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短編小説/天才少年


『ワタシの育ち方・イン・マイ・ハウス』は、毎回秀でた能力の持つゲスト
が登場して、生い立ちや、どうやって自分の能力に気付き、それを伸ばしていったかなどを再現ドラマを交えながらトークするバラエティ番組。
 この日のゲストはIQ220、数学界の長年の謎だった『アルテミスの定理』をわずか11歳で解いてしまった天才少年の森本健太郎君。
 MCの紹介でとことことスタジオに歩いてきた森本君は、色白で背が小さく、柔和な顔をした可愛らしい少年だった。拍手で迎えられた彼は少し恥ずかしそうに手をもじもじさせながら口唇をすぼめた。ゲスト用の椅子に腰かても照れくさそうにしていて、頭は良くても中身は普通の男の子なんだなと、スタジオや観覧のお客さんを和ませた。
「ところで健太郎君はいつから数学が好きになったの?」
 MCの男性タレントが尋ねた。
「よく覚えてないんですけど、小さい頃から数を数えるのが好きだったんですよね。おばあちゃんの家に着くまでに何本電信柱があるか統計を取って、
それが何メートル間隔で立っているかを測って、僕の家からおばあちゃんの家までの距離を算出して遊んだりしてました。とにかく計算するのが好きで、4歳の誕生日に12桁の計算ができる電卓をもらって、すごく嬉しかったのは覚えてます」
「へえ、それはすごいねえ。生まれつき数字に興味があったんだね。暗算の大会でも三連覇してるんだよね」
「フラッシュ暗算は大好きでした。けどそのうちに答えよりも問題の方に興味が湧いて。一番多く使われる数字はなんだろうって思うようになったんです。それからは問題を見ながら、0から9の数字で登場回数の多いもの順に頭でランク付けしてました。ずっとやってるうちに次に出る問題が確率で分かるようになってきたんです。その数字がどの単位で頻繁に使われるかとかもデータに入ってたので」
「えー、そんなのまで分かるの?じゃあ8は十の位によく出るから、次の問題は4581が出るだろうなとか?」
「ああそうです。一番良く使われるのは1なんですけどね。8は百の位が多いかな。学校でも色々統計を取っていて、今日一番多い服の色とか、12月になったらインフルエンザで何人休むとか、朝予想してから登校するのが楽しかったです。今までの傾向を基に来月の献立表も独自で作ってました」
「あはは。面白いね。それは当たったの?」
「9割は当たってました。時々イレギュラーでスペイン料理とか出てくるので、やられたとか思いますけど」
「今は給食もおしゃれだもんね。それでアメリカにはいつ行ったの?」
「3年生の途中ぐらいです。数学オリンピックで優勝して、僕の尊敬する
数学者のブラウン博士に声をかけていただきました」
「ハーバードを飛び級で卒業してるんだもんね。在学中に『アルテミスの定理』を解いたんだよね」
「はい。博士を含めた6人ぐらいの研究チームがあって、そこに参加してました。『アルテミスの定理』は160年間謎のままだったので、一年ごとに1万ドルずつ懸賞金が上乗せされてたんです。だからもし解明したら1億6千万円もらえるって聞いて頑張りました」
「賞金が欲しくて頑張ったら160年間の謎解けたの?聞けば聞くほどすごいな。我々とは頭の構造が違うんだろうね。今はその頭脳を生かしてコンサルティングエンジニアとして様々な事業に携わってるんだよね。環境保護にまつわる取り組みや、空飛ぶ車の開発にも関わってるとか」
「はい。人口の増加に伴う大気汚染を浄化するためにどのぐらいの森林が必要で植樹すればいいかとか、水温と魚の生存率を比較して漁獲量を制限する会議にも出席しました。空飛ぶ車に関しては、僕は設計ではなく、墜落の確率や、都心に落ちた場合の被害の予想予測をやってます」
「まだ12歳なのにそんなことしてるの?おれの息子なんかサッカーやってるかゲームやってるかのどっちかだよ。泥だらけで帰って来るから洗濯で水はザブザブ使うわ、クーラーがんがん掛けた部屋でゲームやってるわで、環境のことなんかこれっぽっちも考えてない。なのに健太郎君は地球のために頭使って偉いね。そんなにたくさん仕事してたら疲れるでしょう。普段家ではどんな風にして過ごしてるの?」
「そうですね。僕は外に出れば天才と持て囃されてますけど、家では母親に奴隷のようにあれもやれこれもやれとこき使われてます。大黒柱なのにおかしいですよね。あはははは。あれ誰も笑わないですね。僕の確率では80%の人が笑うはずだったんですけど。おかしいなあ」


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天才には天才にしか分からない悩みもあるのでしょうね。
お読み下さりありがとうございました🤗🐧



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渡鳥
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