第2回若手病院総合医カンファレンス 病院総合医×心不全〜心不全パンデミック時代の病院総合医の役割〜
2019年7月6日 小雨降る東京大学本郷キャンパスにて。
第2回となる当チーム主催の若手病院総合医カンファレンスは、総合内科・循環器内科・在宅診療の、心不全診療に関わる3つの領域から1名ずつ講師の先生をお招きし、症例提示、レクチャー、グループディスカッションの3部構成でお送りしました!
1. StageD心不全患者の症例提示
症例のプレゼンターは東京ベイ浦安市川医療センター総合内科の平松が務めました。
症例は、非虚血性心筋症を背景としたHFrEF(収縮能の低下した心不全)で、すでに最大限の薬物治療と除細動器付き心室再同期療法(CRT-D)を受けている60代男性。慢性心不全の急性増悪の状態で入院となりました。
実際の診療で悩ましかったポイントが2つあったのですが、循環器内科医と在宅診療医との連携によってクリアできたのがとても印象深かったので取り上げることにしました。
①血行動態を意識した心不全治療の選択
Nohria&Stevenson分類(wet or dry ? cold or warm ?)のどの区画にいるのかを、症状や身体所見、血液検査所見、心エコー所見、スワンガンツカテーテル所見などから推定し、どうすれば血行動態を最適化できるか、循環器内科医とディスカッションを繰り返しながら治療方針を決定していった過程を提示しました。
例えば、ドブタミンを使うべきか?hANPを使うべきか?ECUMで除水すべきか? 具体的な治療プランを選ぶために、どのような所見を拾い上げ、どう考察すればいいのか、こういったことは手厚い循環器内科医のサポートがあってこそ突き詰められるところでした。
(以下、平松の症例提示スライドより引用)
②アドバンスケアプランニング に基づいた治療の選択
あるProcedureをやるかやらないかで迷った時は、患者さんや家族の意向を拝聴し、Goal of Care(ケアのゴール)を設定し、それを達成するために有効かどうかで判断していきます。ここは総合内科医の腕の見せ所です。Jonsenの4分割法を用いて情報を整理し、「QOLを保った状態で、家族とできるだけ長く自宅で過ごせること」をゴールに、やったほうがよいこと、やらないほうがいいことを選別していきました。
自宅に帰るにあたっては、往診してくださる訪問診療医、訪問薬剤師、訪問看護師にも加わってもらう多職種カンファレンスを実施しました。入院中に実施したアドバンスケアプランニング を在宅でも引き継いでもらえるように直接お話したり、在宅診療でできること・できないことを教えてもらったり、Transition of Care(ケアの移行)において在宅診療医との連携がうまくできることも総合内科医として重要なスキルと感じました。
(以下、平松の症例提示スライドより引用)
2. レクチャーとグループディスカッション
市立福知山市民病院総合内科の川島篤志先生からは、【病院総合医に必要な問診と身体診察】と題したレクチャーでした。川島先生は身体診察に非常にこだわっておられ、当日はご自身の聴診器コレクションを展示・試聴させていただきました! そんな川島先生が「胸部聴診でⅢ音は聞き取れなくてもいいと思う」とおっしゃったのが個人的にはとても印象深く、なんだか肩の荷が下りたような感じがしたのを覚えています。
聖路加国際病院心血管センターの水野篤先生には、【心不全診療における総合診療科と循環器内科の連携】というテーマでお話いただきました。引き続いて行ったグループディスカッションでは、普段の心不全診療での問題点、疑問点、自施設での連携などについて意見を交わしました。意見を交わすだけに止まらず、「心不全における病院総合医と循環器内科医の連携」「その問題点・解決策」についてグループごとに“構造化“を試み、全体で共有し、水野先生からそれぞれコメントをいただきました。
(以下、官澤先生の構造化スライドより引用)
最後に、東京ふれあい医療生活協同組合梶原診療所の平原佐斗司先生から、【心不全の緩和ケア】についてレクチャーしていただきました。末期心不全で出現する苦痛には呼吸困難や倦怠感の他、痛みや不眠、抑うつなど多様なものが含まれること、心不全の標準治療(利尿薬など)を最後まで行うことが症状緩和にも繋がるのでその理解が必要ということ、非がん緩和治療でのオピオイドの使い方など、明日からの診療にすぐにでも活かせる内容でした。
3. 最後に記念撮影
4時間半にもわたる長丁場でしたがおよそ30名もの方に参加いただき、ありがたいことに、事後アンケートでは8割の方が「満足」、1割の方が「予想以上」と回答してくださいました。
マイクの電源が入らないなどのトラブルはありましたが、無事に勉強会を終え、講師の先生方や参加者の皆さんと懇親会でお話できたのはとても良い思い出です。
病院総合医として心不全診療にどのように関われるか? 総合内科の視点、循環器内科医の視点、在宅診療医の視点を学べた勉強会でした。
(文責:平松由布季 東京ベイ・浦安市川医療センター総合内科)
※当記事の内容は、所属する学会や組織としての意見ではなく投稿者個人の意見です。
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