背の順。 これまた不合理なシステム。 だって、人間は日々成長している生き物なのだ。 ランキングのように、背の高さだって入れ替わる。 俺の身長だって伸びる。 たとえ1㍉単位だろうと、 後ろのやつを抜いたときもある。 それなのに背の順は一度決められたら半年はそのままで、 その間に抜いた奴にまた抜かれて、 結局俺は先頭のままということになる。 おまけに整列させられて集会やら遠足に行くときは、 目の前には先生がいるものだから、 後ろのやつらみたいに気楽におしゃべりもできないの
子どもたちの喧騒に呑まれてしまいそうになる。 教師は孤独だ。 考えてもみてほしい。 何のまとまりもない数十人の子どもたちを、 ひとりでまとめあげていかなければならないのだ。 経験も技術もまだ持ち合わせていない僕のような若造が、 先生というだけでそれを任されている。 3年目に入った今年も 少しは慣れてきたけれど、 やっぱり遠足や学年での集まりなどになると、 子どもたちは気が散って、いつも騒がしくなる。 そうなると僕にできることは、 大声で怒鳴りつけることぐらいになる。 別
「6年3組って名前は、物足りない気がするんだ」 先生は何でも物足りない気質なんじゃないかと、 だんだんわたしたちは思うようになってきた。 「6年3組はさ、他の学校にだってあるだろう。 日本全国6年3組だらけだ。 百山小学校の6の3、って言ったって、 昨年の3組もあれば、来年の3組もある。 でも君たちのクラスは、世界で一つしかないわけだ。 だから、 クラスに名前を付けたらいいと思うんだ」 なーるほど、名前ね。 すると男子の中から 「ファイヤー3
黒板の上に貼られているものを覚えていますか? 毎日毎日目の前にあって見ていたはずなのに、 誰の記憶にも残っていないもの。 それは3つの目標。 「○○な子」「××な子」「△▼な子」 みたいに書かれている。 一度も口にしたことはないし、見た覚えもない。 でもひとつだけ遺っている言葉がある。 「Do your Best」 小学校最後の年、 わたしたちのクラスの前面に掲げられていた言葉。 それまでの学級目標は、 画用紙1枚ずつの大きさに書かれていたのに、 それは
「お金の単位は知っているかい?」 と先生は聞いてきた。 「円」 「他には?」 「ドル」 「ユーロ」 「ベル」 「ベルってなに?」 「先生知らないの?あつ森で使われているお金だよ」 「あつもり?熱々の森?」 みんなプッと吹き出し、呆れた顔で笑う。 「あつまれどうぶつの森のこと。ゲームだよ」 「なるほど。それでな、 円はコインが丸い形、円形なことから「円」とつけられた。ユーロはヨーロッパ連合の人たちが自分たちのことを表すヨーロッパからつけられたんだよ」
「お給料って、お金がもらえるんですか」 「もちろん」 ええーっ。どよめく、みんな。 「クラスの中で使えるお金ね」 「なんだ、ニセモノか」 「ニセモノじゃないよ、ちゃんと使えます」 何に? 「それは、君たちで考えてもいいことなんだけど、 とりあえず僕からは2つ商品を出したいと思います」 先生が商品を出すの? 「ひとつめは、おかわり優先券。 給食のおかわりのとき、 その券がある人が無条件に一番におかわりできます。 ジャンケンするときも、自動的にその人はも
「係じゃなくて、゛会社゛をつくろう」 と先生が言い出した。 「やらなければいけない仕事は当番がやる。 やりたいこと、得意なこと、 好きなことを生かすのが会社。 今まで見てきた会社はね、 お笑いが好きな子が漫才をやったり、 絵が好きな子が掲示物作ったり、 本が好きな子が読み聞かせしたり」 なんか面白そう。 わたしはピアノが好きだから、音楽関係かな、 と漠然と思う。 「何人でやってもいいよ」 そうなんだ。 係だと何人まで、と決められてい
「係はつくらない」 まったく、先生は次から次へとびっくりさせてくる。 4月は何かと忙しい。 いろんな新しいことが始まる。 新しいクラス、新しい勉強、新しい委員会、 新しいクラブ・・・ その中のひとつが新しい係だと思う。 その係をつくらないって、どういうこと? 「毎日クラスで生活していくうえで、 なくてはならない仕事を出してみて」 そう先生が言ってきたので、 私たちは昨年までの係のことを思い浮かべて、言う。 プリント配り、給食台の出し入れ、 健康観察簿届け、黒板そう
始業式の翌日、朝の会で 先生が昨日のことを話し始めた。 「昨日の入学式の準備、がんばったねえ。 テキパキ動いてくれたし、自分からどんどん動いたし」 それは先生がそうするように仕向けていたんだろうと思う。 「だから君たちに星ひとつあげよう!」 と、先生は小黒板の左上にチョークで☆を書いた。 1年生みたいだな、とちょっと呆れた。 すると先生は、 「こんなふうに、クラス全員で何かをがんばったり、 達成したら星ひとつあげようと思う。 そんでね、星3っつたまったら
「僕はね、5分でメシを食べちゃうんだ」 と先生が語り始めた。 新学期になって、まもなく最初の給食という4時間目。 「はやっ」 と、本人も早食いのユージがさけぶ。 「クセなんだよ。僕が中学生の時、クラスが荒れててさ。 給食当番はめんどくさがって誰も運んでこないし、 他の連中はふざけて走り回ったり、 おしゃべりしていたりしてさ。 誰もまともに準備しないから、遅れに遅れて いただきますから、ごちそうさま、まで、 5分くらいしか時間がなかったんだよ。 そ
1日が終わる。 開放感から、みなざわめき、ランドセルを取りに行き、 教室の中は喧騒につつまれる。 とどのつまり、何気ない時間が流れていく。 そして帰りの会へー。 というのが普通のクラスだ。 わたしのクラスは普通じゃない。 6時間目が終わる鐘が鳴ると、 みな連絡帳を机に出す。 動き回るのは、プリントを配る人たちだけだ。 先生は黒板の中央に明日の時間割を書き始める。 1、国 2、算 3、音 4、総・・・ 宿 算プリ というように。 みんなはそれを写し始める
誰の席の隣になるか、 これは子どもにとっては一大事なことだ。 一緒になりたいと思うほどの相手はいないけれど、 できれば来てほしくない相手はいる。 人によっては露骨に嫌がって、 机をくっつけず離す人もいる。 先生に「机をつけなさい」と言われると わざわざ1ミリくらい離すツワモノもいる。 そういうのを嫌って、 一人ずつの席にバラバラにするクラスもある。 ただ6年生ともなると机は大きくなるし、 おまけにわたしたちの学年は今どき珍しく大人数で、 1クラスに39名くらいいたも
昨日とはちがう朝が来る。 校門まで来ると、その違いがもう見える。 「おはよう」 そこに立っていたのは小松田先生だった。 校長先生が立っている学校とか、 あいさつ運動で子どもたちが立っているのはあるけれど、 まさか自分の担任の先生が立っているとは思わなかった。 わたしが小さな声であいさつしながら通り過ぎる。 すると 「おはようございます。小松田先生」 「あ、おはようございます、小松田先生」 と下の学年の子たちの元気なあいさつが飛んでくる。 振り返ると、先
「さて、このあと入学式の準備です」 と先生が話し始めた。 6年生の始業式は慌ただしい。 あいさつもそこそこに、早速今度入ってくる1年生のための入学式の準備を手伝わされる。 つい先月は前の6年生の卒業式の準備もやらされた。 問題だらけのわたしたちの学年にしては、 がんばった方だとは思うけど、 それでも先生たちは焦っているのかよく怒鳴られたし、 そうでなくてもマジメとは縁の遠い子たちはダラダラやるので時間ばかりかかった覚えがある。 どんな仕事分担になるのかな、 と聞こう
教室に戻った。 誰も音ひとつ立てない。 そこには異様な緊張感と、そして期待があった。 「ミッションは実行したかな?」 先生が口を開いた。みな、うなずく。 「そうか、ひとつめはクリアしたというわけか」 「それ、先生が作ったんですか」 と誰かが黒板に貼りだされた挑戦状を指さして言った。 先生はその紙をはがしながら、 「うん。面白かった?」 と笑った。 「さて」 ひと呼吸おいて、先生が口を開いた。 「伝えておきたいことが2つあります」 するとチョークを取り
始業式が終わると、担任の先生が発表される。 わたしのクラスは6年3組、 つまり誰が先生になるかは一番最後にわかる。 というより、みんな発表された後なので、 残った人、ということになる。 「ノコリモノニハ、フクガアル」 なぜかそんな言葉が頭をよぎった。 2年生から次々に発表されていく。 学校によっては歓声や悲鳴が起きることもあるらしいけど、うちの学校はわりと淡々と進む。 わたしは特に希望はなかった。 大場先生が優しくてまあいいかな、くらいの気持ちだった。 ひとり、