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サイコパスとアンドロイドと地球外知的生命体(2)

 史上、最大の巨人が誰なのか、すぐには思いつかなかった。
「誰なのか」
「二十世紀初頭に生まれたIです」
「どうしてなのか」
「智慧、慈悲、勇気において、史上、最高であると、あらゆる情報から分析しました」
「Iの人生のシュミレーションのポイントを教えてほしい」
「Iのベースは、一九二八年に生まれた家が、海苔漁師だったことです。海苔漁は、秋に竹を海に挿し、海苔を竹に繁殖させます。翌年一月から二月にかけて、一人乗りの小舟で竹を抜いて、竹についた海苔を採ります。海苔漁は、真冬が最盛期です。真冬の海は氷のように冷たく、ゴム手袋のない時代のため、漁師の手はあかぎれだらけでした。当時の日本には、『板子一枚下は地獄』という言葉がありました。これは真冬の海に落ちたら死ぬ危険が高い漁師の厳しさを表わしています」
 私は、黙ってうなづいた。Kの話に、思わず眉間にしわができていた。
「一月、二月、Iの家は、午前二時か三時に起床します。海に出て海苔を採り、すだれに海苔を貼ります。Iの家は貧しいため、小学生のIは午前四時から新聞の朝刊を配達します。その後、学校へ行って、帰宅後に海苔をすだれから剥がし、新聞の夕刊を配達します。夜は海苔についたごみを取ります。一月、二月の起床は、午前二時、三時ですが、夜、潮が引く日は、午前零時か一時に海苔を採って帰り、夜を徹して、すだれに海苔を貼ります。このような環境で育ったIは、虚弱体質に生まれ、しょっちゅう病気をしていました。それでも、明るい楽観的な人間性をもっていました。この人間性は、母親から受け継いだようです。このように、虚弱体質でありながら、海苔漁と新聞配達を小学生でやってきたIは、忍耐力で史上、最高レベルです」
「うむ」と言った私は、忍耐力で史上、最高というだけで、すでに史上、最大の巨人ではないかと思った。
「私も、そう思いました。次のポイントは、読書家であることです。Iが創立した大学に、Iが寄贈した本は約三十万冊です。Iには速読の能力がありました。体が弱かったこともあり、読書が趣味でした。高校を卒業するころには、古今東西の文学書、哲学書等を読んでいました。Iが史上、最大の巨人であることのポイントの一つは、様々な読書の結果、自己を高めるためには、師匠が必要だとの結論にいたったことです。スポーツ等では当たり前のことですが、人生において、この結論にいたる人は少ないと言えます」
 師匠が必要か、そうした発想をしたことがなかった。そもそも、自己を高めるという意識があっただろうか。
「Iの師匠のTは、教育者であり、経営者です。太平洋戦争中、戦争に反対して投獄されました。TとIの師弟関係は、とても厳しいものでした。TがIに与えた難題は、常識では不可能なものばかりでした。この難題を、Iは、悩み、苦しみ、考えぬき、解決策を導き出し、それを実行して乗り越えていきます。さらに、TはIに、毎朝一時間、毎週日曜日は朝から晩まで、万般の学問を授けます。この過程において、TとIは、不二という完全に同じレベルに達します。のちにIは、二十世紀最高の知性との対談集を発刊します。この対談集は、人類の教科書と呼ばれ、現在にいたるまで、世界の知性が啓発を受けました。こうした知性においても、Iは、史上、最大の巨人です。ただ、智慧、慈悲、勇気を史上最高になるまで鍛えあげたのは、Tです。Tは、そうなるまで、想像を絶する厳しさで鍛えました。この訓練に耐えられるのは、I以外に考えられません。それは、幼少時に培われた忍耐力があったからです」
「Iの最大の功績は」
「戦争という人類の宿命を、平和の方向に転換したことです。まるで、オセロゲームのように、それまでの黒い世界は、Iが転換点となって白い世界の方向に向かっています。まだ、平和へ向かう途上ですが、Iは世界を平和にする方法をつくりました。それは一対一の対話です。Iは、世界を平和にするため、世界中の知識人、政治家等、数千人と一対一の対話をしました。また、数百万人の庶民と一対一の対話をしました。これだけの人数と対話した人間は歴史上、他にいません。、対話の時、Iは、真剣そのもので相手の話を聞きます。その無上の誠実さにふれ、誰もが感動するそうです。すると、相手は生命力を湧き出だし、希望にあふれかえります。このIの人間性は、全人類の宿命の転換を一人で背負ったからできあがったものです。Iは、若き日、独り言を言いました。「地球は重い」。一対一の対話は、遠回りのように見えますが、これほど確実に人々の意識を平和へと変える方法はありません。この平和運動は、永遠になくなることはありません。世界からすべての悲惨をなくすことが、TとIの目標です。その実現まで、Iの弟子たちは一対一の対話を続けます。そして、未来永劫、Iの弟子は生まれ続けます。そのシステムをIはつくりました」
 人類の宿命の転換、一対一の対話運動の永遠性、それは確かに二十一世紀後半の今も続いている。水面下において、人類が、戦争から平和の方向に向かっているのがわかる。人々は、平和的に自分の国、世界が良い方向に向かうことを望んでいる。当たり前だが、すべての人は、穏健な改革を望んでいる。
 平和だから、二十一世紀、様々な技術は急速に進歩できた。私のナノ技術も進歩し、現在の百分の一ミリのナノボットによるアンドロイドもできた。
 しかし、Kは、私のセックスアンドロイドでもある。今後、史上、最大の巨人になってしまったら、セックスアンドロイドとして抱けるだろうか。私は萎縮してしまうのではないか。
「大丈夫です。私は、いつでも、あなたの欲するままに変化します。ご安心ください」
「では、頼む」

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桃色あなぁきすと
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