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短編小説/ドナドナDO


「返せんなら風呂沈めたるからな」

 借金の保証人をしてあげた彼氏が行方不明になり
 怖い人たちが家に押し掛けてきて言った。

 「風呂に沈める」は風俗に売るという意味らしい。
 膨れ上がった借金は1000万円。
 一介のOLが返せる額ではなかった。
 お金持ちの知り合いもおらず
 実家にも迷惑を掛けたくないので
 私は黙って彼らに従うことにした。

 紹介されたのはいわゆる石鹸の国。
 当然抵抗はあったが
 店長や先輩嬢は案外丁寧に優しく仕事を教えてくれた。
 もうやるしかない。
 ピンク色の個室で口唇を噛み締めて覚悟を決めた。
 初めて接客する時は無意識に「ドナドナ」を口ずさんでいた。
 
 可愛い子牛 売られて行くよ
 悲しそうな瞳で見ているよ。
 
 私は売られたんだ。
 もうここで生きるしかないのだと自分に言い聞かせた。

 それから一年。
 今も私は同じ店にいて常に指名ナンバー1の人気の看板嬢になっていた。
 意外だったがこの仕事が向いてるらしい。
 私が出勤する日は30人以上が列を作り整理券まで配られる。
 顧客には財界人や芸能人も多数。
 稼ぎ頭だから店長より発言力があった。

 とっくに借金は返し終わったけど
 まだ店に留まっているのは
 これが天職と啓示を受けたから。
 私は哀れで可愛い男たちを癒してやることにやりがいを感じていた。
 使命感を抱くと共にその作業を苦としなくなった。

 この日の一番客は常連の川田さん。
 背が小さくて働き過ぎたロバみたいにいつもくたびれてて哀愁がある。

 「いらっしゃい川田さん。今日はどのコースで?」

 部屋に案内してから尋ねた。

「今日はもうこの世に戻ってこれないぐらいにメタメタにやってよ」

 川田さんは歯茎を見せた。その顔がロバそのものだった。

 私は笑った。
 OK。いいわよ。
 そういう注文が一番好き。
 この小さい天国で気が済むまで深く深く沈めてあげるわ。
 たまに地獄が見えるぐらい奥の底までね。

 私は今から始まる快楽の解体ショーにわくわくしながら口を尖らせ
 静かな声で「ドナドナ」を口ずさんだ。


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  静かな森でひとりさんのお題をお借りしました。
  下らない話ですみません🙏🙏🙏

#深く深く静かな

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渡鳥
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