生きろ vol.2
お店のおすすめが来る前に瓶ビールが運ばれる。
「あんたは飲まんのか? 一杯ぐらいだったら私のおすすめなら飲むだろ。飲まないって選択肢は選ばせないよ」
もう最初から断れないじゃん。そうおもい、さっきの店員さんにコップを頼んだのだが、悠子は、
「お母さん、この人、薬飲んでるの。アルコールは駄目なんだよ」
急にお母様が顔色を変えて、
「あんた、精神薬飲んでたりしないわよね」
僕をギロリとそれまでと違った軽蔑の目で、
「あんた、ひょっとして働けないのかい? そんなんでうちの子と付き合って、あれか。ひもにでもなるつもりか。私の目が黒いうちは突き合わせたりするもんか」
おすすめと瓶ビールが運ばれてきたが、その店員にお母様は、
「ビール代はいくらだい? こんなおかしな男に払われるくらいなら、自分で払うよ」
「800円です」
もう帰ることしか考えてないんだから、細かいお金ではなく1000円札で、
「これでいい。お釣りはいらん。悠子、帰るよ」
そういって出ていくお母様を追いながら、「あとでLINEするね」と言いながら店を出ていった。
奥の方から、「絵仁夢、大丈夫?」と、店長が出てくる。
「だ、だ、大丈夫えす。何度もこの場面に…」
店長は、僕の歴史をそこそこ、この店でも見せている。このお店でも何度か恋愛の話をdtmのメンバーとして、鬱になって泣いてることもあるので、
「絵仁夢の人生を知らないわけじゃないはずなんだけどな」
「すみません。ごめんね、ゴンザレスも」
さっきから巻き込まれていた近所の日本語学校終わりでバイトに入っているゴンザレスは、首を振りながら
「気ニシナイ。絵仁夢、自分ノコト考エル。デモ考エスギチャダメ。イツモ明日、会社、行キタクナクナル。コノ流レデ行クト明日会議。行カナキャダメヨ」
「とりあえず、今日はかねいいよ。あと、その分ゴンザレスも今日は一食分持って帰っていいよ」
ゴンザレスは、「本当ニイインデスカ? 店長サン、フトッパラ」
しかし、こんなことになるなんて。
鼻水とか涙とか拭いきれず、それでもお腹すいてるしと転用に気を使ってもらって無料にしてもらった夕食を食べる。
明日dtmの新曲の音源チェックからの、仮歌とウェブマガジンの投稿を午前に、午後は来月のライブのフライヤーとポスター、随時応募してるアマチュアバンドの一次審査の書類選考の選別。
(明日、鬱でダメージ食らって置きれないのまずいからな)
そう思って、とりあえず今日のことは引きずらないように睡眠導入剤だけ飲むことにしながら、家までタクシーで軽く寝て、部屋に入ってとりあえずそのままの格好のままお薬カレンダーからそれだけ飲んで寝た。