手相
二十歳で就職して、初任給を頂いたときのこと。
女子寮で同室の光与ちゃんが「手相を見てもらいたい」と言い出しました。なるほど素敵だなと思って、花金の夜、街に出ました。
光与ちゃんが目星を付けていた、占い師。閉まっている銀行の入り口に、小さなテーブルを置き、ろうそくを灯して「手相」と札を出していました。
普段なら、あたし、行きます!と積極的にトップを切って飛び込んでいく光与ちゃんでしたが、どうぞ、お先にと私を押しました。
将来について、みてもらいたいと告げました。
年齢不詳、雰囲気のある衣装の女性占い師は
にこやかに、私の手を取りました。
..…両親との縁が薄い..…子どもの頃に大病をしていますね。何度も。
この先も命の瀬戸際があります.…短命...ともいえるし.…う~ん
あるところを切り抜けると、長命ともいえる。複雑です。
それから..…ん~。
あなたは、偶数の年齢のときに出会った人と結ばれるのが良い。些細なことでも我慢してはいけない。思いっきり行動することが吉を呼ぶ。気に入らなかったらすぐ別れなさい。ダメなら次の恋に期待しなさい。やり直すことで運気が上昇すると..…出ている。
数奇で波乱に満ちた人生を送る..…
ここらへんでもう、占い師は汗まみれで手が震えていて
こんな手相見たことがない、と、とにかく、あなたは思い通りにすることが開運の相。
ああ、もうダメ、今日は店じまいです。
とっとと撤収する占い師。
私と光与ちゃんはあっけに取られてしばらく突っ立てました。光与ちゃん、占ってもらえなかった。
まー、手相をみてもらうってどんなか、みたし、面白かったからいいやと
光与ちゃんはいい、ふたりで焼き鳥を食べに行ってビールをしこたま飲みました。私の奢りで。