陸上は異種格闘技
結論から話をしますと、陸上競技は総合格闘技のようなものだと思っています。
人より早くゴールしたら勝ちの単純なルールですが、種目や個人によってアプローチは全く異なります。
例えば、5000mのレースであっても、主戦場が1500m(中距離)の選手もいれば10000m(長距離)が得意な選手もいます。単純な最大速度では中距離型の選手に軍配があがるでしょうが、5000mを常に先頭集団で走り続けるのは長距離型の選手の方が得意でしょうから勝負の仕掛けどころが鍵になります。
これは立ち技のボクシングと寝技の柔道の戦いのようなもの。いかに自分のフィールドに持ち込めるかです。
レースプランにおいても個人差があります。初めからハイペースで回して独走する選手や、ラストの直線まで虎視眈々と狙い続けてスパート勝負に持ち込むタイプ、あるいはラスト1000mから仕掛けるロングスパートタイプなどなど。
さらに序盤からハイペースで行くのにも、スピードに自信があって高速レースで短期決戦にしたい人もいれば、スピードがないからこそスパート合戦を避けてハイペースの人もいます。
それぞれが自分の必勝パターンを持っています。
これは上段蹴りを決めるか、腕挫十字を極めるかみたいなもの。相手がどんな技を仕掛けてくるか分からないから難しい。
さらに言うと、練習の組み立て方も千差万別です。5000m15分を目指す場合でも5000mのタイムを16分→15分へと上げてくというアプローチと、
3'00/kmで走れる距離を3000m→5000mへ伸ばすというアプローチがあります。
またインターバルでも1000mなのか、400mなのか。間はrestかjogか。本数を多く行うのか、一本の質を上げるのか。様々な方法があります。
これはまさしく流派の違い。柳生新陰流か、天然理心流かみたいなもの。
専門距離も、得意な展開も、練習方法も違う選手が集まって、「1番速い人が勝ち」という単純明快なルールで勝負が決まる。その競争の中で自分自身のやり方がどこまで通用するのか、これはまさに総合格闘技と同じじゃないでしょうか?
これがマラソンになるともはやバトルロワイヤル。大きな大会では1万人規模の人数が一斉に走ります。年齢も、性別も、体重も、実力も全て関係なく同じルールで競い合う。
そもそも走るという種目が異種格闘なんです。野球選手もサッカー選手も吹奏楽部もダイエットランナーも、走るということは一緒です。
「一人ひとり違うからこそ、1番を目指す。」
これが単純で複雑な陸上競技の醍醐味の1つだと思います。