KPOPと、パレスチナと、ボイコットと。
平和を望みながら、推しを応援しつづけるにはどうしたらいいんだろう?
長文のため目次だけで主旨を追えるように書きました
I. はじまりーーすきなアイドルをボイコット?
楽曲制作にイスラエル人のプロデューサー(PD)が参加していた話
きてしまったーーー好きなグループの新曲クレジットに書かれていたプロデューサーのひとりが「シオニスト」であるという英語のツイートが流れてきた。
シオニストとのコラボが炎上することはKPOP界では珍しくなく、ほとんどの大手企業宛にハッシュタグ「#(企業名)DivestFromZionism」(意:シオニズムから投資を撤退せよ)が存在する。ただ、それが自分の好きなグループのところで起きる話だとは予想していなかった。
信じる?意見する?卒業する?いっそ…考えないどく?
推し仲間と話したり、Xをみても、意見はいろいろ。「メンバーも社長も関係ないよ、信じる」「SNSでは静かにして事務所のお問い合わせフォームに連絡した…」「いままでのいろんなことが積み重なってもう無理かも」「また海外ファンが意識高いこと言ってる」など。何も言及しないアカウントもたくさんある。
推しへの愛と、ざわめくファンダムに乱れる心と、遠い国の誰かであっても傷つけたくない思いとーー自分なりに調べ、考えました。ひょっとしたらこれが誰かの思考の補助線にもなるかもと思い、記事にしてみました。
II. 立場ーー無実の人は殺されてほしくない
そもそもパレスチナ・イスラエルについて知らないと判断ができない。まず学び、自分の立場を自分で理解してから、今回のケースについて考えたい。
事実ーーパレスチナはイスラエルに76年間占領されている
1947年、国連がパレスチナの土地にユダヤ人国家を建てることを決め(地図②)、翌年にイスラエルが建国を宣言すると、元々住んでいたパレスチナ人の75%(70万人以上)が武力で故郷を追われる。1967年・第3次中東戦争でイスラエルが大勝し、地図③に示されているエリアの占領が開始。
その後、イスラエルは国際法で取り決められた境界を超えてパレスチナ人の土地に入植し続け、2002年からは境界線を無視して分離壁が建てられた(2004年に国際司法裁判所から国際法違反判決・勧告済)。
2006年、イスラエルに強行姿勢をとる「ハマス」がガザ地区(地図④左下の緑)の政権を取ると、2007年からガザ地区はイスラエルにより軍事封鎖される。200万人が40km×10kmの狭い空間に閉じ込められた状態が何年も続いている。最後に統計がとれた2023年8月、58,606人だけがガザからの出域を認められたーー医療目的での出域は申請数の6%(113人)しか承認されなかった。
封鎖から18年、幾度もの軍事攻撃によって、ガザの下水道処理施設や発電所は破壊され、物資の入域が制限されているので再建できず、貧困率・失業率は上がり、栄養失調者が増え、ますます困難な状況にーー参考にしたわかりやすいパレスチナ解説記事、ぜひ読んでください。
事実ーー2023年10月7日以降、ガザでは虐殺が起きている
意見ーー虐殺・占領はとまるべき、ボイコットはそのための手段のひとつ
虐殺とは「国民的、民族的、人種的または宗教的な集団の全部または一部を集団それ自体として破壊する意図をもって行われる行為」のこと。いろいろ調べる中で、私はいまガザで起きていることは「虐殺」という、こわい言葉があてはまると思うようになりました。
そしてそれをおかしいと思う。無実の人が傷ついたり、殺されてほしくない。だから、虐殺がとまるように即時停戦すること、パレスチナの占領が終わること、パレスチナとイスラエルの囚人/人質が解放されることを望むことは大切なことだと思います。
学ぶ。考える。話す。署名する。寄付する。デモに行く。選挙に行く。議員・省庁・企業に抗議する。こういった行動と並行して、日常からはじめられる行動が「BDS - Boycott, Divestment, Sanction/買わない、投資を引き上げる、経済制裁する」です。
BDS運動は、イスラエルが以下の3つを実行し、パレスチナ人の民族自決権を承認するまで続きます:
①アラブ人の土地に対する占領と植民地化を止め、分離壁を解体すること
②イスラエル内のアラブ・パレスチナ人市民の基本的権利を認め、平等に扱うこと
③国連総会決議194号で定められたパレスチナ難民の故郷への帰還の権利を尊重し、保護し、促進すること
ーーーーー(抜粋:BDS Japan Bulletin)
発足当初の2005年から世界各地に活動が広まり、日本にもとても活発な組織があります。日本の防衛省のイスラエル製ドローン輸入に反対する動きなど、大事な運動を担っています。
国際的な事例では10月以降、イスラエル国防軍に約3億円(2 million USD)を寄付したディスニーや、マクドやスタバのボイコット運動が展開されています。スターバックスは5-7月売り上げが昨年比で6%減少(主に北米・中東・中国)、マクド社長は「戦争が終わるまで売上の回復は見込めないだろう」と述べています。
III. 考え方ーーボイコットのガイドライン
パレスチナの声、「イスラエルの国際的文化ボイコットガイドライン」とは
音楽、演劇、映画ーーーどうやって判断したらいいんだろう?そこで今回は国際的なBDS運動を取りまとめるパレスチナBDS民族評議会が策定した「イスラエルの国際的文化ボイコットガイドライン:PACBI(和訳 - BDS Japan Bulletin)」を紹介します。僭越ながら、今回の記事では要旨を紹介し、自分の推しについて考えます。
前提ーー単純にイスラエル人だからってボイコットしてはならない
前提ーー対象を絞ってボイコットすることを推奨する
では具体的にどのように対象を絞っていくのか?5つの事例が挙げられています。
①原則イスラエルの文化機関や協力機関
❌原則として、イスラエルの文化機関はイスラエルによる占領体制維持や、パレスチナ人の基本的権利の否定に加担するものである。占領に反対しないイスラエル以外の文化機関も同様である
②イスラエル国家のイメージアップのためのもの
❌イスラエルのアーティスト、作家、その他の文化活動従事者の多くが、国際的なイベントへの参加費用に充てるための国の資金を申請する際、イスラエルの公式プロパガンダ活動に貢献することを義務付けられている。したがって国際的プロジェクトはほぼすべてが対象となる
✅アーティスト自身がイスラエル納税者で、個人の権利として公的資金を得て作った、イスラエルのイメージアップにならないものは、ボイコット対象ではない
③イスラエル文化機関や協力機関の後援をうけているもの
❌タイトルの通り
④占領者と被占領者の不平等な力関係を無視したもの
❌イスラエル人(抑圧する側)とパレスチナ人/アラブ人(抑圧される側)の双方が「紛争」に等しく責任があるとするものは、ボイコット対象にあたる
⑤イスラエルの文化機関や協力機関の支援を受ける視察団などの活動
❌タイトルの通り
✅バランスの取れた、独立した実情調査団や研究グループはイスラエルの学術機関との組織的なつながり(セミナー、ワークショップ、展示など)が一切ないことを条件に、ボイコット対象とはならない
批判ーー時に過激にもなる
ガイドラインを読んだ後、反対側の意見も見なければと思い調べてみました。日本語のBDS反対意見は「ユダヤ人と日本」というブログに載っていますが、音楽文化に関することではなかったのでこの記事では割愛します。
そこで推しの楽曲を提供したPDが出席していたイベントの運営団体・CCFPの動画を見ることにしました。CCFPは主に米国のエンターテイメント界にいる人々が中心となって2012年に結成した組織で、BDS運動やイスラエルに対する文化的ボイコットに反対する署名活動等をしているそうです。
団体のウェブサイトに掲載されている『虚像の払拭』シリーズの中から「BDSの理解と文化的ボイコットについて(英語のみ)」を視聴しました。事務局長のインゲルはBDS運動の定義・目的・活動形態を示した後、BDS運動のデモではイスラエルの旗を燃やしたり、イスラエルを支持するアーティストを脅迫していると解説。スカーレット・ヨハンソンや、ジェニファー・ロペスをはじめ、BDS運動にいじめられた著名人をサポートしていくと宣言していました。
ウェブサイトと動画で代表アリ・インゲルが指摘するように、世界的なアーティストはイスラエルで、あるいは、イスラエルとパレスチナ両方で公演をしようとすると、SNS上で攻撃的な批判をされます。昨今、激しさを増すキャンセル・カルチャー(※)の態度と相まって、決して建設的とは言えない批判も目にします。
パレスチナのガイドラインとイスラエルの言説。両方を拝見したところで、すきなグループに楽曲を提供したPDについて、考えます。
IV. 判断ーー対象ではない、けれど
今回取り上げるPDはグラミー賞にノミネートされたことがあり、複数のKPOPアーティストに楽曲提供をしたことがある人です。音楽業界の契約・コラボ形態はさまざまあるそうですが、今回は、推しの楽曲がストリーミングされたり、CDが売れると、PDにもロイヤリティが入るという前提で考えます。
PDはシオニストか、ガイドラインに沿った適切なボイコット対象か、私はどうするのかーーーー
PDはシオニストの定義には該当するかもしれない…
PDは、イスラエル出身、恐らくユダヤ系です(名前はヘブライ語で表記されている)。現在はイスラエルに居住しておらず、アメリカ西海岸にお住まいであることがわかっています。
まず、PDはイスラエル国防軍(IDF)に所属していました。しかし、イスラエルではほぼ全ての人に兵役の義務があります。占領に強く反対しているイスラエル人の中には社会的奉仕で代替したり、兵役を拒否する人もいますが、多くの人は参加を選びます。
次に、上記で紹介したCCFPのイベントに参加していたことがCCFPのメルマガに記載されていたそうです。ただし、そのスクリーンショットを見る限り、そのイベントには他にも多くの音楽関係者が出席していたようです。また、同じ団体が出したイスラエルへの攻撃を非難する公開書面にも名を連ねていません。
最後に、10月7日以降、PDはインスタグラムにイスラエル人の人質解放を訴える投稿はあげていましたが、パレスチナに関する投稿は一つもしていません(≒虐殺・占領に明示的に反対していない)。また、PDがこれまで協業してきたアーティストには、わかりやすくイスラエル国家の支持を表明する方々がいます。
「兵役に行って、占領に反対せず、BDS運動に反対する組織のイベントに参加し、シオニストと楽曲を作る」と言う点で、冒頭に書いたシオニストの定義・解釈に該当する可能性が高い…な…?というのが現時点での判断です。断定はできません。
ガイドラインの定義には該当しない
次に、BDSガイドラインを見てみましょう。
①イスラエル文化機関・協力機関の企画、ではない✅
②イスラエルイメージアップにも、関係ない✅
③イスラエル文化機関・協力機関の後援、うけてない✅
④イスラエルとパレスチナの力関係を無視したもの、でもない✅
⑤イスラエル文化機関・協力機関の支援を受けた視察団も、関係していない✅
また、日本・韓国・米国のBDSウェブサイトを見ても戦略的なBDS対象に指定されているわけでもありません。したがって、ガイドラインに則ると、PDの参加した今回の楽曲はボイコット対象ではないと判断しました。
結論ーーPDはシオニストの可能性が高いが、集中ボイコット対象ではない
V. 曲はボイコットせず、パレスチナを支援する!
今回、勉強したことでもっと直接インパクトのある行為に集中しようと気づけました。こちらのOlive Journalさんにある署名を片っ端からして、好きな曲を聴きながらもっと仕事したり・副業したお金で寄付して。
あまり情報の出ていないPDに、入るかもわからないお金について悩むより、今は確かな支援を確かなところですることの方がパレスチナのためになるし、自分の精神衛生上もいいなという結論です。ただしこれからもCredit Checkはするし、会社・グループの方針が変わってしまったら、そのときはしっかりと声を上げます。
それぞれの解釈・判断があると思います。この記事ではいちファンが、自分の中での様々な気持ちの折り合いをつけるために、シオニストについて、イスラエル・パレスチナについて、調べて、結論を出しました。同じ情報でも、それぞれの解釈・判断があると思いますので、同じ意見を押し付けたいわけではありません。
感想
最後に、これは「ファンダムの分断」、では絶対にない
現在、ファンダムの中では自然発生的にPDが関係した曲をボイコットする動きが生まれています。それを「ファンダムの分断」と言う方を拝見しました。私はこの意見に賛同しません。
推しのもとに世の中の有象無象の人が集まれば、これまで出会うはずのなかった人と出会い、意見が違うことも当たり前だと思います。自分の基準で「統一したファンダム」と言う幻想を、ごちゃごちゃの社会がぎゅっとつまったサラダボウルに押し付けて、声をあげにくい状態にすることが一番恐ろしいことだと思います。
暴走した善意を整えることーー美しく怒り続けたい
怒ることはとても大事なことだと思いますし、だからこそそのエネルギーを適切に表現することこそがカギなのではないかと思います。そして、どんなに良い意図を持っていても、口が悪い方は好きにはなれません。人に意見を押し付ける方・自分と同じ意見でない方をすぐ見下す方も、私は好きではありません。
だからこそ、最後に岡本太郎さんの『美しく怒れ』の序文で締めたいと思います。
ありがとうございました。