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Look back on Paris2024 vol.3

パリ2024パラリンピック競技大会に出場したMC2 川本翔大は、今大会に並々ならぬ熱意を持って臨んでいた。

パラサイクリングと出会って間もない中、右も左もわからずに参戦した2016年のリオ大会では、手も足も出なかった。その悔しさを抱え、トレーニングを積んで臨んだ2021年の東京大会では、入賞という成績とともに確かな手応えを得た。

数々の大会を経て着実に経験を積んだ川本は、今大会で満を持して表彰台争いへの参戦に名乗りを上げようとしていた。

三度目の正直へ

初戦は、本命であるトラック種目の3000m個人パーシュート。

予選では、リオでのトラック世界選手権で2位だったベルギーのエウート・フロマントと対戦。同大会で3位だった川本は、リベンジの恰好となった。

序盤、持ち前の高回転のケイデンスで即座に最高速に達した川本が大きくタイム差を付け周回を重ねる。1000m時点で川本が1分13秒116、対するフロマントが1分16秒106と大きくリードする展開となった。

しかし後半、強烈なパワーで踏み込むフロマントは、2分20秒586で2000m地点を通過した川本に対して2分21秒763と約1秒差に迫る。

粘る川本、追うフロマント。その構図は、2500mでついに崩れた。

リベンジとはならなかった川本。しかし、重要なのはメダル獲得の決勝レースに進むことである。全員が走り終えた時点での川本の順位は4位。

「(東京パラ以降のトレーニングの中で)自分でもパワーアップは出来ていると思っていたので、今回は今までよりも重いギアで挑戦しました」

ギアを変えた結果が好走に繋がったと語る川本の予選でのタイムは3分29秒875。自身の持つ日本記録を上回る会心の走りで3位決定戦に進んだ。

予選での好感触と日本記録の更新を弾みに臨んだ3位決定戦では、パラリンピック初出場のマシュー・ロバートソン(イギリス)と対決。予選を3分28秒373で走り終えたロバートソンのタイムは、川本を1秒半ほど上回るタイム。川本は、再び自己ベストを狙った走りを目指したという。

「3位決定戦は、とにかく相手に勝たないといけないので、勝つには予選よりも速いタイムで走らないといけないって言うのは分かっていました」

3位決定戦に向けて、そう意気込みを語った川本。

レースは前半、ロバートソンにリードされる形でスタート。しかし川本は、その後500m地点を境に徐々に追い上げ差を詰める。

1000m地点を1分13秒527で通過したロバートソンに対して、川本は1分14秒364。一度は一秒以下に縮まったタイム差は、しかし後半、ロバートソンの加速で再び突き放される。川本はレースをこう振り返る。

「予選が終わった直後からケアなど色々なサポートをしてもらい、脚の疲労はそれほど感じていませんでした。自己ベストを狙った走りをしましたが、自分の力不足だったなと感じています」

最終的に川本は3分33秒488の4位。

東京大会に続く4位。メダルには惜しくも届かなかった。

東京大会では上位の失格によって3位決定戦の資格を得た。今大会は実力でその資格を勝ち取った。だからこそ、「東京の4位より悔しい」と川本は無念を口にする。

「この種目でメダルを狙っていたので、本当に悔しいですが、予選では自己ベストを出して3位決定戦でもしっかりと今できることはやれたと思っています。ただ、3位決定戦では相手選手に勝つ走りを、と言うところで相手を意識しすぎてしまったかなというのがあります」

期待値が高かっただけに、失望も大きい。ライバルともいえるフランス代表のアレクサンドル・ルオテと戦い、勝つために練習してきたが、それが叶わなかった無念もあるだろう。

しかし、得るものもあったのは確かだ。今回、川本は自己ベストを大きく上回る走りを見せたのだ。一歩ずつ、着実に前へ。川本の走りは進化を続けている。

(選手からのコメントは パリ・パラリンピック トラック競技2日目 川本翔大が個人パシュートで4位「東京の時の4位より悔しい」 - 自転車動画シクロチャンネル CYCLOCHANNELより引用)

川本が背中に背負うもの

気持ちを切り替えて挑む1000mタイムトライアルは、この種目はいかにトップスピードに乗るかが要であるため、片脚で走る川本との相性は決していいとはいえない種目。しかし、川本はここでも力を見せる。

250m地点での計測を22秒622の10位で通過した川本は、決勝に進出するためにペースを上げる。

続く500m地点で37秒611の8位と順位を上げる。最高速に達した川本はさらに750m地点で52秒360の6位。

好走した川本は予選を1分11秒296(Factored Time:1分秒375)のタイムでまとめ、6位で決勝行きの切符に食らいついた。

「昨日の疲れもあって、体にキツさもある中で走ったんですが、でもその中で(自己ベストに迫る)あの結果が出たっていうのは良かったと思います」

予選での走りをそう評価する川本は、続く決勝も6位で終えた。レースを終え、全てを出し切り疲労した様子の川本は、それでも興奮冷めやらぬ観客席に向けて右手を力強く突き出して見せた。

拳の先には、大きな日本国旗が掲げられていた。川本の応援のために駆けつけた日本の応援団である。

「今回、所属する会社の方に応援に来てもらっているので、感謝の気持ち、「ありがとう」という思いを込めてガッツポーズをさせて貰いました」

日本から遠く離れたフランスまで駆けつけてくれた仲間たちに対して、万感の思いを拳に込めて振りかざした川本。

そんな姿に、仲間たちも一層の歓声で応える。こうした人との繋がりが川本の成長を支えているのだろうと思わせる場面であった。

(選手からのコメントは パリ・パラリンピック トラック競技3日目 杉浦が500TTで7位 川本は1kmTT6位でともに入賞 - 自転車動画シクロチャンネル CYCLOCHANNELより引用)

出し切ることを目指して

出場したトラック種目の全てで入賞を手にする成績を修めた川本は、しばしの休息期間を挟んでロード種目に臨んだ。

初戦はコースを1周する14.1㎞の個人タイムトライアル。11人の選手が出走する中、川本は中間計測である5.8㎞地点を7分22秒01の5位で通過する好発進。

しかし、最初の登りを乗り切ったあとは、狙っていた平坦路での踏み込みが思うようにいかなかったという。

中間計測では川本より順位が下だったイスラエル・イラリオ・リマス(ペルー)、ゴリベク・ミルゾヤロフ(ウズベキスタン)がそれぞれ自身のペースを維持し順位を落とさなかった中、川本はやや失速し始める。

「(トラック最終種目の)1kmが終わったあと筋肉的な疲れがあって(回復を優先したため)ここに向けてトレーニングができていなかったのが原因かなと思います」

このレースに向けて自分の調整がうまくできていなかったと語る川本。

さらに、トラック種目の3000m個人パーシュートで3位決定戦を争ったイギリスのロバートソンがまたも川本の前に立ちはだかる。

7分47秒66の8位で通過した中間計測地点から追い上げ、これにより川本は徐々に順位を下げることとなる。

レースを「全然ダメだった」と語る川本は、それでも我慢の走りで8位入賞でレースを終えた。とはいえ、アスリートとして川本はこの結果に満足していない。

肩にのしかかるプレッシャーと、トラックでの疲労は無視できない。しかし、諦めない心の強さこそが川本の武器でもあるのだ。

(選手からのコメントは パリ・パラリンピック ロード初日 個人TT 杉浦6位 藤田7位 川本8位 厳しい戦いも揃って入賞に漕ぎつける - 自転車動画シクロチャンネル CYCLOCHANNELより引用)

もっと強くなれる

最後に控えるロードレース種目に向け、再び心身のコンディションを整えて、再び牙を研ぐ。

そして訪れる最終戦。フランスでの戦いを締めくくるロードレースでは、4人と枚数を揃えるイギリスをはじめとするライバルたちを相手に、71kmを競い合いながらゴールを目指す。

スタートと同時に猛烈な勢いで飛び出した川本。その走りについて、「最後に爪痕を残そうと思った」と川本は説明する。

先行し、レースの展開を作ろうと積極的に攻めた川本に、後続からもそれに続こうと単騎出場の選手たちが飛び出した。しかし、長い逃げには繋がらなかった。

今大会絶好調、母国の期待を背負うMC2 アレクサンドル・ルオテと、MC3 トマ・ぺイロトン・ダルテ(ともにフランス)がアタック。

それに呼応して、イギリスのフィンリー・グラハム(MC3)、カナダのアレクサンドル・ヘイワード(MC2)が追従。

川本らの集団をかわすと、そのままレースの趨勢を決める集団となって加速した。蓋を開けてみれば、表彰台に登る選手のセレクションが決まるのはあっという間だった。

川本の動きは勝利へつながる逃げとはならなかった。しかし、あの瞬間、小さいながらもレースが動いた。爪痕が刻まれたのは確かだ。

「しっかり最後までラップされずに走れたので良かったと思います。

(最初の飛び出しは)あれは最後に爪痕を残そうって(笑)。いつもスタートダッシュをするんですけど、結構あの時間は楽しかったです」

長い旅路を振り返る川本の顔には笑顔があった。

結果としては失速し、20位で完走という形でレースを終えた川本だが、ドイツの選手と肩を組んでゴールする美しい一幕も見せてくれた。

常に目が離せない走りを見せてくれる日本の侍・川本は、今回で3大会目のパラリンピックを終えた。悲願のメダル獲得は、三度達成できなかった。

彼の胸中に去来するのは、後悔か、失意か。

川本の言葉には、そのどちらもなかった。

「今思えば、楽しかったですけど、メダルが獲れなかったので次は獲れるようにしっかり頑張ります。

トラックの悔しさしかないので、もう今すぐトレーニングしたいなって感じです」

大会後の疲労もあるというにも関わらず、闘志の炎は赤々と燃えていた。

さらに、帰国から10日後にはスイスでのロード世界選手権に赴くという。まだ獲得したことのないロードの世界選手権でのメダルを目指すことも狙っている。

川本の瞳は、もう次の目標を見据えているのだ。

「若い選手たちも次々と上に上がって来ていて、それに恐怖もある。しかし、自分もまだもっと上を目指したいという気持ちもある」

トラック種目の1000mタイムトライアルを終えた後、川本はそう語っていた。

川本はつねに上を向き、上に立つイメージを持ち続ける。4年後、さらなる成長を遂げた川本の走りに期待したい。

(選手からのコメントは パリ・パラリンピック ロード最終日 個人ロードレース杉浦佳子がパラ連覇 涙の金メダル - 自転車動画シクロチャンネル CYCLOCHANNEL および、パリ・パラリンピック トラック競技3日目 杉浦が500TTで7位 川本は1kmTT6位でともに入賞 - 自転車動画シクロチャンネル CYCLOCHANNELより引用)

リザルト

川本翔大選手コメント

今大会、メダル獲得を狙っていたトラック種目3㎞個人パーシュート結果は4位。自己ベストを大きく更新することはできましたが、メダル獲得ができなかったこと、悔しい思いでいっぱいです。

この気持ちを強い力に変えて、また4年後、大きく成長した姿を皆さんに見せれるよう、努力を重ねていきたいと思います。応援してくださった皆様、ありがとうございました。

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