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韓国映画界、俳優の契約はどんなルール?:俳優に関する標準契約書
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本記事では、韓国映画界の契約や就労環境に関する制度やデータを調査員である大塚大輔(韓国語通訳翻訳)がまとめた。
韓国映画界における、俳優に関する標準契約書
韓国では、建設業界からプロスポーツに至るまで、頻繁に交わされる契約のための標準的な書式として「標準契約書」が各分野で広く普及しています。特に映画業界を含めた放送・芸能、文化・芸術分野でも様々な標準契約書がこの10年ほどで急速に普及しています。
なぜこのような契約習慣が急速に普及したのか。その背景には、1990年代から韓国内で大衆音楽、映画、テレビドラマなどのマーケットが急速に拡大し、更には90年代中盤から海外進出・輸出も盛んになる中、“奴隷契約”と呼ばれるほど搾取的な歌手・俳優の専属契約システムや、あいまいな口約束による金銭・収益分配トラブル、劣悪な労働環境による事故…などの様々なトラブルや紛争が噴出し、それを是正するために各当事者が時間をかけて改善を図ってきたことにあります。
2014年には「大衆文化芸術産業発展法」が施行され、その中で俳優や歌手などの芸能人は法律上「大衆文化芸術人」と規定されたことで法的・制度的な保護を受けやすくなり、同時にマネジメント業や制作会社の登録制も進んだことで、問題のある事業者は徐々に淘汰され、(もちろん現在も様々な問題はあるものの)業界の「透明化」が進むことになります。
そのため、現在では韓国の映画・ドラマ関係者と話すと「あらゆる場面で契約書を交わすのは当然」というほどにまでなりました。
その標準契約書、俳優活動にかかわるものとしては
■標準専属契約書(俳優と事務所)
■放送出演標準契約書(俳優/事務所と制作会社/放送局)
■映画出演契約書(俳優/事務所と制作会社/監督)
また、公式の標準契約書ではありませんが、監督組合(DGK)が独自に制作した組合員向けの標準書式としては
■DGK演出契約書(監督と制作会社)
があります。
以上の標準契約書は、文化体育観光部、韓国映画振興委員会(KOFIC)、韓国映画監督組合など、関係機関のホームページからすぐに入手できます。
標準契約書の使用で公的助成が優先される
標準契約書を使うメリットとしては、上記のようなトラブルの防止や条件の明文化はもちろん、案件や事業所ごとに逐一書式を作る必要がないため、契約にかかる事務作業が大幅に効率化される点も挙げられます。また、韓国の労基法など関係法に反しない限りは、特約・付帯事項を加えることも可能です。
また、前述の「大衆文化芸術産業発展法」の改正によって、2025年4月からは映画制作・配給において公的助成を受けようとする場合、「標準契約書の使用で公的助成を優先的に受けられる」ことが明文化され、標準契約書の法的効力が更に強化されます。
韓国映画界ではコロナ禍以降の観客数の減少、映画振興の財源となっていた映画チケット賦課金の徴収廃止(2025年1月 ※その後、1月16日に与野党が合意し、徴収は再度の法改正を経て復活する見込み)、映画祭への公的支援も削減されるなど、厳しい状況が続く一方、このような事務・契約面の制度整備が進み、ニュージーランドのクミュ・スタジオの撮影所建設による技術スタッフの需要増も見込まれています。
法・各種制度の整備による業界の健全化と、それと連動したグローバル化による雇用・仕事の確保。今後の韓国映画界を考える上での鍵になりそうです。
◎「大衆文化芸術産業発展法」における、「大衆文化芸術人」の定義~
「演技、舞踊、演奏、歌唱、朗読、その他の芸能と関連した役務を提供する者、もしくはその意思を持って大衆文化芸術事業者と関連役務を行う契約を結んだ者」
◎「大衆文化芸術産業発展法」における、「大衆文化芸術事業者」の定義~
「放送映像作品、映画、ビデオ作品、公演作品、音盤、音楽ファイル、音楽映像作品、音楽映像ファイル等の制作、大衆文化芸術人の役務の斡旋、企画、管理などを行う者」
専属契約を結ぶ「大衆文化芸術人」の契約方式
・標準契約書 59.5%
・標準契約書の一部改変 25.7%
・独自の契約書 12.2%
・契約書なし 2.7%
(※出典:「大衆文化芸術人実態調査結果報告書」P217~P218,2023,韓国コンテンツ振興院編~2022年調査、専属契約がある者147名が回答)
【参考資料】
1)国立国会図書館調査及び立法考査局 発行 「外国の立法」2014年2月号内【韓国】 大衆文化芸術産業発展法の制定 筆:海外立法情報課 藤原 夏人 https://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/legis/2014/index.html
KBSワールドラジオ・日本語放送「またしても“奴隷契約”か」(2023.6.6)https://world.kbs.co.kr/service/contents_view.htm?lang=j&board_seq=439896
東洋経済新報オンライン「韓国人気アイドル「事務所提訴」なぜ頻発するのか」(2023.6.7) https://toyokeizai.net/articles/-/677671
東亜日報(韓国・韓国語)「芸能事務所、1000か所あまりを全数調査 不適格業者の退出」(2012.5.10) https://v.daum.net/v/20120510031908398
NSP通信(韓国・韓国語)「芸能事務所の登録制転換…不適格業者の退出」(2014.9.30) https://www.nspna.com/news/?mode=view&newsid=100934
Kstyle(日本語)「韓国の芸能事務所が申告制から登録制に変更…違法業者の制裁に乗り出す」(2014.9.29) https://kstyle.com/article.ksn?articleNo=2004630
大衆文化芸術産業発展法 全文(出所:法制処 国家法令情報センター、2024年12月1日閲覧) https://www.law.go.kr/법령/대중문화예술산업발전법
調査・執筆:大塚大輔(韓国語通訳翻訳)
主催:文化庁(令和5、6年度「芸術家等実務研修会」)
事務局・企画・運営:一般社団法人Japanese Film Project
尚、本調査結果は文化庁としての見解を示すものではございません。
フランス映画界に関するオンライン講座も
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1月25日は、フランス映画界の契約事情に関するオンライン講座を開催。上記より、無料参加の申し込みが可能です。ご関心のある方はぜひ。
2025年1-2月の契約研修会
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