宗教や信仰についての雑記 #314
◯自己カテゴリー化理論と最小グループパラダイム
前回カテゴリー分けについて触れましたが、それについて調べている過程で、「自己カテゴリー化理論」と「最小グループパラダイム」という言葉に出会いました。
自己カテゴリー化理論は、個人が様々な社会的カテゴリー(性別、年齢、職業など)に属し、それらのカテゴリーに基づいて自己を定義すると考えます。そして、状況や文脈に応じて、どのカテゴリーをより強く意識するかが変化します。
最小グループパラダイムとは、社会心理学の実験手法の一つで、極めて単純な社会的カテゴリー化(コインを投げた結果、好きな色や数字の選択など)によって内集団と外集団が形成され、内集団への帰属意識が高まることでそれを優位に評価し、外集団に対する差別や偏見が生じることを示す実験パラダイムです。
最小グループパラダイムが示すものには以下の二つがあります。
・人間は、すぐに「自分たち」と「他人」を区別し、自らのグループに帰属意識を持つ。
・差別は、特別な状況や対立がなくても、ごく自然に生じる可能性がある。
これらのことは、人は自分の属する集団にアイデンティティを感じ、その集団の評価を高めることで自己肯定感を高めようとする、ということを表しています。
ここで、これらのことを宗教に当てはめてみると、まず、宗教は非常に強力な社会的カテゴリーの一つです。そのため、個人のアイデンティティの形成と価値観や行動規範に大きく影響します。
そして、その宗教が提供する価値観や行動規範は、内集団(教団)への帰属意識をもたらし、その結束を強め、外集団に対する差別を正当化する根拠となる可能性があります。
しかし一方で、その価値観や行動規範は、ボランティア活動や慈善活動など、社会問題に対する共同の行動を起こすことがあり、それが社会変革の原動力となることもあります。
また宗教は、国政、民族、人種などの違いを超えた帰属意識をもたらすこともあります。さらに、異なる宗教の人々であっても、平和や愛、慈悲といった普遍的な価値観を共有している場合があります。このような共通の価値観がひとつのカテゴリーとみなされれば、集団間の対立を緩和し、相互理解を促進する可能性があります。
世界には民族や宗教の違いによる対立や紛争が現代でも起きています。また、インターネットやSNSなどは様々な情報を提供する一方で、個人の視点を固定化させ、人間が複数のカテゴリーにまたがって存在していることを忘れさせてしまう性質をも持っています。
我々は一人ひとりが、自らの心の内や環境に潜むこれらのような性質をよく理解し、その智慧を不幸や苦悩を克服することに役立てなければならないでしょう。
そのためには、宗教、歴史、社会学、心理学、ネットリテラシーなどについての教育や啓蒙がより重要となるのでしょう。
我々は、アイデンティティの固定化された存在ではありません。それは時と状況に応じて変化するものです。そしてまた、個人のアイデンティティは決して単一のものではありません。我々は常に複数のアイデンティティを持つものであり、ただ、主なるアイデンティティの自覚にそのことが隠されているだけなのです。
そのことを忘れないようにしたいと思います。