自殺相談電話と、「ひきこもり」の問題を通じて出会いたい人
自殺電話相談の仕事をしていたことがあります。
僕が所属していたのは、
本当に今すぐ死にたいという気持ちの方の話を聴くための電話相談です。
その電話相談の相談者の中で最も印象的だった方は、「今すぐ死にたい!」
という気持ちの方ではありませんでした。
本来はそのような方の相談はお断りをしなければいけないのですが、
その方の話を聴いていて、
どんな想いを抱えて生きていて、今日、電話を掛けて下さったのかどうしても聴きたくなり、
話を聴くことにしました。
その方は余り人に知られていない病気を抱えていました。
命に関わる病気ではなく、
見た目に関わることではありますが、
工夫をすれば隠すことができる、
そんな種類の病気でした。
その病気についての詳細は分かりませんが、
その方は女性で、
女性にとってはとても辛い病気だったのではないかと思います。
また、
現代の医療では治療もできないということでした。
彼女は幼い頃からその病気を抱え、
家族以外の人には言ったことがなく、
その病気をずっと隠しながら生きていました。
そのため、
友達に悩みを相談をしても、
本当の悩みである病気のことを話せないので、
うわべだけの付き合いとなっているみたいで、
それがとても辛いということでした。
僕は何とか力になりたいと想い、
その方のお話を聴き続けていました。
もしかしたら励ますようなことを言ったり、
アドバイスをしてしまったかもしれません。
でも、
とにかく共感して聴き続けるように務めました。
とても大変な病気を抱え、
ずっと辛い想いをしているはずなのに、
彼女は誰かを責めるような発言はせず、
とてもしっかりとした話し方で、
僕にも丁寧に接して下さり、
謙虚で、
公平なものの見方をできるような方でした。
とても純粋で、
綺麗な心を持った方だと思いました。
電話を終える際に、
彼女は僕に、
「聴いて下さってありがとうございました」
と、とても心を込めて言ってくださいました。
僕は大したことは言えなかったと思いますが、
彼女にそのように言ってもらえて、
とても救われた気持ちがしました。
自殺電話相談の仕事をやりたかった理由には、
彼女のような人の力になりたいという想いがありました。
しかし、
本来、自殺電話相談では「今すぐ死にたい」という気持ちを抱えた人の話を聴くための場なので、
彼女のような人は支援の対象外でした。
僕が「ひきこもり」の問題を通じて出会いたいのも、彼女のような、人には絶対に言えないが、
この社会では生きづらさを感じてしまうような病気や障害などを抱えている人です。
そのような病気や障害を抱えている人は、
引きこもったり、ずっとどうにもならない生きづらさを抱えていても、
そのような病気や障害を抱えていることは話せない。
けれど、
「ひきこもり」や「生きづらさ」という言葉を借りれば、具体的に抱えている病気や障害を話さなくても、自分が抱えている困難さを表現できるし、人ともつながれる。
そしてその先に、
自分が抱えている本当の悩みを共有できる道も、
開かれていくと思います。