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オー助

 学校帰りにギャングな友達がいつもの悪さを始めた。上段の田んぼからぶら下がっているいくつもの氷柱に石当てっこするのだ。当たると氷柱はカラカラとくずれ落ちる。なかなか当たらない。順番に投げる。ユニアの順番が来る前に、
「こら、何度言ったらわかるんだ!今日こそは捕まえてやる」
庭先で見張っていた権蔵さんだ。
田んぼに着く前に皆は蜘蛛の子を散らすようにてんでんに逃げて行った。
ユニアは足がすくんでしまって早く走れない。

「へっへ、ユニアのやつつかまるぜ!」
あっという間にもう姿もみえない。で、ユニアはさんざんに怒鳴られた。
「危険なんだよ。春先に耕すときに鍬に当たるから。皆で石を拾いに来い。お前はガ迫(屋号)の息子だな。怒鳴り込んでやる!」
困った!                                                                                                                 さすがに、昨日の今日だ。石当てっこもせず、だらだらと連れ立って学校から帰った。
とつぜん丸坊主のいっちゃんが、
「鶏って長く飛べるかなあ?」
と呟いた。
「いやー、飛べないよ」
「見たこともない!」
ユニアは黙って、オー助のことを考えていた。夜店で買ってもらったひよこ。ピンクに染められていたヒヨコ。それがすっかりでかくなって・・・、雌鶏と聞かされていたのに・・・雄鶏!
 夜店で売っているのは実はみんな雄鶏だった。騙された!しかもなんであんなに大きくなったかわからない!ふつう鶏の3倍はある。態度もデカくて鶏と思ってない! あいつ、あいつだったら飛べるかなあ?いや、重すぎる!
「ユニアはどう思う?」
「と、飛べるかも」
言ってしまった。
「飛べる?」
「証明してみせろよ」
「そうだ、オー助で証明してみせろよ」
「いつ?」
「そうだ、飛べたら権蔵の田んぼの石を拾いに行ってもいいぜ!」
「ほんとは捕まったユニアがアホだけどな!」
「いつ見せてくれるんだ?」
「冬休みのはじめの日かな」
あー、また変なことになってしまった!

オー助は鳴くときにコケコッコの後のオーだけをやたら大きく鳴くのだ。「コッコ、オオオオオオー!」と。
で、いつのまにかみんなオー助と呼ぶようになっていた。きちんと言えばいいものを、いつも説明不足で、結果、困ったことになる。

次の日から恐る恐る練習させてみた。
「飛べ!」
オー助を持ち上げてほおり投げた。オー助は、「コーオオオオオ!」と不機嫌に鳴いて、すぐ地面におちた。さらに「クオーコッコ、オオオオ!」と文句をいった。

2週間後チビガキ達は畦道に並んでいた。あー、神様、助けて!絶望が先に見えた。
「そら、飛べ!」
パタ、パサパサ!やっぱだめかー。ため息が出た。
「捕まえて来い!」
他の子が叫んだ。そのまた他の子が面白がって捕まえようとすると突っかかって行った。さらに抑え込もうとすると、オー助は飛び上がって逆アタック!さらに2人がかりでタックル。オー助は激しく叫んで、
「コッコ、オーオーオー」
飛び退いて田んぼの水に落ちてしまってびくりこん!慌てて低く飛んだ。すると風も手伝ってか、飛んだ、飛んだ!やーい飛んだ!
「ギャー、鶏が飛んだ!」
「鶏も飛ぶかぁ!」

オー助は田んぼ二枚分飛んで土手におりそこねて、そのまま川に落ちてしまった。ユニアは慌てた。死んでしまう。畦を走った。オー助は泳ぐだろうか。走った勢いでユニアまで川に落ちてしまった。茅が茂っていて縁がよく見えなかった。おー冷た!川はそう深くはなかったが、茅が土手にかぶさっていてかんたんには這い上がれない。眼の前をオー助は水鳥のように流れて行く。丸木橋の根にひっかかって、ようやく上がれた。寒!ブルブル!

子どもたちはもういなくなっていた。ユニアが 川に落ちたのを知らせたのだろう、父親が走って来た。
「あー大丈夫だったか?」
片手にタオルを持っていた。震えながら顛末を話すと、
「まず、権蔵さんには謝りに行くんだな」
「他の連中は?」
「後で考えよう」
オー助はブルブル胴震いして水をはらっていた。
その後もオー助は何事もなかったかのように知らんぷり。首を上げるとユニアの背丈と同じくらい。それを見てユニアの母さんは、
「どうしてユニアはヒクヒク弱いのだろう。オー助の後ばかりついて歩いて」
「俺に似たんだよ。大きくなれば変わるさ。俺のように」
「そうかしら」
母さんはそっけなく言った。  

夜店で買ってきた時はあんなに小さかったオー助。米ぬかを水でといて、スポイドで与えた。いつも死なないかと心配だった。今ではめちゃくちゃ大きくなって。でも卵を産まないし・・・。オー助が来て一つ良いことがあった。20羽近くいる他の鶏がけんかしなくなった。鶏は結構いじめ合う。弱いと見ると血が出るほどつつきあう。それがなくなった。どうしてかな。

朝、4時。まだ暗いうちから鳴き始める。でかい声で。早すぎる。
「コケ、コケッ、コオーー!」
母さんはいつも眠りを妨げられて、
「うるさいな!鳴いてばかりいないでさっさと卵でも産め!図体ばかりでかくなって」
だって。
さすがに卵を産むのは無理。オー助は困って鶏小屋の中を行ったり来たり。オー助が困って小声になるまで叱りつける。オー助も母さんにはかなわないのだ。

そうだ、権蔵さん家に謝りに行かなくちゃ。オー助が飛んだからみんなも行ってくれるかな。
ほんとうに俺はいつもドジ、ヘマばかりだ。やだ!!

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