恒等式について
今回は山根さまが書かれていた記事で
恒等式について書かれていたのでそれを考えてみたい。
前半は恒等式についての話を。
後半に意見を述べていますので必要なら飛ばしてください...
お題は次のとおり。
お題 :
恒等式の問題を解くときに、「微分代入法」を用いるのは邪道か?
先に私の意見を簡潔に述べると。
邪道ではないしむしろ良い方法だと思うが、そこまでする必要のある問題がそんなに無い...
といった感じだろうか。
「恒等式の問題」の定義が曖昧なのでここでは山根さまの記事の内容から推測し、紹介されていたリンク先にあったような問題を「恒等式の問題」と思う。
そうでない場合も以下に少し書いてあるが、もし「恒等式の問題」を違う意味で書いているのでしたら申し訳ございません。
恒等式について
まずそもそも恒等式とはなんだろうか?
In mathematics, an identity is an equality relating one mathematical expression A to another mathematical expression B, such that A and B (which might contain some variables) produce the same value for all values of the variables within a certain domain of discourse. In other words, A = B is an identity if A and B define the same functions, and an identity is an equality between functions that are differently defined.
と書かれている。
さて、以下では考える領域Sは断りがなければℝであると思う。またxやyは実数値だとする。
例
$${x^2-y^2=(x+y)(x-y)}$$は(S上)恒等式である。
まあこれは簡単に確認できる。
また領域をA={0,1}とする。
(つまり0と1の2点集合)
このときx^2=xは(A上)恒等式と思える。
が、A上でなければ恒等的でない。
例えば2を入れればすぐに確認できる。
これが十分性の議論が〜と言われる所以だ。
大抵-1,0,1を代入して〜とすることが多いが、もしかしたらたまたまその時に恒等的となっているだけかもしれない。本当にS全体で恒等式になっているの?と聞かれた時のために記述しておく必要がある。
さて、では関数に対して恒等式であることはどのように示せば良いのだろうか?
以下ではシグマの範囲は0からnとする。(nは自然数)
$${\sum a_kx^k=\sum b_kx^k}$$が恒等式とは各kで$${a_k=b_k}$$が成立する。
これなら文句なくSの任意の元で恒等的である。
ではそれをどうやって示そう?
よく言われる解法は二つで
1つは実際に上のように係数比較をする。
もう1つはx=-1,0,1などの簡単な値を入れて、そこから十分性の議論をする。
ここから本題
そこで山根様は
微分して考えてもいいのではないか?と提言されていた。
私の意見としては冒頭と同じだが、
邪道では無く、解答を出すだけなら良い方法だが、(少なくとも入試問題レベルでは)そんなことする必要がない。
だ。
入試問題でも高々2次や3次で微分を使うほどでもないというのが現実だと思う。
が、それでは味気ないので微分を使う方が良い例を挙げる。
例
$${x^3+x^2-8x+5=(x-2)^3+a(x-2)^2+b(x-2)+c}$$がどのようなxについても成り立つ時定数a,b,cの値を求めよ。
これはTaylor展開っぽい雰囲気が見える。
よって微分を使うと良いのではないか?と予想がつく。
ではやってみる。
まずx=2とするとc=1
与えられた式の両辺を微分してx=2として
b=8,
もう一度微分して
a=7
これを元の式に入れると確かに正しい。
といった感じだろうか。
これは確かに係数比較も数値代入も(解けはするが)めんどくさく、微分するのが早そうである。
この問題ではあまり問題にはならないと思うが一応次のことに注意しておく。
一般にf'(x)=g'(x)が任意のxで成立していたとしてもf(x)=g(x)とは限らない。
不定性を上手く解決出来るような解答が必要になってくる。
例えばf(x)=x,g(x)=x+100000000000としても
f'(x)=g'(x)である。
と、微分の解法を書いていたが他の解き方の場合も一応記しておく。次の問題を考える。
$${3x^2+1=a(x+1)^2+b(x-1)+c}$$が恒等式となるようにa,b,cを定めよ。
まず係数比較で解く。
右辺を展開して
$${ax^2+(2a+b)x+(a-b+c)}$$
よってa=3,b=-6,c=-8
次に代入法で
x=-1とすると
4=-2b+c
x=0とすると
1=a-b+c
x=1とすると
4=4a+c
よってa=3,b=-6,c=-8
十分性の確認は代入すれば簡単に確認出来る。
最後に微分
x=-1として4=-2b+c
一階微分を考えて
x=-1として-6=b
二階微分を考えて
x=-1として-6=-2a
以上よりa=2,b=-6,c=-8
こちらも十分性は簡単なので省略
と、
私にとってはどれもそこまで差がないように思える。なんなら(ax+b)^nの微分は数IIでは学校によってはしないらしいので人によっては微分をする前に展開して、それなら係数比較で良くない?となりそうな気もする。
とはいえやはり次数が大きい時は有用であると思う。
また「恒等式の問題」として次のようなものを考えるなら話は別である。
$${x^n}$$を$${(x-1)^2}$$で割ったあまりを考える。(n≧2)
これなら微分を使うのが有効である。
が、二項定理などでも解ける。
重解が絡むと変数が足りなくなるので微分を使う!ということは問題集にもよく載っている。
(正直私は微分で解いたことはないが...)
あとがき的な
と言うことで邪道ではなく、なんなら使ったほうが良い例もある。
だが多くの(ネットや参考書の)例題はそれを使うほど難しい問題でもない。
という感じだろうか。
2次ならいいが3,4次なら計算が複雑になるが、そもそもそのような問題があまり出ない...
仮に3次だとすれば求める文字は3つしかないはずだ。
するとx=-1,0,1などで足りてしまう。
4次なら求める文字は4つになるがその時は微分が有用だと思う。
(ちなみに3次の時の最高次の係数は明らかなので4文字だとしても3文字に出来る)
さて、
簡単か難しいかは置いといて係数比較が一番基本的で、それが確実であることを改めて述べておく。
また余談だが、以下のBernoulli数の計算などを考えてみる。
これを高階微分で解くのは現実的ではないと思う。
係数比較ならまだn=6くらいまで(比較的)簡単に求められるし、十分性の確認も必要ない。
最後に。
私はそもそも恒等式で微分を使うと良い!というのはあまり考えていなかった。
それは厳密な議論もそうだし、上のBernoulli数のような微分したくないような関数とも出会ってきたから。
だから色々な境遇(?)の人の意見を聞けたら面白いと思う。