航空自衛隊の研究所に行ったこと
二十歳で就職のため上京したころ、幼なじみたちは大学生でした。40年以上前のこと。.....…光陰矢の如しとはこのことか..…..…
幼なじみで一番仲が良かった鬼太郎は「人外妖怪で人畜無害」という妙な設定で扱われていたけれど、実に優秀で、立派な大学生をやっていました。
そのころ、鬼太郎のふたつ下の弟君が浪人中で、鬼太郎家では国分寺の住宅街に一軒家を借りていました。ちょくちょくお母様も来ていて、同郷の面々がいつも出入りして、家庭的な和やかさを分けて頂いていました。
私は会社の女子寮暮らしが息苦しくて、鬼太郎の家に入り浸りで週末はこの家を拠点にして遊んでいました。鬼太郎の弟君と私の弟もやっぱり幼なじみで、仲良しでした。学校帰りに鬼太郎の家に上がり込んだ弟は、家の人たちが飽きてしまったお母様研究中のケーキをモリモリ御馳走になり、お母様を喜ばせ、鬼太郎は我が家で夕ご飯を食べたりしていました。鬼太郎のお母様と父は同窓だったり、お父様と父は同僚だったり、なんか家族って枠が少々イカレテたかも知れない。
鬼太郎は写真をやっていて、家には暗室があって、懐かしい写真を焼いてもらったり、書きかけの小説について丁々発止の議論をしたり、実に愉快に過ごすのでした。丁々発止ではあるけれど、私には文才がないということになっていました。本を読み過ぎる奴は書けないものなんだそうです。私、読み過ぎなんだそうです。大きなお世話だ!
ある時、鬼太郎の叔父さんが自衛隊の研究所にいると聞き及び、好奇心いっぱいになって会ってみたいと呟いたら、それが実現しちゃいました。
とある日曜日、立川の基地に鬼太郎と一緒に行きました。自衛隊の研究員の叔父さん、博士。学校の先生のようでした。研究室内もここが基地の中とは思えない、生物研究室みたいな雰囲気でした。
それで、どんな質問があるのかね?
あ、いや、タダの好奇心です
す、す、すみません
せっかくのお休みの貴重なお時間を頂いてるのに.…
ははは、いいよいいよ
君は…ほう、写真会社にお勤めか ふむふむ
このカレンダーをご覧なさい
トカゲのX-rayだ
これを見て
なにかわかるかね?
尻尾の先までよく映ってますね
手足の爪までくっきり
こんなに映るんですねー
そう!そこなんだよ!
ここまで撮るのは難しくてね
ふぉふぉふぉ
なかなか良かったので
カレンダーに仕立ててもらったんだよ
これだけの解像度を持ってるフィルムと撮影技術
写真会社なら、これを目指すんだね
ふぉふぉふぉ
.…あい、それ作ってるのは.…我が工場で.…
(企業秘密があったりするので割愛)
..…なんですよ~
いや、君、いいね!
おまえ、いい友だち持ってるじゃないか!
鬼太郎、私が何をやらかすか、心配でたまらない様子アリアリでした。そのうち話題は、博士のマウスの実験の話になりました。十匹くらいのマウスが入ったケージに、回る車輪があって、マウスたちがちょこちょこ車輪を回しています。
博士はその車輪の回転数を計測していて、夜行性のマウスたちが夜間に何メートル走っているのか計算してくれと鬼太郎に言い、鬼太郎はせっせと計算していました。
それから博士は楽しそうに、マウスの学習能力について説明をしてくれました。餌を使って学習させるのだそうです。
例えば、飛び越えないといけない場所に餌を設置する。マウスたちはすぐに
飛び越えることを学ぶ。距離をちょっとずつ伸ばして、マウスたちがどのくらいの距離を飛べるようになるのか調べる。
次に、高さのある障壁を飛び越えないと、餌にたどり着けないようにする。マウスたちはすぐに飛び越えることを学ぶ。どのくらいの高さまで飛べるようになるのか調べる。
さて、次だ!
博士はまるで美味しい御馳走を前にしたような表情!
また餌を使って、マウスに「高く遠く」ジャンプしないと餌にたどり着けないようにする。どうなると思う?
距離を学ばせるとかなりの距離を飛ぶようになるし、障壁もかなりの高さまで飛べるようになる。なのに「距離+高さ」にしたとたん、だめになっちゃうんだ。ひたすら目の前の壁を超えることしか考えられなくて、距離のことを忘れちゃうんだ。マウスにも個性があったりするから、たくさんのマウスで実験するんだが、距離と高さを克服するマウスはいなかったんだよ。
実に興味深かった。まるで自分のことを言われているようで...…ううう
そのあと、新しくできた「G」を計測するための巨大な実験施設を見学させてもらったりしました。叔父さん、研究員だからどこでもフリーパス。
そんな風に、ひょんなことから
珍しい場所に赴き、素晴らしい講義を聞かせて頂いた一日でした。
鬼太郎は、叔父さんに会わせたんだから、次はお前が女子寮の女の子を連れて来いと言いました。鬼太郎は美少女好きの変態でした。