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男性依存症(前編)

神代陽子は相談支援事業所を運営している。障がい者に対して支援員は不足しており、ケアマネ経験の長い神代陽子の事業所には、ひっきりなしの依頼が舞い込んできた。

採算が合わないため非常勤雇用だけでやってきたが、常勤者を雇い入れる必要に迫られながらも毎日に忙殺されていた。

今日は地域の基幹相談支援センターからの依頼で、山の手の精神病院に退院支援の面談に行くことになった。

基幹相談支援センターは障害に関するあらゆる相談を受けもつ場所だ。市区町村が直営で開設・運営するもの以外に、社会福祉法人などが開設した相談支援センターが委託を受けて運営するものがあるが、2024年4月からは設置が市区町村の努力義務となっている。

地域の相談支援体制強化の取り組みを行い、権利擁護や虐待防止、患者の地域移行や地域定着を目指して、神代陽子が運営する相談支援事業者などと連携する中枢機関なのだ。

陽子は精神科の入り口で入館手続きを終え、急ぎ足で病棟へ向かうと約束の時間ちょうどになった。方向音痴の陽子にとって、病院というところは迷路と同じだと思う。

息を整えてカンファレンスルームに入ると担当医師、看護師、リハビリ職員、MHSW(精神保健福祉士)がそろっており、若いイケメンの医師の胸にもたれるようにして、小柄な女子が疑わし気なまなざしを陽子に向けていた。

笑顔で挨拶をして席に着くと、MHSW(メンタルヘルスソーシャルワーカー)が司会をして退院支援が始まった。

陽子が考えていた以上に退院まで早い展開となった。陽子は急いでMHSWと協働しながら障がい者のグループホームを探すこととなる。

カンファの間、陽子が気になっていたのはクライアントの北条ゆかりの服装だった。色の白い、細身の身体に薄手のTシャツと短パン。情報によると30歳は過ぎているのに少女のようないでたちだ。

その短パンはとてもとても短くさらに裾が広がっている。それで脚を組んだりソファの上で膝を抱えたりするのだ。と、どういうことになるかというと、その細い太ももは付け根まであらわになり、ショーツの柄まで見通せてしまうのだった。

本人は気づいているのかいないのか、医師の胸に頭を持たせたまま甘えるように下から見上げて質問をし、医師もまた上から見下ろしやさしく答える。まるで恋人のようではないか、と陽子は思う。

90分ほどのカンファが終了し、ドアを出ようとした陽子を看護師が引き留めた。「少し、お時間よろしいですか」北条ゆかりの姿が消えるのを確かめた後、看護師は別室に陽子を案内した。

(さあ、これからが本番だ)と陽子の神経が焦点を合わせ心地よい緊張が走る。看護師は眉をひそめながら「あの服装を見てわかるようにですね」と切り出し、ゆかりの3カ月ほどの入院中の所業を一気に説明し始めた。

洗濯後の下着をベッド柵にこれ見よがしに干して男性患者の気を引く。入院中も男性患者に色目を使う、目を離すと病棟の隅で二人でイチャイチャしている。

状態が良くなると二人で外出をして外で何をしているかはわからない。など、その口ぶりからは異性行為がありありと懸念された。

たしか病名は統合失調症だったはずだが、これが本当の問題なのかと陽子は今後の対応に気の引き締まる思いを感じた。


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