 POCUSは米国で先に浸透していっている臨床技術で、専門家が行う包括的な、一通り詳らかに調べる超音波検査とは違います。その臓器や系に精通していなくてもできる

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        マガジン

        • 麻酔周辺の記事
          11本
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          3本
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          6本

        記事

          GLP-1受容体作用薬

          短い内容ですが、久々にこちらから失礼いたします。 糖尿病に対する薬として登場したGLP-1受容体作動薬ですが、自由診療でダイエット薬として使われてもいます。 弊地、米国某所でもこの薬を使う患者をよく見るようになりました。 実は、この薬の副作用として胃排泄遅延(delayed gastric emptying)が知られており、鎮静・全身麻酔施行時の誤嚥のリスクが話題になっています。 6月29日にはASA(米国麻酔科学会)からもGLP-1受容体作動薬を使用する患者の術前管

          GLP-1受容体作用薬

          医賠責の原則・ポイント

          医賠責って?医師賠償責任保険、通称医賠責。 医療事故における医師個人への賠償責任への負担を、保険金で補償してくれるものです。美容など特別な条件を除き、保険診療も自由診療も補償します。 病院自体が賠償責任保険に加入していますが、病院との利害の対立などで守ってくれなかったり、個人が訴訟を起こされることもあります。特にアルバイトなどで医療行為をする場合は病院が守ってくれることはないでしょう。医局外など働き方が多様になった今こそ重要になってきていると思います。 この医賠責、医師

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          医賠責の原則・ポイント

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          吸入麻酔薬の排泄

          手術が終わり全身麻酔から患者を覚醒させるため、吸入麻酔薬を換気により排泄しているとき、こんなことを上級医から言われた記憶がある方がいませんか? 「心拍出量を増やして肺に吸入麻酔薬が素早く流れれば、肺からの排泄も早くなる」 これは本当なのでしょうか?

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          吸入麻酔薬の排泄

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          IV-PCA(の持続流量)

          IV-PCAについてこちらでつらつらと書いていきます。 IV-PCA?PCA = patient-controlled analgesia。患者自己調節鎮痛。患者による鎮痛。なんのこっちゃよく分かりませんが、通常病院にいるときは、 というステップを踏むので痛み止めの薬が投与されるまでに時間がかかります。頓服指示を忘れていたり漏れがあった場合には、オーダーを頼んだり修正するため更なる遅延となります。 一方でPCAは、 というように、必要な時に効率的に投与し、患者の鎮痛や

          IV-PCA(の持続流量)

          手術室の温度設定と熱喪失

          英国から出た手術室環境のガイドライン*1に、手術室は最低でも21℃に設定するという文言があり、Twitterで外科医の先生が21℃は暑すぎると主張しているツリーを見かけました。 上のツリーの意訳が下記のようになります。 このツリーの議論の進め方で何かおかしい点や違和感はありますか? というのが今回のテーマです。

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          手術室の温度設定と熱喪失

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          麻酔の準備

          7月となり米国でも新しい麻酔科レジデントが仕事場に加わりました。ちょうどいいタイミングでもあるので、麻酔の準備について書いていきます。 対象はローテーションを始めた医学生、初期研修医、麻酔科後期研修医1年目の方々です。 日本ではあまり知られていませんが麻酔の準備に関してはMSMAIDSというニーモニックがあります。それぞれ、 を示しています。MとSが2つあるのはご愛嬌ですね。 チェックリスト的なものを目指すので箇条書きスタイルでいきます。 もう慣れていてこんなニーモニ

          手術室以外での気管挿管依頼

          今回はCOVID-19の状況もあり、手術室以外での挿管依頼についてお話しします。病院により物品や人的資源の違いはありますが、出来るだけ一般化できるように努めます。 「大変な困難気道で上級者以外は手が出せない症例」という珍しいものではなく、「よくある防げる簡単なミス、とはいえ重要な例」を挙げていきます。 気管挿管を依頼される医師の方はもちろん、依頼する側の医師や看護師の方にも読んでいただきたいです。 どんな状況で挿管依頼?通常の気管挿管、人工呼吸器の適応と一緒です。 あ

          手術室以外での気管挿管依頼

          Fast and Slow − 診療のスピード感

          はじめにダニエル・カーネマンのファスト&スロー(Thinking, Fast and Slow)は行動経済学の本で、「速い思考」と「遅い思考」という二つの思考システムを扱っています。これらと麻酔科の専門科領域での立ち位置や少し医療安全について述べていきます。 麻酔科ならびに他診療科との比較のイメージが少しでも鮮明になれば、と思います。医学生や初期研修医の方々は診療科選択の一助にしていただけると幸甚です。 診療のダイナミクス医療での患者への対応での基本は、まず生命の兆候を維

          Fast and Slow − 診療のスピード感

          酸素化の指標 3

          酸素化の指標シリーズの3回目です。今回は低酸素症と低酸素血症の違いを扱います。対象は広く医療関係者です。 低酸素症と低酸素血症低酸素症(hypoxia):「組織」に酸素が十分行き渡っていない状態 低酸素血症(hypoxemia):「血液(動脈血)」に酸素が十分行き渡っていない状態 大概これら2つは同時に起こり、似たような意味を持つため、普段はあまり違いを意識することはありません。しかしこれらの一方だけが存在する病態があります。 酸素は、気道 → 肺 → 動脈 → 毛細血

          酸素化の指標 3

          酸素化の指標 2

          前回はSpO2とPaO2の違いについてお話ししました。 今回はfunctional saturation (SaO2)、fractional saturation、さらにそれを知った上でのSpO2のエラーがテーマです。対象は医療従事者となっております。今回は難しめの内容ですので、興味のある方のみご参照ください。 SpO2、SaO2、%O2HbSpO2は経皮的にパルスオキシメーターを指などにつけて計測するヘモグロビンの酸素飽和度です。患者に侵襲もなく気軽に使える優秀な指標の

          酸素化の指標 2

          酸素化の指標について

          今回は酸素化をモニタリングするときのいくつかの指標を解説していきます。 対象は広く、医療関係者から医師全般です。 SpO2とPaO2初めにこの二つの違いを考えてみましょう。 よく使われるこの二つの酸素化の指標、どうやって使い分けるか案外はっきり知られていないものです。 大概この二つの違いを質問すると、 SpO2:動脈中のヘモグロビンにどれだけ酸素がくっついているか(%)PaO2:動脈中の酸素分圧(mmHg) と定義が返ってきます。他にはヘモグロビンの酸素解離曲線を

          酸素化の指標について

          気管挿管の適応

          今回は気管挿管について書きます。対象は医学生、初期研修医をはじめ医師全般です。 医療に携わっていると身近な気管挿管。しかしなぜ気管挿管を行うかについてはあまり詳しく語られていない気がします。ありふれていて基本的なことだからこそ、どういう時に気管挿管が必要になるのかを述べていきます。 人工呼吸器の適応についても触れていきます。 よく言われる適応気管挿管の適応は? と聞かれて大体挙げられるものは、 1.酸素療法*1に耐えられない低酸素血症 2.高二酸化炭素血症を呈する換気

          気管挿管の適応