『犬は愛情を食べて生きている』山田あかね著 光文社

この本は、映画『犬部!』のモデルとなった獣医師の山田快作(かいさく)さんの評伝的なノンフィクションです。
本の初めに紹介されている太田獣医師のエピソードはとても印象的です。
大きな腫瘍ができた17才の老犬を連れて来た飼い主が、手術か緩和ケアかの選択で
悩んでいた時、彼は次のように言います。

「ここに来たという時点で犬は飼い主さんに愛されているわけだから、どちらを選ぶかはオプションに過ぎない。犬は飼い主さんが愛して決めてくれたことならどちらでも喜んで引き受けると思う。犬や猫などの伴侶動物は寿命を長くしてほしいとは思っていない。飼い主と一緒に幸せになりたいと思っている。飼い主さんに愛されていたから、この子はいつ亡くなったとしても幸せだったと思う。」

科学者でもある獣医師がこういう言い方をするのは珍しいと思いますが、思い病気にかかった愛するペットの老犬に対して手術した方が良いのか、それともそのままで残りの時間を過ごさせた方が良いのかのどちらを選択すべきか悩んでいる飼い主さんにとってそう言ってもらえると、本当に安心して心の救いになると思いました。

学生時代から動物の保護活動を続け、多くの人間に見捨てられた動物たちに接して来られた太田獣医師は、伴侶動物にとって何より人間からの愛情が大切であることは、科学的な根拠がなくても経験的に確信しているのでしょう。

この本は太田獣医師が学生の時から「一頭でも動物を死なせたくない」という思いを
貫き通し、獣医大学での実験動物の扱いの流れを変え、見捨てられた動物を救う活動を続ける現在までの話が書かれています。

獣医大学に入ってすぐに保健所から引き取った子犬のハナコが、その後ずっと
太田さんのかたわらで生き、太田さんが次々に保護する動物たちの世話をフォローし
、18才半まで生きたエピソードが私は好きです。
きっとハナコは、太田さんの愛情をたっぷり食べて幸せに生きたにちがいありません。

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