
やってあげるから、同じくらいはしてもらおうとすること
介護の仕事は、人と人との関わりの中で成り立っています。入居者様やご家族、同僚とのやりとりを通じて、感謝の言葉や笑顔に励まされる瞬間がある一方で、時には「これだけ頑張っているのに、どうして分かってもらえないのだろう」と感じることもあるかもしれません。
この「やってあげたから、同じくらい返してほしい」という気持ちは、私たちの心の奥に自然に生まれる感情です。
しかし、この考え方にとらわれすぎると、自分を苦しめたり、周囲との関係に摩擦を生むことにもなりかねません。
この記事では、この「やってあげるから、同じくらいはしてもらおう」という感情を理解し、それを前向きなエネルギーに変える方法について考えてみたいと思います。
なぜ「やってあげたから返してほしい」と思ってしまうのか?
まず、この感情がどこから生まれるのかを考えてみましょう。この気持ちの背景には、次のような要素があると考えられます。
自分の努力を認めてほしいという思い
介護の現場では、自分がしている努力が見えにくいことがあります。たとえば、忙しい中でも丁寧なケアを心がけたり、入居者様のために細かい工夫を重ねたりしているとき、それが直接的に感謝や評価に結びつかないと、「こんなに頑張っているのに…」と思ってしまうことがあります。
公平感を求める心
私たちは無意識のうちに「公平でありたい」と考えます。「自分が相手に尽くした分、相手からも何かを返してほしい」と感じるのは、自然なことです。しかし、その期待が叶わなかったとき、不満や孤独感につながることがあります。
疲れやストレスが原因
心や体が疲れているとき、感情が揺れやすくなります。「こんなに頑張っているのに、どうして私ばかりが…」という思いが強くなり、相手に対する期待が大きくなってしまうこともあります。
「やってあげたから返してほしい」という気持ちが生む影響
この感情自体は決して悪いものではありません。むしろ、自分が頑張っている証拠とも言えます。ただし、この気持ちが強すぎると、次のような影響を及ぼすことがあります。
自己犠牲感が生まれる
「私ばかりが頑張っている」という思いが募ると、自己犠牲感が強くなり、心の負担が増します。
相手との関係がぎくしゃくする
相手に対して期待が大きくなりすぎると、その期待が叶わなかったときに不満が生まれ、関係がぎくしゃくしてしまうことがあります。
自分の心が疲れてしまう
他人に返してもらうことを期待し続けると、満たされない思いが積み重なり、自分自身が疲れてしまいます。
期待を手放すための考え方
では、この「やってあげたから返してほしい」という感情とどう向き合えばよいのでしょうか。以下に、少し気持ちが楽になる考え方をいくつか紹介します。
1. 「見返りを求めない喜び」を見つける
介護の現場では、入居者様やご家族に感謝されることが少ない場面もあるかもしれません。しかし、自分がした行動が相手のためになっていることを、自分で認めてあげることが大切です。
たとえば、
「入居者様が少し笑顔を見せてくれた」「食事を少し多く食べられるようになった」といった小さな変化に目を向けてみましょう。それは、あなたの行動が生み出した結果であり、そこに幸せを見つけることができます。
2. 「自分のためにやっている」と考える
「誰かのためにやっている」という意識が強すぎると、見返りを求める気持ちが大きくなります。そこで、「自分の成長や幸せのためにやっている」と考えることで、少し気持ちが軽くなることがあります。
たとえば、
「入居者様の笑顔を見ることが、自分のやりがいにつながる」と考えれば、他人からの反応に依存しすぎず、自分の満足感を得られるようになります。
3. 「相手の事情」を考える
入居者様や同僚が感謝の気持ちを十分に表現できない背景には、相手の事情があることも少なくありません。忙しさや体調の問題、コミュニケーションの苦手さなど、相手の立場に目を向けることで、「返してもらえない」という不満が和らぐことがあります。
4. 感情をシェアする
一人で抱え込むと、「私は頑張っているのに、誰も分かってくれない」と孤独を感じやすくなります。同僚や友人、家族に自分の気持ちを話すことで、共感や励ましを得ることができ、心が軽くなります。
たとえば、
「今日、こんなことがあって少し疲れたけど、入居者様の一言で元気が出た」など、ポジティブな面も含めてシェアすることで、自分自身も前向きな気持ちを取り戻せます。
相手からの「返し」は意外な形で届く
「やってあげたから返してほしい」という気持ちは、相手から直接的な感謝や行動で返ってくることを期待している場合が多いです。しかし、返しは意外な形で届くこともあります。
· ある日、入居者様が他の職員に「この人はいつも優しい」と話していたと耳にする。
· 同僚が自分のケアの仕方を真似して、入居者様に喜ばれている。
· 入居者様の小さな変化が、自分の働きかけの結果だと後から気づく。
こうした形で返ってくるものを見つけることで、「やってあげたのに返してもらえない」という感情から解放されることがあります。
おわりに
「やってあげるから、同じくらいはしてもらおう」という感情は、介護士としての責任感や努力の証とも言えます。しかし、それにとらわれすぎると、かえって自分の心を疲れさせてしまいます。
自分の努力を認め、見返りを期待せず、目の前の状況に全力で向き合うこと。それが、「やってあげたのに返してもらえない」という苦しさから解放される鍵です。そして、その中で得られる小さな喜びが、あなたの心を満たしてくれるはずです。
あなたの日々の働きかけは、確実に誰かの生活を支えています。そして、時に形を変えて、あなた自身の幸せへと返ってきます。どうかそのことを忘れず、これからも大切な人々とともに歩んでください。
最後までお読みいただきありがとうございます。