またね!
朝、新聞をとりに玄関のドアを開けてびっくり。眼の前の南天の木の下に
大きな、灰色のカエルがいた。目のふちが黄色で、じっとこっちを見ている。
え、え、うそ!本物のかえる?」うちわみたいに大きなカエルです。あまりびっくりして玄関脇の子供椅子にドシンと尻もちをついてしまいました。
「置物じゃないよね。時々大きい兄ちゃんがいたずらするから・・・。もっとよくもようと近づいてみましたが、カエルはまばたき一つしません。なんかこわくなってきました。
「新聞を取ってきてからもう一度確かめよう」
もどってみると、
「ギャアー、移動してる!」
いちめーとるくらいは動いている。やっぱり本物だ。どこからこんな大きなカエルが来たんだろう。こわくなって思わず目をつむった。目の中でカエルはどんどん大きくなっていきます。
「ブオ、ブオ。おどろかしてごめん、ごめん。ぼくについてきて」
カエルはジャンプ、ジャンプ。時々止まってまたジャンプ。裏の大きなクスの木の下まで来て止まりました。
「ほーら、見て、この大きな穴。昨日庭師のおじさんが石をどかして、それでそのままにして行ってしまったんだ。」
えっ、木のしたにこんな大きな穴があったんだ!知らなかっらな!」
「すっかりまぶしくなってね、それで久しぶりに外の空気もすいたくなって、外に出たら顔がヒリヒリするよ」
「あれ、灰色だった顔が水色になっているよ」
「ハハ、気分そうかい!体がすーすーする」
ガサッゴソ!カマキリが出てきました。
「あれ?カマキリさん、こんなに寒くても平気なの?」
「あのときは助けてくれてありがとう。道路のアスファルト熱で体を温めていたんだ。でも、もう少しで車にひかれるところだった」
「そうだった!そのカマがこわくて、里芋の葉っぱに乗せて持って来たんだ」
「ぶじに山茶花の葉に卵を生んだから、春になったらチビさんいっぱいでてくるわ」
「カマキリさん、冬も生きていられるの?」
「うーん誰かが思い出してくれたらね」
「あれー?今度はカブトムシの幼虫さんも這い出してきた」
「ムニュムニュ」
「えーと、えーと。砂ショベルで掘り出してしまったあの幼虫さん?」
「いいや、ぼくはその子供。母さんはホックリ返されたおかげで羽化するときに苦労したって」
「やっぱりそうだったんだ。ゴメンゴメン」
「アー、もう行かなくちゃ。ベッドを誰かにとられてしまう!」
奥でなにかがもぞもぞ。
「アッ、カタツムリさん!」
「そうです。たたきの上でうたた寝していたカタツムリです」
「豆粒のように小さかったのに。トカゲにでも食べられないかと心配で心配で」
「庭にはトカゲがいっぱいいるからね」
「トカゲは笹の上で日向ぼっこしながら待ち伏せしているからね。危ない危ない!」
「こんなに大きくなって!ぼくうれしいな。ところでどうしてたたきの上が好きなの?」
「時々石やセメントが食べたくなるのさ」
「うそー、どうやってたべるの?」
「ゴジゴジとかじるのさ。あ、姉さんが呼んでる、行かなくちゃ。じゃ、またね」
その時、横からカエルが大きくお腹をふくらまして、
「ブオ、ブオ」
「カエルさんはいつもどこにいるの?会ったことないよね」
人見知りでね。雨の降る時には土の窓から外をながめているのさ。雨がやって大好きでね。蜘蛛のネットに雨がくっついてゆらゆら。ぼくも、いつかクモ糸にゆられてみたいな」
「みんな大勢で一緒にいるの?」
いや、あちこちの穴の中さ。庭師のおじさんにおどろかされて皆集まってしまったのさ」
朝のすきとおた風がだんだんぬるくなってきました。
「ブオ、ブオ。ぼく、また眠くなってきた。またね。春になったたらまたあおうね」
「うん、またね
「早く、新聞とってきて!」
母さんの声です。
目を開いて振り返ると南天の葉がサワサワとゆれて、その木の下の千両の葉がぺしゃんこ。かすかにブオ、ブオと聞こえてくるような・・・。
「春になったらね!ブオ、ブオ」
「うん、きっとだよ!」
「きっとだよ」
「きっとね」
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