病棟を管理運営する能力
日本プライマリ・ケア連合学会の病院総合医委員会が提唱する「病院総合医が修得すべき6つの中核的能力(コンピテンシー)」について紹介するシリーズです。
①内科を中心とした幅広い初期診療能力(1次2次救急を含む)
②病棟を管理運営する能力
③他科やコメディカルとの関係を調整する能力
④病院医療の質を改善する能力
⑤診療の現場において初期・後期研修医を教育する能力
⑥診療に根ざした研究に携わる能力
これまでのコンピテンシーシリーズはこちら
今回は、「②病棟を管理運営する能力」についてご紹介します。
病棟を管理運営する能力は多岐にわたる。
2017年にSociety of Hospital Medicine(SHM)からホスピタリストのコアコンピテンシーの改訂がありました。プライマリケア連合学会が提唱する病院総合医が求められるコンピテンシーの多くを含みかつより具体的な物となっています。
病棟管理・運営するにはヘルスケアシステムの理解が重要
注目すべきはSection3のヘルスケアシステムの部分の拡充です。Section1と2は病棟で医療を行う上で必須の基礎的な能力、Section3のヘルスケアシステムは、病棟管理、運営する能力のキーとなるものがこの部分とも言えます。医療安全、リスク管理、質改善、患者教育、ケア移行から、病院経営マネージメントまで考慮する必要も述べられています。
病棟での合併症を予防する
~入院関連合併症~
病院総合医は病棟診療において,入院に至った疾患だけを治して帰すという「病院完結型の医療」から,高齢者に多い複数疾患罹患や社会・生活背景の脆弱性を持つ患者を地域で支える「地域完結型の医療」につなげる役割が期待されています。総合診療医は、患者を地域に安全にお返しし、さらに状態、環境なども入院前より良くすることを使命としていますが、巷では入院すると、状態が悪くなって帰ってくるともささやかれています。避けられない事情もありますが、入院による弊害を最小にする事も重要も重要な使命です。つまり総合診療医は安全なPatient Journeyを支える良きパートナー、コンシェルジュになる必要があります。安全なPatient journeyを担保するための病棟管理、運営の能力の一つして入院関連合併症を防ぐことが重要です。
入院関連合併症は予防可能なものが多い
病棟管理を行う上で入院理由と異なる有害事象が起こると、入院期間の延長、死亡率の上昇、医療費の増加などが起こることが知られています。入院関連合併症は患者の10-15%で発生し、その中で予防可能なものは約1/2-1/4程度あります。
入院患者の有害事情は病棟内発生が44%と最も多く、内訳として、モニタリングの不備31%、診断エラー30%、不適切な薬剤や体液管理21%となっています。
入院関連合併症の内訳は?
米国では入院関連合併症を「識別可能で修正可能な障害」として、入院関連合併症(Hospital-aquired conditions:HACs)と定義しています。
個人的な意見としては、日本では総合診療医が高齢者を診ることが非常に多く、入院中の誤嚥性肺炎や窒息や、絶食にともなう低栄養、サルコペニアなどもしっかりと予防しなくてはいけないと考えております。
入院関連合併症はお金がかかる
米国での研究で、入院関連合併症にかかる費用は1000~1100億円もかかることが示されています。特に院内感染症、CAUTIや褥瘡のコストが高いことが示されました。また入院期間も平均4倍も延長していることが示されました。
おわりに
今回は病棟管理運営において比較的取り掛かりやすい入院関連合併症予防について取り上げました。具体的な対応策ついてはホスピタリスト「病棟管理」にしっかりと書いてありますので、一読ください。
より良い病棟管理においては、入院関連合併症の他にもやらなければいけないことがたくさんありますが、患者さん、地域のため、一つずつ勉強していきましょう。
文責 練馬光が丘病院総合救急診療科 松本朋弘
※当記事の内容は、所属する学会や組織としての意見ではなく投稿者個人の意見です。
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<参考文献>
・日本プライマリ・ケア連合学会 病院総合医委員会HPより https://pc-hospitalist.jimdo.com/修得すべき中核的能力/
・ 日本プライマリ・ケア連合学会.病院総合医養成プログラム認定試行細則.東京:一般社団法人日本プライマリ・ケア連合学会;1 Jun 2012. [revised 27 Apr 2014; cited 8 Sep 2021]. Available from: http://www.primary-care.or.jp/nintei_ge/pdf/generalist_saisoku0427.pdf
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