シロクマ文芸部/コードネームはミスティ
『霧の朝 ボストンへ
12歳ビアンカ・ブライトを永遠の夢の世界へ』
コードネーム : ミスティ氏の所に仕事が来た。
今回のターゲットは12歳の少女。
送られてきたメールにはある記事も添付されていた。
四ヶ月前ミシガン州に住むブライト家で家族三人が射殺。
幸い末っ子のビアンカは命を取り留めた。
組織化された連続殺人強盗の犯人は現在も逃走中。
ボストン空港に降り立ったミスティ氏は
メールの主からあらかじめ指定されたタクシーに乗った。
運転手はすいと封筒を渡すと2ブロック先で止まった。
タクシーを降りたミスティ氏は
近くにある公園の出店でコーヒーを一杯買ってから
受け取ったメモを掌内で読んだ。
そこにはビアンカの特徴や居場所が詳細に記されていた。
ビアンカは今FBIの保護下にあり厳重に警備された病院に入院中だという。
ダークブロンドの髪。身長153センチ。パジャマにひまわりのワッペン。
受け取った封筒には病院の入館用IDカードも入っていた。
ミスティ氏はそれをポケットに忍ばせるとメモをくしゃくしゃに丸めた。
そして容器に半分残ったエスプレッソに投げ入れてゴミ箱に捨てた。
後始末がミスティ氏の仕事。
犯人の顔を見たというビアンカの元へタクシーを乗り継いで向かった。
病院は一般病棟と警察病院とに分かれている。
ミスティ氏は専用入口からIDカードで入館するとトイレに直行した。
そして携帯してる白衣をバックから出して羽織った。
ビアンカのいる病棟はC館の4階の一番端。
ミスティ氏は変装用の眼鏡を掛けてバックに入った注射器を確認してから
廊下に出て病室を目指した。
彼女の部屋の前だけ物々しかった。
銃を所持したFBI の警備員が立っている。
ミスティ氏がIDカードを提示すると彼等は扉を開いた。
白い病室のベッドにはダークブロンドの髪の少女が眠っていた。
背丈は150センチ前後。パジャマにひまわりのワッペンがあった。
そして室内には捜査官と彼女の叔母がいた。
捜査官は携帯で話し中だったが「そうか。分かった」と言って切った。
「ポーランドに亡命しようとしていた犯人を確保したそうです。
顔を覚えていたビアンカのモンタージュが正確だったおかげです。
これで彼女は安全です。ではお願いいたします。ムッシュミスティ」
ミスティ氏は黙って頷いてバックから注射器を取り出すと
ビアンカの腕に睡眠薬を注入した。
そして彼女の額に掌を翳し目を閉じて念じた。
10分ほど経ったのちミスティ氏は深く息を吐いて頷いた。
「これで大丈夫です。
ビアンカの海馬に刻まれていた忌まわしい事件の記憶は霧で覆われました。
彼女は目覚めてからはもうなにも覚えていません。
悲しい出来事に縛られることなく新しい人生を送れるでしょう」
彼はそう言って病室を出ていった。
コードネーム:ミスティ氏は記憶の掃除人。
辛い過去を持つ依頼人の悲しみを霧で消して明るい朝を届けている。
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こちらの企画に参加させていただきました。
「霧の朝」という言葉自体が詩的なので色々な話が浮かびますね。
お読み下さりありがとうございました。