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たくましくて可愛い子供たちに習う


好きなテレビ番組がある。
イギリスBBCで制作されている「ジュニア ベイク オフ」だ。
Eテレでも放送している「ブリティッシュ  ベイク オフ」の子供版である。

「ブリティッシュ ベイク オフ」を観たことのない方に説明させていただくと
事前オーディションで選考されたアマチュア料理家(番組内では「ベイカー」と呼ばれる)人たちが、毎週与えられるテーマに沿ったパンやパイ、ケーキや焼き菓子などの出来栄えを10週に渡って競い合う番組です。
 ひとつのシーズンに参加するベイカーは12名前後。各ベイカーには1人1台ずつのオーブンやグリル、製菓用ミキサー、IHヒーターなどを備えた調理台が割り当てられ、毎週、3つのチャレンジに挑戦します。
 その後、各チャレンジごとに審査員による試食と批評が行われて、3つのチャレンジの出来から総合的に判断し、審査員による総合評価が低かった1から2名が脱落してゆき、 決勝では、それまでに勝ち残った3名のベイカーからその年の優勝者が選ばれる、というものです。
アマチュアながらさすがに腕自慢の作るお菓子はデザインも美しく
日本では馴染みのない素材を使用した目新しいお菓子ばかりで、さすがアフタヌーンティーの根付いた国だなあと観ているだけでも楽しくなります。

その「ブリティッシュ ベイク オフ」のスピンオフ番組で
ベイキングが得意な子供たちが挑戦するのが「ジュニア ベイク オフ」です。
出場できるのは9~12歳までの児童。ワンシーズン32人で競います。
8回行われる予選を4人毎に対戦してゆき、毎回ひとりが準決勝に進めます。
チャレンジは二回。審査員が用意したレシピと材料で作るテクニカルチャレンジと、自宅で練習してきたオリジナルレシピでのマスターピースチャレンジ。テクニカルチャレンジではイギリスの伝統的なお菓子のスコーンやマフィン、ショートブレッドやビスケットなどを、制限時間内にレシピに忠実に完璧に作れるかの技術力を試されます。

ベイキングが得意な子供たちですが時間制限もあってプレッシャーもある。
使いなれた器具ではないことから失敗はしょっちゅうです。
一番多いのは材料の入れ忘れ。
ベーキングパウダー、卵、小麦粉と粉砂糖を間違えるなどは珍しくなく、
クルミとニンジンのマフィンにクルミを入れ忘れ、焼き始めてから審査員に指摘されて「…」となる場面も。レシピに集中し過ぎてテーブルの上を見落としてしまうんですね。「なんで?」と思わずこちらが叫んでしまいます。

次によくあるのが落下。体も手も小さいから勢いで持ち運びするため惰性で
滑り落ちてしまったり、時間がなくて焦ってぽろりする。オーブンから出したスポンジを型から出そうとひっくり返す時も危険がいっぱいです。見ているこちらが大丈夫~?とヒヤヒヤします。型が大きかったり熱すぎる場合は進行役の大人が手伝ってくれることもあります。やはりケガはしてほしくないですからね。

その次にあるのが工程の間違い。さっくり混ぜなければならない生地を
泡立て器でガシャガシャ混ぜてしまったり、伸ばす時にべたつかないように冷蔵庫で生地を冷やすのを忘れてベタベタしてしまったり、三段あるオーブンの一番上に入れたマフィン生地が膨らんで天井に引っ掛かって出せなくなったりと、ちょっとの気の緩みで起きる失敗をついやらかしてしまいます。
生地を混ぜる時に煙幕のように粉が舞う。まだ熱いビスケットを持ち上げて割れる。バターをよく塗らずに生地を型に入れ、取り出すときにボロボロになってしまったりも定番。全部入れる牛乳をなぜか余らせて膨らまない、または時間配分を間違えて生焼けだったり…。とにかく失敗のオンパレード。
まさに笑いあり涙ありです。

けれども素晴らしいのはそこからの子供たちのリカバリー力です。
気付いた失敗をそのままにせず、なんとか挽回しようと奮闘します。
焼き始めてから気付いたまだ柔らかい生地に入れ忘れたベーキングパウダーを投入して再度焼いたり、割れたビスケットの形をなんとか整えたり、
型剥がしに失敗してボロボロになった生地を使って別のレシピに切り替えたりと、決して諦めず、できることを探してお菓子を完成させるのです。
たまに泣いてしまう子もいますが、かんしゃくを起こして投げ出すような子はひとりもいません。自分と向き合いながら懸命に工夫してやり遂げます。

「ここから奇跡が起こるかも」
「最後は逆転できるといいな」

自分を鼓舞する言葉を呟きつつ目の前の課題に果敢に挑みます。
ひたすらマイペースな子、理論的な子、楽観的な子、冷静な子、粗雑な子、始終笑ってる子と、個性もそれぞれですが、一生懸命なのは一緒で、みんな時間のあるかぎり全力を尽くします。頑張ることの大切さに胸を打たれて、こちらがホロリとすることもしばしば。ほんとにけなげで可愛いのです。

そして驚くほど器用でアイデアが豊富です。
マスターピースではテーマもとても楽しくて完成図が予想できません。
「宇宙ケーキ」「動物のケーキ」「フェスティバル」「モンスター」「未来」
子供たちは自由な発想力を思う存分発揮して世界にひとつだけのケーキを
制作するのですが、出来上がりの素晴らしさと愛らしさといったら!
大人の頭では到底思い付かない独創的なデザインと味の組み合わせで、審査員をあっと言わせるお菓子が次々誕生します。見てるだけでわくわくして、
こんなケーキをプレゼントされたら感動で号泣しそうなぐらいラブリー。

このコンテストでは子供だからといって審査員が子供扱いしないことも魅力のひとつです。名店のシェフとパティシエ2人が全部を試食してそれぞれの出来栄えを審査するのですが、審査員は彼等を若きベイカーと呼び、挑戦者として迎えます。なので時には厳しい指摘もあります。もちろん彼等のためになるアドバイスで、過剰に褒めもしない代わりに、失敗を克服して完成まで漕ぎ着けた子にはその健闘をきちんと称えます。みなに努力も労います。
彼等はプロからの指摘を次に繋げるため前向きに受け止めて学習してゆきます。とても素直に。だから失敗したとしてもいつまでもクヨクヨしません。
褒めてもらった部分を糧に「次は大丈夫!」といつでも自信たっぷりです。
見てて気持ちがいいほどポジティブに捉えて前進します。誰もが勝者は自分だと期待して結果を待つのです。そして残念ながら敗退した時も悔しい気持ちを堪えて勝者に拍手を送ります。さすがイギリス。紳士の国。見ている方は全員応援してるから誰が勝ち進んでも嬉しいんですけどね。

失敗は過程においての事例や事象に過ぎず、物事の基準ではない。
子供たちはそれを知っていて、落ち込みはするけど他にいいところもあったはずと信じながら軽々と越えて行く。たくましく。とても清々しく。
眩しいほどに意欲的で、堂々と夢を語り、目標の高い野心家でもあります。

そしてここに挑戦しにくる子供たちは人種も宗教も様々です。
白人、黒人、ヒスパニック系、イスラム系、アジア系と多種多様。
男の子と女の子で分けたりもせず同じステージで平等に対戦します。
中には障害や病気のあるお子さんもいます。片手でもハンデなしです。
もちろん審査員も忖度などしません。ベイキングの成果で勝者を選出して
子供たちも初対面の対戦者とすぐに仲良くなります。
この白いテントの中では全ての子供にお菓子を作る機会が与えられていて
真剣に、そして平和的に、誰かを幸せにするために戦っています。
(あの可愛いらしいお菓子を見て微笑まない人なんていないから!)

子供たちの強さといじらしさをこうして目の当たりにしては
自分も諦めかけていたことをやらねばと触発されると共に
何度でも失敗していい、またやり直せるよというチャンスを
多くの可能性を秘めた世界中の子供たちに与えられる明日が来ることを
切に願いたくなるのです。

勇気とほっこりをもらえる「ジュニアベイクオフ」
汚れた大人になっちまったぜ…、と思っている方に是非お勧めします。
キラキラ輝く子供たちの笑顔とおいしそうなたくさんのお菓子に
たまんないほど癒されます🎂🧁🍩


#ジュニアベイクオフ





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