シロクマ文芸部/ジョニーは北風になった
北風として生きなさい。
それが神からジョニーに与えられた次の人生だった。
「ジョニー。あなたはこれまで多くの人を騙し、裏切り、傷付けてきた。
あなたは人の心に悲しみという北風を吹かせてきたのです。
凍えそうなほどに冷えきった胸の痛みを知りなさい。
あなたはこれから北風として未来永劫生きるのです」
そうして多くの人を欺いてきたジョニーは北風になった。
びゅうびゅうと吹き荒ぶ北風は道行く人達だけでなく
ジョニー自身をも絶え間なく冷たく晒し続けた。
ああ寒い。寒い。寒いよ。寒いよ…。
ジョニーが叫べば叫ぶほど風は強くなる。
彼に見えるのは肩を縮めながら眉をしかめて歯を食いしばる顔ばかり。
誰も彼を歓迎していない。辛そうにじっと視線を落とすだけ。
ああこれがおれの功罪か。
騙してきた人達の痛みが今ジョニー自身を襲う。
もうしない。もうしないよ。
けれどジョニーがやって来ればみな窓をぴっちり閉めてカーテンを引く。
凍えそうな彼を誰も部屋に入れてはくれない。
ストーブの温かさが懐かしい。
けれど暖まりに来たジョニーは焚き火の炎も消してしまう。
寒いよ寒いよ。ジョニーはひとり寂しく彷徨い続けた。
「ママ、風さんが泣いてるよ。声が聴こえるよ」
窓を見つめていた坊やが庭先の木の枝にひとつだけ残っている葉っぱを
指差して言った。北風に煽られながら懸命に枝に掴まっていた。
空はかろうじて水色に澄んでいるのに窓を揺らす冬の風は強く冷たい。
坊やの横にやって来たママは「本当ね。何か言ってるみたい」と外を眺め
た。冷たくなったガラスを叩く風がひゅう、ひゅうと唸っている。
入れてよう、入れてよう、と言っているように。
ママは坊やが風邪を引いてはいけないと隙間風が入らぬよう鍵を掛けた。
そしておやつのアップルパイを切り分けて坊やにココアを用意した。
ジョニーはひとり窓の外でその光景を見つめている。
冷えきった手足はもう決して温まることはない。
それでもいつかこの風が止むことを祈っていた。
キイ、キイ、と音がして庭先のブランコが揺れはじめた。
まるで誰か乗っているかのように大きく前後している。
そしてひときわ強い風が吹き抜け、最後の葉を虚空にさらっていった。
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こちらの企画に参加させて頂きました。
北風ぴいぷう吹いており窓をしめきった部屋で書きました。