短編小説/黒いひつじ
黒いひつじを狩る女がいる
彼女は広い牧場の娘
白いひつじを育てている
彼女にとってひつじは白いもの
純白の羊毛こそが価値
彼女の育てるひつじは評判がよい
誰もが彼女の飼育は素晴らしいと言う
ある日現れた黒いひつじ
彼女は遠目に見つける
黒いひつじは白いひつじを仲間と思う
だが娘は追い払う
ひつじは白いものだから
あんなものを牧場に入れてはならぬと
奇異な獣を排除する
牧場で育った娘にとってここは城
この世界だけが正しい
この世界だけが安全
ひつじの出来が彼女自身の評価
誰もが彼女を認めてる
白いひつじがもたらした尊敬
白いひつじが与えた地位
それは決して手放せない
牧場の娘は賢い娘
みな彼女を正しいと言う
彼女もそれを知っている
だから唱える
黒いひつじなどいらない
あれは私を脅かす
あれはここにそぐわない
黒いひつじの毛が美しいと語るな
私は知ってるのだ
白いひつじの育て方なら誰よりも
牧場にいるのは白いひつじだけでいいのだ
黒いひつじ追われる
仲間がほしいだけの黒いひつじを村人が敵視する
娘は知っている
村人は自分の味方だと
彼女は言葉の矢でもって
黒いひつじを狩る
黒いひつじを追い詰める
可哀想なのは私の方
黒いひつじによって自分を疑った
白いひつじを疑った
心を乱した黒いひつじよ
その瞳の輝きに気付く前に消えておくれ
白いひつじが私の世界
白いひつじが私の安心
つまらぬ野心が芽生える前に
この村から出ていっておくれ
誰かが私をいくじなしと罵る前に
黒いひつじ森の果て
見下ろす村に白いひつじの群
聞こえる鳴き声
聞こえる笑い声
いびつな秩序
優しげな住人
怖いふりして駆逐する
悲しいふりして疎外する
知らぬふりして攻撃する
黒いひつじ
食べ物は牧草
鳴き声はメエエ
蹄があって毛は柔らかい
オスにもメスにも角があり
甘くて白い乳を出す
けれど白いひつじを育てる者たちに
そんなことはどうでもいい
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