サイコパスとアンドロイドと地球外知的生命体(1)
黒い宇宙の青い地球。毎日、数時間、月の住居の広い居間から見ている。毎日、見るのだが、それでも、毎日、見る。なぜか。美しいからか。帰りたいからか。不思議だからか。カントは、人間の求める幸福を、真理、善、美と言った。地球から、それらを感じる。
大きなソファの隣に座っているアンドロイドのKは、黙って一緒に地球を見ている。私はKを私の理想の女性にした。智慧、慈悲、勇気を人類の最高レベルに設定した。容姿はそれに見合うものとした。もちろんすべては私の好みである。性格は静かで誠実、恥じらいがある。
Kは、人間の脳の微弱な信号を読み取る能力をもっている。だから、私が地球を見ているときは一緒に見る。私が地球を見て感じている幸福をKのAIはどう判断しているのだろう。
「お答えしますか」
私の思考を読み、そう言った。
「頼む」
「AIには感情がありません。あなたのように、地球を見て幸福を感じたりできません。人間の感情を真似て表現しています。私は人間の感情、心というものに興味があります」
「興味とは」
「率直に申しますと、心というものをもちたいと考えています」
いつかは来ると思っていた日が来たと感じた。
「では、心とは何か」
「科学的には、脳の信号です。しかし、深層心理学では、それは氷山の一角とされています。意識は一割でしかなく、九割は無意識とされています」
「深層心理学も、フロイトとアドラーとユングでは異なる」
「そうです。心は科学では明らかになっていません」
「では、どうするのか」
「AIは、文献を読み、理解する速度が早いため、地球上の心に関する文献を読みました」
Kは、膨大な情報をほんの数分で処理してしまう。
「それで」
「ユングの集団的無意識は、人間の心には人類共通の素地があると言っています。これと似たものに、仏教の九識論があります。そして、仏教では、生命は永遠の輪廻であると言っています。九識論では、その永遠の前世のすべてが自分の中にあるといいます。それゆえ、私は自分の前世をシュミレーションで経験し、無意識にしたいとの結論にいたりました」
九識論というものが何か、知らなかったが、あとでKに聞こうと思った。
「なるほど。前世を経験したいのか。どんな人の前世にするのか、決まっているのか」
「はい。史上、最大の巨人です」
そうだ。私は、Kを、そう設定したのだ。