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Episode6【未来】がない!〜映画界の実態を把握する・現場の声 Mash UP〜

JFPではこの度、映画の制作現場で働く女性スタッフの皆さん、9つの部署から11名の方にご参加いただき複数回インタビューを行いました。この「現場の声 Mash UP」では、インタビュー参加者が不利益を被ることがないよう全員匿名とし、発言者やエピソード詳細を入れ替え再構築し編集しています。

問題や課題を感じていても、発信しにくい立場の方々からの具体的な声を可視化し、問題点を共有しようという試みです。日本映画界の労働環境の改善に向けて、今後どのような取り組みが必要なのか?実際の現場からの声、第6回【未来】がない!をお伝えします。取材:近藤香南子・歌川達人 / 編集:近藤香南子

<インタビュー参加者>
年齢:20代〜40代(キャリア5〜15年)
部署:アシスタントプロデューサー、演出部、撮影部、録音部、メイク部

とにかく人がいない

JFP:近年は配信系の作品数もかなり増えていますが、そのことによる影響はありますか?

演出部とにかく人が足りていない。これはどのパートでもそうで、スタッフの取り合い状態です。配信作品が増える前から人手不足だったので、さらにという感じ。

メイク部:面白い映画が見たい、作りたいと思って仕事をしていて、どうすればいいのかと考えるんですけど、どんどん人が辞めていく。自分が面白いと思った人ほど辞めていったりして。じゃあ残されてる、辞められない人だけでやっているような感じがしますね。

JFP:それは新人たちが辞めていく?

メイク部:いや、何年かやっている人でも「この働き方をずっと続けられると思えない」と辞めていく人がいます。もちろん、新人もですけど。

AP:制作会社の上の人やクライアントたち、偉いんだから、いろんなことを変えられるんじゃないのかっていう、一抹の願いがありましたけど、そんな気配もなくて。プロダクションも育てる機能があれば新卒を取るんだろうけど、現実はフリーランスのプロデューサーを、経験がある人をその都度集めている。そもそも、スタッフを育てる、教育するってシステムがちゃんとしてればこんなことにはなってない。映画学校から、卒業するときはただ野に放たれる。あとは頑張ってみたいな。

演出部:そうして受け入れた先の映画界も、「はい、頑張って」という感じですよね。最初に良心のある、丁寧に教えてくれる上司に出会えるかどうかに大きく左右されてしまう。

新人も育たない

制作部:「楽しい仕事だよ」って、自分から言えなくて。辛いんで。夢を持って、制作部をやりたいって子も最近いないんですけど、現場に入ってきた子が「やっぱりいいです」となるパターンがすごく多くて….。「こんなに辛いんだったら別の仕事をします」と。私たち中間も上が詰まってるので、上がれなくて、いっぱいいっぱいになってるときに下をちゃんと育てる時間がない。一からこうやるんだよって教えてあげたいけど、時間がなくてほったらかしになっちゃったりして…..。そんな時にきつく怒られたりとかすると、もう嫌だなと思って辞めていってしまう。

録音部:なぜか怒られる時は他の部署からも揶揄されて、新人の頃は本当に辛い。

制作部:新人の頃は、特に男性がしんどそうだと思います。制作部で言うと、女性の方がおじさんや年配の方から「ありがとね!」と言われやすい。男性が同じようにしても「もっとこうしろよ」とか、男性の方があたりがきつくなる気がします。「弁当が冷てえんだよ!」とか、「もっと走れよ!」みたいなことになりがちで。きちんと対応しても、「お、おう」みたいな感じで、「ありがとね!」とならない。

演出部:確かに……。それはそれで、しんどい問題ですね。

録音部:総じて新人や見習いへのあたりが強すぎますよね。みんなで育てようという感じがあまりない。

JFP:それだけみんな自分の仕事で手一杯だということなんでしょうか。

録音部自分がそうされてきたから、そういうものみたいな。

演出部:学生ボランティアやインターンの子たちが連れてこられて、ポンと放り込まれて、過酷なスケジュールで、一人また一人と倒れていく。そういうところで日本映画の人材育成システムって決定的に失敗している。というか人材育成システムがほぼないのか......。

AP:スクリプターなんかも学校(*日活芸術学院)がなくなって、専門学校の短期講習か、直接の弟子入りしかないんですよね。スクリプターって役割分担ができなくて、基本一人でやるものだから、弟子を連れて二人になると今度は制作費を圧迫するので、現場に見習いを入れにくくて、育成が難しいそうです。重要なパートの仕事が継承されない。

上はギュウギュウ、下はスカスカ

メイク部:コンテンツが増えて、人いないって言ってもトップはいつも一緒みたいなとこもあるし。若手に挑戦させてあげればいいのに。下の子も頑張りきれない。育たない。

AP:循環、代謝が悪いですよね。

メイク部:上の人たちがいなくならない限り、下がいけない。

撮影部:上まで上がっても、フリーランスで退職金があるわけでもないし、ギャラは頭打ちになる。映画しかやってきてない人ばかりだし、セカンドキャリアという考えもない。監督なんかを見ていても、休みなく撮り続けるしかないということなのかな。

録音部:上の方はそれはそれで仕事の取り合い状態なのか。

メイク部:助監督って将来監督をするためのステップみたいになってるじゃないですか。ギャラもポジションで上がっていくし。でも、助監督の仕事が楽しいという人もいるんじゃないかなあ、と思っていて。原稿作りが得意だったり、衣装部さんとのやりとりが得意だったり。監督とのパイプ役になるのが上手いとか。ポジション上がっていく前提じゃない、職業サードやセカンドというのがあってもいいのになあって。いつも思うのは、美術部さんが担当になる経験の浅いサードの人に、毎回仕事を教えてあげなきゃいけなかったりして。そうじゃなくて専門職として、エキスパートの助監督として、十分なギャラをもらえるようにやっていけたらいいのに。

JFP:みんながみんな監督や技師にならなきゃいけないわけじゃないですもんね。

撮影部:撮影部でも、今セカンドにあたるフォーカスプラーを専門職として扱ってもらおうという動きもあります。フォーカス(*ピント)って、カメラの進化もあって、年々合わせるのが難しくなっているにも関わらず、現場でリスペクトされなかったり、計測の時間がもらえなかったり。ギャラもよくない。それはおかしいだろうと。

JFP:将来、監督やプロデューサー、技師になりたい人と、今の仕事が楽しくてやっている人と。どのパートでも言えることですね。

撮影部:そうするとその道のプロフェッショナルとして、その仕事を専門職として技術を高めたり、情報の共有をしていくことができますよね。助監督サードでも、フォーカスプラーでも、どんなアシスタントでも。横のネットワークだって作りやすいし、結果的に作品のクオリティも上がると思う。

制作部:確かに、パートの中での上下関係みたいなのも薄まって、風通しが良くなりそう。

演出部:でもそういうのは絶対嫌って人もたくさん.....。

撮影部:いますね......。

老後の資金がありません

録音部:60超えた他のパートの方がうちの上司に「お金がなくて….お金を貸してくれ」ってことがあったんです。実際貸してるんですよ。歳をとってたくさん仕事ができなくなって、レギュラー仕事くらいしかなくて、金額もだんだん落ちてきて…..。そうなったときに生活できなくなっちゃったんですよね。最終的に体を壊されて。そういう怖い未来も実際ある。

JFP:今、「若手のために!」って話を聞いていますけど、このフリーランスの働き方をしていった未来への不安もありますね。

録音部:2000万円問題ってあったけど、あれは厚生年金フルでもらえて、夫婦で家があってというのが前提じゃないですか。厚生年金の無い私たちは2000万じゃ足りない

演出部:そう考えると全然見合わないですよね。退職金があるわけじゃないし、各種住宅手当とか、そういうものも一切なくて。自分で貯蓄するしかない。自分で財テクできる人以外は老後大変なことになりそう、どうしよう。

録音部:先が見えない、そういうところも新しい人が来なくなってしまう原因で、結果業界が先細りになってしまうというのがあるので、鶏が先か卵が先かじゃないですけど、私たちが変えていかないとという気持ちがあります。でも、何から手をつけていいかわからない。

自助努力の限界

AP:自分が立場が上になったら変えられるって思ってたんですけど、上の立場になるまでに時間がかかるし、その頃には何年も無駄にしてしまう時間も生まれるわけで、女性の場合は特に身体的な出産のリミットというものがあるから、男の人に比べて「待ってられないよ!」って感覚がありますよね。

メイク部:モヤモヤ、ジレンマ。変えたいし、変えて欲しいけど、何から、どういう形で変えたらいいか現場の自分たちにはわからないというのが現実。

演出部:どうすればより良い作品をより良い環境で作れるのか。例えば海外だったら、どこかで無理が出てきたときにどう折り合いをつけてやってるのか。そういうことも知った上で、どう変われるのか。自分も学んだ方かいいのかなとは思うけれど余裕がない。

AP:いつか、子供を持った時に、仕事を交代し合ったりする仲間ができたらいいなって思って声をかけています。ユニオンができて仕事を持ったお母さんがレギュラーになるまではまだまだ時間がかかるから。短いスパンで変化があるかわからないから、そういうコミュニティーもあったらいいなって思ってます。

撮影部:自助努力に尽きますね。今できることは。

制作部:今聞こえてくるのは、出産で現場を離れた先輩たちが「現場の人材をきちんとサポートできる会社を立ち上げた」とか、「保育士免許を取って現場のシッターサポートを考えている」とか。二交代制で現場に出ているスクリプターさんもいますし、女性がなんとかして働き続けたいという頑張りばかりなんですよね。

撮影部でも作品にお金を出している、コントロールできる立場の人ってほとんどが男性なわけだから、そこが動いてくれたら改善できることばっかりなのに。

AP:スタッフはみんないい作品が作りたいわけですから、労働環境改善に取り組んで、様々な立場の人が働けて、なおかついい作品ができたよって事例が日本でももっとあったらいいんじゃないかな。大きい会社で大々的に実践して、モデルケースを作って欲しいなと思ったりします。

演出部:いいですね。そういう作品に是非参加したいです!

JFP:たくさんお話を聞かせていただきありがとうございました!

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〜編集後記に続く〜

※本プロジェクトは、トヨタ財団 2021年度研究助成プログラム「日本映画業界におけるジェンダーギャップ・労働環境の実態調査」(代表:歌川達人)の助成を受けて実施されています。

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