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神様の証明

お尻のあざ

人生にはなぜこんなことが起きるのかと疑問に思うことが少なくない。私のお尻のあざもその一つだ。

私には生まれつきお尻にあざがある。

赤ちゃんの時に青たんと表現されるそれではなく、くっきりと判でも押されたようなあざだ。
別段あっても困らないものだが、褒めるべきところをあげるならば、日本列島(本州らへん)と形が似ていることだろうか。江戸時代に伊能忠敬が列島を周り作り上げた日本地図が現代のものとほぼ誤差がないことが有名でだが、その直後に生まれていれば寺子屋でモデルとして写し書きしてもらえたであろう代物だ。

母が昔、そのアザを見て

「天国であなたがいたずらをして神様にしっぺされたのよ」

と言っていたがとんでもない。しっぺ程度でくっきりと黄金の国ジパングを形どることが出来るなんて

文字通りの〝神業″であろう。

そしてここからは私のもう一つのアザについて話す必要がある。

私は東海地方の山間部出身でありパキパキの田舎者だ。田舎のイメージといえば人の温かみや、自然に囲まれたマイナスイオン溢れる閑静な地域を想像される方も多いだろうが、それは良い点だけを見たらの話である。都会で格好だけに力を入れた女性を観察して「ほう、中々のナイスバディだ」と言うことは出来るがその人の中身までは追求しないように田舎も付き合ってみなければ分からない恐ろしさが多々ある。

今回の話だけに焦点を絞ると、まず実家の老朽具合が凄い。私の祖父の代から住み続けた実家は一度もリフォームすることなくひび割れた電球や抜けた床などは博物館の当時の再現のようにそのままにしてある。現代の家のように断熱材を挟んでない壁は当然冬になると外気の風を直接吹きさらしのように届けてくれる。そんな訳で冬になると我が家では石油ストーブがリビングに置かれていた。エアコンや電気ストーブが主流になった今日ではあまり見受けられないが、当時の学校や家ではまたこれもかつての名残を残す時代の遺産のように使われていたのだ。

小学生6年の冬、中学受験を間近に控えていた私は早起きを親から義務付けられていた。何でも起きてから脳が目覚めるまでに3時間程かかると言うので受験当日に備えて本番の雰囲気に慣れるようルーティンを組まされていたのだ。

真冬ということもあり、普段はもぞもぞと猫のように体を動かし、精一杯の抵抗をして見せる私がその日は羽のついたようにベットから這い出た。というのも冷え込んだ空気のせいもあってかとてつもなく尿意が迫っていたのだ。私は即座にトイレに駆け込みズボンを下ろしたのだが、その日はパジャマでなく私服のズボンで寝ていたため社会の窓のジッパーを下ろすのに時間がかかってしまった。迫り来る尿意に対して焦った私は案の定ズボンに引っ掛けてしまった。

うわぁ、やっちまった

小学生6年と言っても普段から上級生としての自覚を持つよう、先生を代表する大人から釘を刺されている身分である。同級生と遊んでいる時はそんなもの一切気にしない癖に恥をかいた時だけ、上級生としての一丁前の矜持を持とうとする浅はかな思考回路の私はとにかく着替えなければという一身上の都合で次の行動に移った。

まずはズボンを脱いでついでに服も脱いだ。
丸裸になり、母にこう告げる

「ママ、暑くて全部汗かいちゃったから服全部着替えるね」

服をオールリセットして誤魔化そうとする魂胆である。家族ということもあってか特に何も言及はされなかったが冬なのに汗をかいたのか?という当たり前の疑問符は母の怪訝そうな表情から察するに持たれていたように感じる。しかしそんな否定意見を汗をかいたの一点張りで誤魔化そうとしていた私はまさに

裸の王様である。(文字通り)

裸でリビングに居座るのには色々バツが悪い。私は母に着替えの用意を頼むと急いで石油ストーブの前に後ろ向きに立ち体を温めていた。いささか眠気の残った状態で行動をしていたからか、体に伸びをするよう脳から伝達指令が入る。「ふわぁーっ!」という間抜けなあくびと共に体を伸ばすと

ジュッ!

石油ストーブの上にお尻が当たり肉を焼いたような音が響いた。壮絶な痛みと共に私は前に倒れ込んだ。

ぐ、ぐわぁー!

という絶叫を聞いて母が戻ってくる。ばか!何しとんの!と言う声も少し朧げで痛みにしか集中が行かなかった。即座に風呂場に連れ込まれ冷水でお尻を冷やされる。火傷直後の冷水は尋常じゃない激痛であった。

そこから暫くして皮膚科に行ってもらい軟膏を塗って事なきを得たのだが、その三日程後に火傷の跡を見てみると、元々のお尻のあざの下に綺麗に火傷の跡が残っているではないか!

ワンピースのシャンクスやゾロのような格好の良いコミック的な傷ではなく、言えばそこから下ネタでもしないと収集がつかなくなるようななんとも下品な位置に出来てしまった火傷の跡。
それは今でも汚い酒場での雑談で聞いた者をヒリつかせているのだが、問題はその位置あった。

日本列島(主に本州の形)のあざのしたにできた火傷の跡は見るからに

四国を完成させてしまったのだ!

出来てしまったのはどうしようもできないが、ここで一つ悩みが出来る。本州、四国と揃っているのに北海道と沖縄がないのは何とも歯痒いのだ。左右対称ではないと気が済まない人種もいるなかで、私は自分のお尻に出来た日本地図が完成しないことにイラついていた。

そんな私は時に爪を逆立て

北海道と沖縄の位置にマークを付けて一人満足していた。

ふとした時にそれを思い出してふふっと笑ってしまうこともあるのだが、人生とはそんな不思議なことがなんとも良く起きてしまうのである。

よく聞く話で、
砂漠に落ちたバラバラの時計が元通りになることは不可能に思える。しかし時計より複雑な体を持つ人間がたまたまこのように存在しているのはどう考えても不思議であることから、神様の実在を促す話があったが、私のお尻に日本地図が完成した時、私もその証明に一役買えるであろうか?

岡本みすず



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