お世辞にもおいしくないミネストローネと桜フレーバーティーと幼馴染との関係
10年以上前のこと。私の出身国から幼馴染というか、日本語補習校の同級生が一時帰国した。当然久しぶりに会おうという話になり、新宿、渋谷、原宿あたりでウロウロすることになった。
昼食
昼食は新宿の和食屋さん。彼女が頼んだのは海鮮丼。しかし商品名に漢字の固有名詞が入っていて、読み方がわからない。漢字に弱い私も読めないのだが、日本に住んだことがなく、現地の良い大学に通っている彼女に読めるはずがなかった。店員さんに「〇〇丼…?」と読み方を確認しながら注文をしていた。
申し訳ないなと思った。ここは日本在住歴がある私がある種"先輩"として私がアシストするべきだったなと思った。黙りこくっている自分が恥ずかしかった。
お土産物色
この辺りは特に問題なかった。普通に昔話をして、誰が今どうしてるとか情報交換をした。
お土産を何にするか迷ったあたりでLUSHが見えたので指差したら「LUSHなんて向こうにもあるし…」と言われてしまった。アメリカ企業が店を構えているなんて、地元も都会になったらしい。
夕食
原宿でハンバーガーのお店を見つけてあったのだが、私が下見をしておらず、当時はスマホもなかったので店へ辿り着けなかった。仕方なく近くにあったロッテリアに入った。よく覚えてないのだが、何かしらのバーガーを頼んでセットのサイドは2人ともスープにした記憶がある。ミネストローネか何かだったと思うが上に油のようなものが浮かんでいる様が全く食欲をそそらなかったことを覚えている。
そして彼女が「これ、おいしくないね」とハッキリ言ったのである。私が「そう?」と流そうとすると「リンジェはこれをおいしいと思うの?」と畳み掛けてきた。めっちゃ現地人じゃん。懐かしい。私もこんなだったなあ。
そこでいかに私が日本人化したかを実感した。よく日本人は外国のホテルなどでは「サイレントクレーマー」という扱いを受けていて、「その場で文句は言わないが自国に帰ってから悪い評判を広める」と言われている。私も日本に来てほんの数年であっという間にサイレントクレーマーと化していたのである。店内にいながら商品の味に不満を示した彼女に不快感を覚えたのだ。彼女は西洋人で、私はもう日本人になってしまったんだと壁を感じてしまった。なんだか話しづらくなってしまった。自然と私の口数が少なくなり、会話も弾まなくなった。
夜のおやつ
夕食が私目線でも味がイマイチだったのでお口直しに私が当時よく通っていたフルーツパーラーに入った。彼女はやはり日本の料理のサイズでは物足りなかったのか、フルーツパンケーキを頼んでいた。私はおいしくないものを食べると食欲がなくなるタイプなので桜フレーバーの紅茶だけを注文。
私はもう満腹だったのと、この桜フレーバーがまたなんとも食欲をそそらない味だったのであまり飲まずにいた。それを見た彼女は「それ、おいしくないの?」と聞いてきた。「別にそういうわけじゃないんだけど、思ってたよりお腹いっぱいなんだよね。」またもや流そうとする私がそこにはいた。
その後の会話はもう覚えていない。あまり弾まなかったのかもしれないし、私が彼女の西洋的な振る舞いに疲れてしまっていたのかもしれない。実際私が西洋を離れることを決断したのが彼女のような態度をとる人々に疲れていたからに他ならなくて、そんな私が数年で、最も簡単に(ほぼ)完全なる日本人と化したことは私自身にとっても驚くべきことだった。
あれから彼女と連絡を取ることはなくなった。後にFacebookで彼女が日本に来たことを知ったが特に声もかけなかった。私もまだ精神障害の投薬治療を始める前だったし、うまくやっていけるかわからなかったからだ。
なんだかショックだった。「文化の違いを受け入れて云々」言われている世の中で、習慣や態度の違いがあんなにも仲が良かった私たちを隔てることになろうとは。しかしマインドセットが違うからこそ、私たちは多様なのである。
そこに美しさを見出すか、悲しみを見出すかは立場によって違うのかもしれない。