犬と猫と暮らせる老人ホームでの奇跡 動物の本棚(11)

『看取り犬文福の奇跡』若山三千彦著 東邦出版 

この本は横須賀に実在する、犬や猫と高齢者が一緒に暮らせる老人ホームでの実話をもとにした12のエピソードが描かれたノンフィクションです。

横須賀に実在する特別養護老人ホーム「さくらの里山科」。
4階建ての建物の2階フロアは、それぞれ犬と住める10の個室からなるユニットが2つと、猫と住める10の個室のユニットが2つずつあり、ユニットのなかでは犬や猫は自由に暮らしていて、入居者の部屋にもベッドにも好き勝手に出入りしています。ホームの庭がドッグランになっていて、犬は2階のユニットからそのまま庭に出ることもできるそうです。

ここには入居者が連れてきた愛犬、飼い猫のほか、動物愛護センターなどから引き取られた保護犬、保護猫も一緒に暮らしています。
本のなかでは、床にすわって気持ちよさそうに歌を歌うおじいさんのまわりに、何匹もの猫たちがすわって、おじいさんの歌を聴いているところが紹介されていました(笑)。

時に入居者は枕もとで犬や猫をやさしくなでながら旅立ち、寿命を迎えた犬や猫は入居者や職員の腕の中で息を引き取ります。

そんなホームに住んでいる保護犬の「文福は、明るく元気で入居者さんたちに愛されている雑種犬です。文福は保健所から殺処分になる前日に保護団体によって救出された犬でした。

文福には、入居者さんの旅立ちの時がわかる、という特別な能力があります。
入居者さんの旅立ちの2、3日前になると、文福はその人の居室のドアの外にすわるようになります。その時には部屋にはいろうとしませんが、いよいよ入居者さんの最期の時が近づくと、部屋に入ってベッドの上の入居者さんをじっと見つめます。
入居者さんが逝去される少し前になると、ベッドに飛び乗ってその方の顔をいつくしむようになめ、そのままトイレや食事の時以外はベッドの上で身体をぴったりくっつけて寄り添い、その方の旅立ちを看取るのでした。
これが何度も繰り返されるので、施設の職員たちも文福のこの不思議な能力を信じるようになりました。

そのほかにも、入居された時には暗く堅い無表情だった女性が、文福と接するようになったらすっかり笑顔を取り戻し、さらにその数か月後には長い間家族の顔も認識できなくなっていたその人が訪ねてきた息子さんの顔を見て「来てくれたの?」と話すまでに回復した、という奇跡的なエピソードも紹介されています。

動物には人間同士では起こりえないような、驚くべき変化を人の心に起こすことができます。
それはこの本で紹介されているように、堅く閉ざされた人の心のドアを開いたり、脳の働きを奇跡的に回復させたりもします。

私たちは動物と共に暮らしながら、知らないうちに動物たちから目には見えないそんな素晴らしい贈り物をもらい続けているのだと思います。

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