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連載・長編小説【新入社員・山崎の配属先は八丈島!?】㉒

 わたしの二年目の夏が終わった頃、昭一さんから話があった。
「来月で退職して、本土でバスの運転手になる」とういうのである。
全く予想もしていなかった。突然のことにショックだった。
ついこの前、私の愛車「スズキ・フロンテ」に昭一さんがツナギを着てカーステレオをつけてくれたばかりだった。
「車のメカニックに詳しいんですね」
「おう、好きなんだ」
車好きなのは知っていたが――まさか、ドライバーを目指していたとは……大型免許も取得しているという。
そんな話があった矢先に魚屋さんも田中さんも辞めるという話を聞いた。
魚屋さんは田辺くんと一緒に「清掃会社」をはじめるという。田中さんは、東京に戻ってシティーホテルに転職するらしいのだ――グループのホテルは辞めるらしい。
少し前にはフロントの早川さんも退社して横浜に新規オープンの「ブリーズベイ・ホテル」に転職していったばかりだ。
「山崎さんはどうするの?カズ兄ィと二人になっちゃうよ」ボソッと魚屋さんが言った。
返事に窮した――わたしは、まだ入社したばかりのこの会社から転職することなど考えたこともなかった。まして、八丈リゾートはホテル子会社ではなく、会社本体に属する直営ホテルだった。
どうしてこんなにも一時に辞めてしまうか?とても不安で、そして納得がいかなくなっていた――わたしの取り巻きのメンバーは皆いい人ばかりだったこともそのことを増長させた。

しばらくして送別会が開かれた。
以前にも数回、料飲で飲み会をしていた三根にあるスナックが会場だった。
いつもは陽気なメンバーだったが、この日はさすがに皆一様に元気がなかった。
昭一さんはそれでも、場を盛り上げようと早速に十八番の「おふくろさん」を歌い出した。
「田中もうたえ~!顔がそっくりなんだから!」
魚屋さんも田辺くんも、すでに自分たちのもっと、これからの先を見つめているように感じた。
わたしは一人取り残されるような気持ちになっていた。
ふと以前、営繕の岩崎さんが言っていた言葉が頭に浮かんだ「若い人は早くこんなところは出て行ったほうがいい」
カズ兄ィはこの日は、一人ディナー営業を勝手でてくれていた。
この日から数日後、昭一さん家族、魚屋さん家族は船便で引っ越していった。
単身身軽な田中さんと田辺くんは、その数日後にジェットで八丈を去っていった。
to be continued……

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