ちょっと奇妙な過去日記#26ー悪だと思っているあなたは

症状は日に日に穏やかになり、私は音楽を聴いたり読書をしたりと、元の生活に返っていけるようになった。「返った」というよりは「生まれ変わった」という方がしっくりくる。「神さまとのおしゃべり」を書いた作家のさとうみつろうのサノバロックというバンドのファンになって、日がな一日音楽を鳴らしていた。

その中に、「大天使ワラエル」という曲があった。「神との対話」に出てくる章のオマージュにも聴こえるその曲は、「悪人」と言われる人へ優しく語り掛けるような歌詞だった。S先生に聴かせたいな……。症状の回復とともに、私はS先生の更生を素直に信じられるようになっていた。

「信じる」というよりは、更生をしていようが、していなかろうが、自分が犯罪者の更生を信じている思いに変わりはないという思いに素直になれるようになった。そして、重犯罪から立ち直ってくれたS先生に、自分のありのままの気持ちを伝えたいという衝動に駆られていた。

犯罪者の更生への願い。悪魔へと堕ちてしまった先生の改悛に、心からの賞賛をおくりたい。被害者も加害者も関係ないのだ。家庭内暴力に走った私は、先生と同じ過ちを繰り返す寸前だったのだから。私はS先生に「直接対面して話が聞きたい」という思いを、再び持つようになっていた。

「贖罪」というものを、今のS先生の風貌から直接感じとれたら、本当に信じられるのではという希望があった。「更生をしてくれて素直に嬉しい」という気持ちも伝えたかった。そして、やはり「なぜ犯罪者になってしまったのか」という真相をもっと究明したかった。

私は両親に、胸の内を素直に打ち明けた。母はいつも必ず私の味方をしてくれるので、父と真正面から話し合わなければならないと思った。

「お父さん。私、S先生に『更生してくれてありがとう』と直接伝えたい。よく頑張りましたね、って言いたい」

父はため息をつくと、晩酌のコップを置いた。

「なんでナオミがS先生なんかにお礼を言わないといけない」

父は声に悲壮感をにじませていた。

「私はS先生を通して、犯罪者の更生をもっと知りたいんです」

そう言うと、父から予想外な言葉が返ってきた。父は静かな目で、諭すように話した。

「S先生は立ち直って、贖罪の人生を生きているんだろう。今更蒸し返して、せっかくの更生を波立たせる必要があるのか。もしナオミが会いたいと言えば、あちらさんは従うを得ないだろう。ナオミは、そうやって一生S先生を振り回して支配するのか」

私は黙り込んだ。被害者として、先生に面会をしてもらうことは当然の権利だと思っていた。私はS先生に対して、支配者のように振る舞っていたのだろうか。知らず知らずのうちに横暴横暴になっていたと言うのなら、肩をすくめるしかなかった。「被害者の権利濫用」という言葉があったなら、今の私に当てはまるのだろうか。

それでも、私はS先生に伝えたい思いを諦めることが出来なかった。S先生が送ってくれた性犯罪加害者からの謝罪の手紙は、このまま私一人の胸の内にしまっておくにはもったいないという思いが強かった。

ブログでいいから掲載させてもらいたい。それならばS先生の許可が必要だ。そしてどうせ手紙を書くならば、自分の本心も伝えたかった。私は人生の中で出逢ってきた、「悪に対して真正面から向き合っている言葉」といえるような作品達を集めると、先生への手紙へと凝縮した。

拝啓
N先生様

こんにちは。お久しぶりです。風景に初夏の風が感じられるようになりました。ご無沙汰をしております。私からのお便りは、きっと先生の心拍数を激増させてしまうでしょうね。

昨年はお手紙のご返信をありがとうございました。あれから自分なりに様々な思いに耽り、他者に相談をし、様々な言葉を貰いましたが、殆どの人は先生のご更生を喜ばしく思っていましたよ。

さだまさしの「償い」という曲をご存じでしょうか?私はあの曲を聴くと号泣してしまいます。なぜだかは分かりませんでした。おそらく、私の中で、ずっと犯罪者像というものがあるとしたら、それは佐々木先生だったのだと思います。(表現が不躾で申し訳ありません)

私はおそらく、もうとっくの昔から先生が必ず更生して下さることを確信していたのかもしれません。ここに、「神との対話」という本の一節をご紹介させて下さい。神様と、魂達の会話という設定です。

─どんな神の一部になるか、好きなものを選んでいいよ と、わたしは小さな魂に言った。

「あなたは、神性のどんな部分を、自分として経験したいかな?」

「それでは、わたしは赦しを選びます。完璧な許しという部分を体験したいんです」

と、小さな魂は言った。

さて、想像がつくだろうが、これは少々厄介な問題を生んだ。誰も赦すべき相手がいなかったのだ。創造されたものはすべて完璧であり、愛であったから。

「赦す相手がいないんですか?」 小さな魂は尋ねた。

「誰もいない」 わたしは答えた。

「まわりを見渡してごらん。あなたより完璧でない魂、すばらしくない魂が見えるかな?」

そこで、小さな魂はくるりと見渡して、自分が天のすべての魂にとりかこまれているのに気付いて驚いた。

魂たちは、王国のはるか彼方から集まってきていた

。小さな魂が、とてつもない神との対話をするといってやってきたのだ。

「わたしより完璧でない魂は見つかりません!」 

小さな魂は叫んだ。

「それでは、誰を赦したらいいんでしょうか?」

そのとき、ひとつの魂が群衆の中から進み出た。

「わたしを赦せばいい」と、その友好的な魂は言った。

「何を赦すんですか?」小さな魂は尋ねた。

「あなたの次の物質的な人生に出かけていって、何かをするから、それをあなたが赦せばいい」

友好的な魂は答えた。

小さな魂には信じられなかった。 

これほど完璧な存在が、「赦し」を受けるような「自分を貶める」行いをするということが、想像できなかった。

「しかし、どうしてそんなことをしてくれるんですか?」小さな魂は尋ねた。

「簡単だよ」友好的な魂は説明した。

「あなたを愛しているからするんだ。あなたは赦しとして自己を体験したい。そうなんだろう?」

「『寒』がなければ『暖』もありえない。『悲しみ』がなければ、『幸福』もない。『悪』と呼ばれるものがなければ、『善』と呼ばれる体験もありえない」

「あなたが、あることを選ぶためには、それと反対の何か、あるいは誰かが、宇宙のどこかに現れないといけない」

友好的な魂はそう説明すると、小さな魂に

「最後にひとつ、忘れずにいて欲しいことがある」 と告げた。

「わたしがあなたを襲い、暴力を振るうとき、想像しうるかぎりの最悪のことをするとき……、その瞬間に……、本当のわたしを思い出してほしい」

「忘れませんとも!」 

小さな魂は約束した。

「今と同じように、完璧なあなたを見ます。ほんとうのあなたを、いつも思い出します」

そう、小さな魂は答えた

─「神との対話3」より引用終わり

この文章を先生にお送りするまでに、少々時間が必要でした。また、私自身、はじめてこの本を読んだ当時は、カッと怒りを覚えました。自分にはとても、そうは思えない、と。

ですが現在、先生にこうしてこの本を紹介できて、とても開放感のある心地になっています。先生にとって、私に手紙を送られることは、想像を絶する勇気が必要だったことでしょう。また、このお手紙をお書きになられるまでの数十年間、先生にとってもいかほどかの地獄をご体験になられたことと思います。ある部分では被害者の私より、加害者の道を選んだ先生の方が、ご心労は大きかったかもしれません。

前置きが大変長くなってしまいました。今回、先生にお便りを書かせていただいた理由は、ブログにて先生のお手紙を使用させて貰って良いかお伺いするためでした。もちろん、先生の情報は可能な限り伏せさせていただきます。私なりに思う所があり、エッセイのようなものを書きたいのですが、やはりどうしても書くならば先生の手紙を無断で載せることははばかられてお手紙を送らせていただいた次第です。

エッセイを書く最大の目的は、世界はいつか、死刑も争いも、加害者も被害者も生まない世界になれる筈だという希望を、先生からいただいたお手紙に託して、世間に放流してみたいという願いからです。「ここだけは載せてほしくない」という箇所がありましたらお知らせ下さい。

その上で、私の尊敬する言葉や歌を先生にご紹介させていただけたらと思いました。先生への三度目のお手紙でこの曲の歌詞をご紹介したかったのですが、家族に反対され、あの文面になりました。(あの時点では、あの文面も半分は私の心情でした)

出来ればYouTubeで検索してお聴きになってみて下さい。

◎ミスターデチルドレン 「タガタメ」

「ディカプリオの出世作なら

さっき僕が録画しておいたから」

「もう少し話をしよう

眠ってしまうにはまだ早いだろう」

「この星を見てるのは

君と僕と あと何人いるかな

ある人は泣いてるだろう

ある人はキスでもしてるんだろう」

「子供らを被害者に 加害者にもせずに

この街で暮らすため まず何をすべきだろう?」

「でももしも被害者に 加害者になったとき

出来ることと言えば

涙を流し 瞼を腫らし

祈るほかにないのか?

タダタダダキアッテ (ただただ抱き合って)

カタタタキダキアッテ (肩叩き抱き合って)

テヲトッテダキアッテ (手を取って抱き合って)

左の人 右の人

ふとした場所できっと繋がってるから

片一方を裁けないよな

僕らは連鎖する生き物だよ」

「この世界に潜む 怒りや悲しみに

あと何度出会うだろう それを許せるかな?」

「明日 もし晴れたら広い公園へ行こう

そしてブラブラ歩こう

手をつないで 犬も連れて

何も考えないで行こう」

「タタカッテ タタカッテ (戦って 戦って)

タガタメ タタカッテ (誰がため 戦って)

タタカッテ ダレ カッタ (戦って 誰 勝った?)

タガタメダ タガタメダ (誰がためだ? 誰がためだ?)

タガタメ タタカッタ (誰がため戦った?)」

「子供らを被害者に 加害者にもせずに

この街で暮らすため まず何をすべきだろう?

でももしも被害者に 加害者になったとき

かろうじて出来ることは

相変わらず 性懲りもなく

愛すこと以外にない」

「タダタダダキアッテ (ただただ抱き合って)

カタタタキダキアッテ (肩叩き抱き合って)

テヲトッテダキアッテ (手を取って抱き合って)

タダタダタダ (ただただただ)

タダタダタダ (ただただただ)

タダタダキアッテイコウ (ただた抱き合っていこう)

タタカッテ タタカッテ (戦って 戦って)

タガタメ タタカッテ (誰がため 戦って)

タタカッテ ダレ カッタ (戦って 誰 勝った?)

タガタメダ タガタメダ (誰がためだ? 誰がためだ?)

タガタメ タタカッタ (誰がため戦った?)」


今年に入って見つけたお気に入りの曲

◎サノバロック 「大天使ワラエル」

オイラは生まれて今日この日まで この街一番の悪だったんだ

ある日寝起きに神さまが現れたから 足にすがりつき願ったんだ

「神さまお願いです。どうかこの僕に清く美しい心を下さい。」

僕だっていつの日か 大好きなあの子の前で 胸を張って笑えるように

そしたら こらえきれず神さまが笑って笑ってこういったんだ

「きれいな心じゃない奴が 綺麗になりたいなんて思えるんじゃろか?」

よいか、その涙 よいか、その悩み よいか、その日々の全てが語る

お前は悩む、優しいから苦しむ、愛あるから傷つく、素敵だから今日も震えてる

お前が生まれるはるか昔に 天使たちを集めてワシは伝えたんじゃ

天国では分からないことを学ぶために、どうしても悪役が一人必要だと

君は覚えているかい? 白い雲の上でみんな下を向いて音が消えたトキ

お前はその手高くあげて 天使たちかき分けて強く叫んだんだ

「私が悪になる」

罪それが愛 僕の立つこの世界ではそれがルール

見える悪 見えぬ善 何をつかめばいい?

AH!国津神 天津神 どちらを信じれば

WHY? どこまでも限りなく 追わされる正解

ああでもない、こうでもない相対が惑わす二極

無いものあり、あるモノ無い こんな不思議な世界を

ハレルヤ 音に秘めて楽しむためなら カンナがら この身体味わう苦

お前は選んだその街で 仲間の天使たちと共に生まれ落ちて

時に笑い、時には互いをののしって 誰かを傷つけ その役に怯えている

良いさ、今は遊べ たとえ、何をしたってワシがその全てを許すから

君たちみんなの色は白さ だから黒くぬれる

迷えよ 悩めよ 泣けよ 天使たち

よいか、その涙 よいか、その悩み よいか、その日々の全てが語る

お前は悩む、優しいから苦しむ、愛あるから傷つく、素敵だから今日も震えてる

よいか、その涙 よいか、その悩み よいか、その日々の全てが語る

ワラエルおいで 僕らの街に ワラエルおいで 僕のうちに

ワラエルおいで 僕らの上に ワラエルおいで 僕らの横に

オイラは生まれて今日この日まで この街一番の悪だったんだ

一番の悪だと思ってるあなたは この街一番の天使だったから


大変長文を失礼いたしました。先生の心身ご負担にならないことを祈るばかりです。

どうぞお体にお気をつけて、穏やかな日々をお過ごし下さい。


                          令和五年五月八日

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