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あっという間に秋めいて、もう末枯れて。

好きな季節はと聞かれたら、昔から秋と答えていた気がする。

この季節に生まれたこともあるけれど、夏の暑さが苦手だったし、ビル風の吹き荒れる東京の冬も好きではなかったから、心地の良い狭間の季節が好きだった。

でも僕は今まで本当の秋を知らなかったのだと思う。

乗鞍高原の秋を目の当たりにして、もっと秋という季節が好きになった。


標高約1500メートルのこの世界では、もう秋は終わりを迎えようとしている。

白樺やミズナラはあらかた葉を落とし、すこし出遅れたカラマツの木々が黄金色に煌めいている。

裸になった木々にはところどころこんもりとしたヤドリギの塊が顔を出し始めた。

周辺のトレイルでは茶色くなった落ち葉の絨毯が隅から隅まで敷き詰められている。


日々移ろいゆく秋の表情。

ここに来た9月末には空にまだ夏の雲が浮かんでいたというのに、あっという間に山は冬を迎える準備を進めていったようだ。

気づいたら山が一面色づいて、夏の匂いが消えていた。

毎日少しずつ黄色や赤に染まっていくのかと思っていたら、寒さや日差しの加減によっては突然紅葉が進むこともある。

突風の吹いた日の翌朝には、木々は一気に葉を落とし、地面に大量の落ち葉を降り積もらせる。

自然の変化を毎日注意深く見ていたら、自然の恵みをより深く知れた気がした。


この時期になるとクマたちはぷっくりと肥え太るらしい。

冬眠をするクマたちにとって秋は栄養を蓄える最後の季節だから、できる限り体内に栄養を溜めておくのだ。

木々もまた、冬を越すためのエネルギーを蓄えるために葉を落とす。

葉っぱの葉緑素をエネルギーに変換する過程で、緑色の下に隠れていた色が顔を出したり、葉緑体の分解の際に出た物質が葉を染めたりしていく。

そして人間はそういった木々の生存戦略を紅葉狩りという形で楽しむことができる。


秋を狭間の景色だと思っていたのに、乗鞍の秋は秋自体が主役の季節になっていると思う。

この木々の煌めきの儚さを知ってしまうと、次の秋がもう恋しくなってしまう。


今年は例年よりも遅いらしいけれど、おそらくここから見える乗鞍岳もじきにしっかり冠雪していくだろう。

冬の訪れが目に見える形で感じられるようになると、ようやく秋の終わりを実感していくはずだ。

来週には最低気温がマイナス5℃まで達する日もあるようだ。

もう冬はすぐ目の前まで来ているらしい。


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